いつも印刷物を注文しているS社の担当者から、「会ってお話したいことがある」と再三電話が入っていた。
名ざしされているオトコ後輩Tがなかなかつかまらないため、敵は「紙の件で御相談したいことがあるので」と要件をちらりと小出しにした。
・・・はーん、これは値上げだな。それも「紙」のせいにするとはなかなかやるじゃないの。
そして今日、とうとう担当者がやってきた。「印刷物ご発注に関するお願い」なる書類を持って。
原燃料価格と物流費が上昇したから、製紙会社が印刷用紙を値上げしたこと。
運送業界は、労働力確保を理由に運賃を値上げしたこと。
結果、印刷会社は今の価格ではやっていけないので何卒ご理解ください、とある。
…とある。とあるだけで、具体的な値上げ案は何ら提示されておらず、単なる「お願い文」でしかないのだ。
よくよく見たら、この書類の発信者は「印刷組合」であり、S社ではなかった。
結局、組合に入っている印刷会社全部が、これを客のところにもってまわり、取引状況によって値上げ額を決めるのだと思われる。
しかし、何か釈然としない。
ある意味、これは「談合」ではないか。値上げをしない組合員は許さぬぞ、一律に値上げするんだぞ、みたいな。
それにこの「お願いだけの書類」は、持ってまわる客先も会社が取捨選択し、値上げする額も取引状況によっていくらでも変えるんだろうな、と勘繰ってしまう。
そもそもこの文書自体、値上げを製紙会社や運送会社だけの責任にして、「印刷会社も被害者です」と言っているようにとれる。
値上げの理由はわからなくもない。だから組合連名のお願い文などではなく、S社が「お宅はこれだけ値上げさせてほしい」とストレートに言った方が、私たちも納得するのに。
S社の担当者は、次、具体的な値上げ案を文書にして持ってくるのだそうだ。
しかし今日、持ってこなかったということは、「値上げ?承知できぬ」と言ったら、回避できたのだろうか ―― などと疑ってしまい、やっぱり全然釈然としない。