雨の日は会えない、晴れた日は君を想う(原題名:Demolition '17年3月テアトル梅田) | Que amor con amor se paga

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先週観に行ってるのに(汗)やっとかけた~(おい)

能天気な映画を観たくない心境だったもので、自腹でも考える事が多い映画を観てきました。

『ダラス・バイヤーズ・クラブ』の監督、主演のギレンホールとクリス・クーパーは 『遠い空の向こうに』以来の共演。

予告編はこちら、あらすじいってみる



デイヴィス(ジェイク・ギレンホール)は、ウォールストリートの銀行員

コネで投資会社に入社し、30代半ばで出世コースに乗り、社長のフィル(クリス・クーパー)の娘ジュリア(ヘザー・リンド)と結婚。
地位も名誉も手に入れたにも関わらず、味気ない日々を送っていた。

美しい妻に何を言われても右から左。
今日も職場まで妻に車で送ってもらう道中、水漏れしている冷蔵庫の修理を頼まれていたが、 それも上の空
スマホ片手に、今日の相場をチェックし、部下に指示を出していた。
彼にとって妻は『居て当たり前の存在』、空気のようなものだった。

しかし、ある日2人は交通事故に遭い、ジュリアは頭部を打って即死。
デイヴィスは、哀しむ事すらできず、淡々と妻の葬儀を済ませ、両親やフィルが休養を取れという言葉にも耳を貸さず、出勤し、いつもの様に仕事をこなし始めた。
その様子に秘書のエイミー(ブレア・ブルックス)は、あいた口が塞がらない。

エイミーをもう1つ驚かせたのは、妻が亡くなって以来、デイヴィスの元に変わった手紙が届く事だった。
それは菓子の自動販売機メーカー・チャンピオン社の顧客部門からで、まさか返事が来ると思っても居なかったデイヴィスは慌てる。

実はデイヴィスは妻が亡くなった日の晩、病院の自販機でチョコを買おうと思ったが、自販機が故障して出てこなかった。

自分の人生が殆ど思い通りになり、出世コースも歩んできた彼にとって、妻の死の後は、たとえ自販機の故障でも、おおらかに見る事も出来なくなっていた。

彼は、半ば八つ当たりも含め、自販機の顧客担当に、自販機からチョコが出てこないという一文だけでなく、自分の生い立ちから、通勤の道中など、関係ない事まで、手紙にぐだぐだ書いて投函してしまったのだ
どうせ読んでいないだろうという目論見である。

それが顧客担当のカレン(ナオミ・ワッツ)から丁寧かつ心のこもった手紙が届いてしまい面食らったデイヴィスは、それ以来、顧客担当にクレームを入れるフリをして文通をする様になる。

カレンが、チャンピオン社の社長で恋人のカール(C.J.ウィルソン)からDVを受けているシングルマザーであり、思春期の息子クリス(ジュダ・ルイス)は、授業中に政治に対する問題発言をした為停学処分を喰らっている事を知る。
その苦しみから逃れる為に大麻に手を出してる事も知り、自分だけが、誰からも理解されない哀しみの淵にいるわけではないと、癒されるデイヴィスだった。

しかし実生活では、デイヴィスとフィルら、社員の溝は深まるばかり。
元々フィルはデイヴィスを好いてはおらず、業績だけ評価していた。

そのデイヴィスから業績をとってしまっては、何も残らない。

フィルは、ジュリアの遺産で、経済的に恵まれないが才能を持つ学生の奨学金を立ち上げようとしていた。
だがこれには役員全員のサインが必要だった。
デイヴィスは、内容に目を通したものの気が進まず、本当に自分のやりたい事が、これだったのかもわからず、放置していた。
そんな踏ん切りのつかない態度を示す、義理の息子にフィルは

『心の修理も車の修理も同じことだ。まず隅々まで点検し、組み立て、なおす事が大事だ。』

と、伝える。

デイヴィスは、ジュリアが亡くなる前に、冷蔵庫の修理をしてくれと頼んでいたのを思い出し、冷蔵庫を開けてみた。
しかしどこをどうあけていいのか判らないデイヴィスは、冷蔵庫の仕切りを力任せに引き出しただけで、冷蔵庫そのものを壊してしまう。
これでは義父が言った心の修理も車の修理も同じ事にはならない…
そう考えたデイヴィスは、身の回りにある物を、工具を使って次々、解体し始めた。

