『法然上人の思い(御遺跡について)』 | 浄土宗長福寺のブログ

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埼玉県深谷市の浄土宗長福寺のブログです。おもに『今月の言葉』を毎月1日に公開します。

 さて、今月は、法然上人の思い、お念仏をお称えする私たちに残した思いを見ていきたいと思います。

 

 法然上人の御法語に

法蓮房申さく、古来の先徳、みなその遺跡あり。しかるにいま、精舎一宇も建立なし。御入滅の後、いずくをもてか御遺跡とすべきやと。

上人答え給わく、あとを一廟にしむれば、遺法あまねからず、予が遺跡は、諸州に遍満すべし。ゆえいかんとなれば、念仏の興行は愚老一期の勧化なり。されば、念仏を修せんところは、貴賤を論ぜず、海人・漁人がとまやまでも、みなこれ予が遺跡なるべしとぞおおせられける。

【御遺跡の事につき法蓮房に示されける御詞・昭法全722】

 

訳:法蓮房信空上人が法然上人に申し上げました。「古来、高僧方はどなたにも、弟子に残された遺跡寺院というものがございます。ところが上人は堂宇の一つもお建てになっていません。上人が往生なされた後は、残された私たちはどちらをご遺跡とすればよろしいのでしょうか」。

 これに対して法然上人がお答えになりました。「遺跡を一ヵ所に定めてしまうと、お念仏の教えが遍く広まることはないでしょう。私の遺跡は日本中、いたるところにあるのです。なぜならば、称名念仏の行を広めていくことが、私が生涯をかけてすすめてきたことだからです。ですから、お念仏の声するところは、身分の高い低いに関わらず、海人や漁師などが使う簡単な小屋にいたるまで、どこもみな私の遺跡となるのです」と。

【法然上人のご法語③ 対話編 289P 浄土宗出版局】

 

 浄土宗では、総本山知恩院を始め、大本山増上寺、金戒光明寺、百万遍知恩寺、清浄華院、善導寺、光明寺、善光寺大本願等の大寺院があります。特に、知恩院は法然上人の御廟があり、浄土宗の総本山となっております。

 しかし、これは、法然上人の御往生以後に弟子等が尽力し、建立していった寺院であります。法然上人が生前に建立した寺院というのものはないのです。そこで、弟子の信空上人が、どこを拠り所に、お念仏を教え、伝えていったらよいかと聞かれました。

 法然上人は、「遺跡を一ヵ所にしてしまえば、お念仏が広まっていくことはないでしょう。定めないからこそ、お念仏は全国に広がります。そして、お念仏をお称えする声がある場所は全て私の遺跡です」とおっしゃられました。

 法然上人は、ご生涯を通じて、お念仏を広め、一人でも多くの人がお念仏を称え、阿弥陀様の極楽浄土に往生できるようにと布教されていました。これは、自身の名誉のためでもなく、ただ多くの人が救われるようにという、心からの慈悲によるものであったのです。

 現在は、法然上人の教えを正しく守り、伝えていくために、各本山等があります。それでも、法然上人がおっしゃられたように、お念仏をお称えすれば、皆様の自宅も法然上人の御遺跡となるのです。どうぞ、法然上人の教えを受け継ぎ、お念仏に励んでいただければ幸いです。

合掌