自分のパソコン、会社のトイレ、妻のドレッサー…きっかけは、パソコンの動きが悪かったから、会社のトイレの扉が開きにくかったから、 ドレッサーの電球が付いたりつかなかったりしたから…

日常にある様々な問題を、解体する事で解決しようとするデイヴィスに理解を示そうとするフィルだが、デイヴィスの心は、ますますフィルを 始めとする周囲の人々から孤立していった。

デイヴィスは、やがてカレンの息子クリスの人生の迷いにも相談に乗る様になり、彼の迷いの中に、かつての自分を見出す様になる。

ある日、彼はカレンの家の近くの解体現場を通り解体屋のジミー(ウェス・スティーブンス)に金を払ってまで解体を手伝わせてもらう。
そこで彼は、妻への思いや哀しみを清算し、人生をやり直す為には、家を壊すしかないと思い、クリスと共に工具を買いに行き、ブルトーザーまで買い、 家を壊しにかかるのだが…

以下ネタバレです

予告では、デイヴィスが、いきなり自分の家をブッ壊してるので(爆)あれが最初のシーンなのかな~と思ったら、そうではなくて、自宅を壊すシーンは、 割と後の方に出てきました。

自宅を壊している最中で、デイヴィスが見つけたのは

亡き妻からの思いやり

…なワケです

デイヴィスは、家を解体する前に手足のしびれを訴えて、医者に行きレントゲンを撮って貰うのですが、自分の心臓が半分欠けているのを知る。
彼はリビングを解体している最中に、クローゼットから同じ診断結果を見つける。
それは昔、ジュリアがデイヴィスに見せたものかもしれないが、デイヴィスは

忙しいから後にして

…と言ったものの一つだった。

ジュリア亡きあと、デイヴィスの両親が、ジュリアから頼まれていたと芝生にマイマイガ駆除の薬品を撒いていたが、それは 彼が心臓病を持っていたから、万が一の事があると、発作を起こして死んでしまうと、ジュリアから聞かされていたからだった。

ジュリアが生きている間に見えなかったものが、家を解体した事によって、見えてくる。

そこに行き着くまで、デイヴィスは様々な段階を踏む。

最初は『悲しみや疑問、憤り』と言った感情に向き合う事も封印していたデイヴィス。
感情も封印してただ黙々と金の貰える仕事にだて没頭していた。

彼が感情に向き合うきっかけになったのは、通勤電車の中。

いつも顔を合わせるブルーカラーの男ジョン(ジェームス・コルビー)に、どこに勤めているのか毎日の様に同じ事を聞かれ、うんざりし、 適当に答えていたデイヴィスは、妻に先立たれしばらくした後

電車の緊急停止レバーを引いてしまう。
自分の思考を停止する為に、余計な事を考えると、仕事ができなくなるじゃないかと。
鉄道警察に連れていかれる前に、彼はジョンに、本当は金融業者に勤めている、お前からみれば超イヤミな男なんだと、吐き捨てる様に ぶちまける。

だが、デイヴィスが想定したのとは違いジョンは、自分は前の職場をクビになって掃除夫になった事を言えてよかったと、 デイヴィスに打ち明ける。
思えば、この時から、デイヴィスの『心の清算』は始まっていたと言っても過言ではない。

その後、デイヴィスは身の回りにあるものを、解体し始め、周囲を驚かせ、自販機からチョコ一つ出てこなかったというだけでストーカーまがいの 手紙を苦情係に書き、まさかの返事が来て、面食らう事になる。
そして苦情係の女性とその子供がまた、彼の人生を救うキーポイントとなる。

おそらくデイヴィスは

周囲の期待に応えて就職、結婚、自分を作り上げた人生を送ってきた

のではないだろうか。

それは、どれもデイヴィス自身ではない。

プライドが高く楽をしたい男の見栄に過ぎないからだ。

パーティーで見つけた社長の美しい娘と結婚し、自分が望んだわけでもない『アメリカン・サイコ』のような瀟洒ないかにも成功者の家に住み、 彼は幸せの実感がわかなかった。

そんな彼が、妻の死に遭遇し、次に彼の目の前に現れたのがクリスだった。
クリスは、デイヴィスが自分自身を失い、生きる方向性を見失かった頃の分身でもある。

毎日破天荒に行きつつも、どこに行こうか、行くべきか判らずエネルギーをもてあまし、家でハードロックのドラムをたたき、 自分自身の身の置き所に悩んでいる

クリスの他にも、デイヴィスの前には『こんなはずじゃなかった』と思い悩む人間が現れる。
カレンに大麻を売る売人だ。

欧州から流れ着いた年老いた売人は、アンティークの回転木馬の持ち主で、これを維持する為に大麻を売り続けているという 本末顛倒した生き方をしている。
そこでデイヴィスは、投資行員として、1人の人間として、この老人の本当の夢をかなえようとする。

デイヴィスが、自分自身の再生と人生の清算の為に、迷走している間、彼の義父でジュリアの父・フィルは、デイヴィスに構わず、 ジュリアの遺産で奨学金制度を作り、奨学生の選考に入ってた。

最終的に、フィルが選んだのは3人の奨学生ジェニファー(B・バスチャン)、スティーヴィン(ベン・コール)、トッド(ブレンダン・ドーリング)の3人。

記念パーティの席に、カレンを連れて臨席したデイヴィスだが、カレンは奨学生の一人トッドに大麻を強要されセクハラまで受けた。
パーティーの席から泣き出し逃げ出してしまうカレン。
奨学金の選考基準が人格者を選ぶものでない事を知ったデイヴィスは、愕然とする。

一方、フィルはジュリア以外の女性を連れ込むなんてとデイヴィスに激昂するが、デイヴィスが奨学金制度にサインを渋っていたのは理由があった。
彼はジュリアが妊娠していたのを書類で初めて知ったのだった、しかもジュリアの母から自分の子供でない事も知らされていた…。

彼は奨学金書類にサインすると、会場を後にしカレンの後を追う。

カレンは病院に居た。
クラブに派手な格好で踊りに行ったクリスが袋叩きに遭い瀕死の重傷となったのだ。
病院まで行ったものの、遠目で見守るデイヴィス。

後日、デイヴィスは今までの非礼、そして自分自身を取り戻す為に時間がかかり、迷惑をかけた事をフィルに詫びた。

そして、自分が本当にやりたい事。
老人の回転木馬を復活させたい事をフィルに伝えるとフィルは快諾してくれた。

心の整理がついたデイヴィスは、妻の墓参りに行くと、いつも自分を付けてきた古いワゴンの車が、またとまっている事に気付く。

あの日もそうだった…事故の日も…葬式の日も…カレンと出逢った日も…

『お前だよな』

男は、黙ってジュリアの位牌に花束を捧げた。

マイケル(アルフレッド・ナチソ)と名乗る男は、あの日、車にぶつかってきた男だった。

ジュリアを奪った男が目の前に居るというのにデイヴィスは不思議と怒りは湧いてこなかった。

そして映画のエンディングは、復活させた回転木馬に乗るフィルやデイヴィス、そしてジュリアの幻影。

自分の人生を清算し、取り戻した彼の元に、怪我を治したクリスから手紙が届く。
埠頭に午前11時に待っててと。
すると廃墟となった湾岸の倉庫が爆発し、突然崩壊した。
それを見て騒ぐヤジウマたちの中にデイヴィスが居て、それを双眼鏡で 確認するクリスが映り

『デイヴィス、とんでもないサプライズ用意したからね』

という所で映画は、終わる。

映画の中で、デイヴィスは、何故結婚したの、と聞かれて

楽だから

…と答えている

人間は何かにつれ、そっちの方が楽だから楽しいから

という理由で、その道を選んでいる人が大半なのだろうと思うし、悪いけど、そういう人に振り回されるといい気はしない。

そういう『楽だから』で、生きる道を選んでいる人は、デイヴィスの様に、深く考える事を封印してしまってるのだと思うのだ。

デイヴィスは、妻の死をきっかけに、今まで向き合わなかった感情的な事全てに向き合わざるを得なくなる。
でもそれは当然の 試練なのだと思う。

そんな中、彼は車に乗ってふと気づく
それがこの映画の邦題名になっている

『If it's rainy,You won't see me,If it's sunny,You'll think of me(雨の日は逢えない、晴れた日は君を思う)』

これって、晴れの日は(日よけ降ろすから)私に気付くよね)』

たまには仕事や自分の事ばかりじゃなくて、思い出してよね、というジュリアのメッセージじゃないだろか?

主演のジェイク・ギレンホールは、前作 『ナイトクローラー』ではキモいぐらい激ヤセして、事件に対して無感覚なパパラッチを演じたけれど
今回の役もそれに共通するんじゃないかと思うのだ。

テイラー・スウィフトと破局した後に、彼が選んだ作品が、この2作なのだけど(涙)

思うに、彼自身の清算のドラマだったかもしれない。