CAHIER DE CHOCOLAT -6ページ目

最後にジェームズ・ボンドを演じる前、ショーン・コネリーはあのファンタジー映画で真の王を演じていた

[ORIGINAL]
Before His Last Bond Movie, Sean Connery Was a True King in This Fun Time Travel Fantasy
https://collider.com/sean-connery-time-bandits/

最後にジェームズ・ボンドを演じる前、ショーン・コネリーはあの楽しいタイムトラベルファンタジーで真の王を演じていた


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1980年代はファンタジー映画の黄金期だった。しかし、その中で見過ごされがちな作品がある。テリー・ギリアム監督の*『バンデットQ/タイムバンディット』。脚本はギリアとマイケル・ペイリンの共同執筆。ペイリンは、ギリアムとともに『空飛ぶモンティ・パイソン』を制作したモンティ・パイソンのメンバーのひとりだ。
(*『Time Bandits(原題)』は、1983年の日本公開時には『バンデットQ』というタイトルがつけられていました。現在、Prime Videoでは『タイムバンディット』となっています)

主人公の少年・ケヴィン(クレイグ・ワーノック)は、6人の小人たちに出会い、彼らと時空を超える冒険の旅へと飛び込むことになる。小人たちは時空の裂け目の修理屋として創造主(ラルフ・リチャードソン、声:トニー・ジェイ)に仕えていたが、自分たちの持っている裂け目「タイムホール」の場所を示した地図があれば、歴史上の金持ちから財産を盗むことができるということに気づいたのだ。残念ながら、手っ取り早く金もうけをしようという彼らの作戦は世界の悪の具現である悪魔(デビッド・ワーナー)に監視されており、悪魔は小人たちの持つ地図を奪って脱獄することを企てていた。

この映画には、モンティ・パイソンのジョン・クリーズ(ロビン・フッド役)、イアン・ホルム(ナポレオン・ボナパルト役)、キャサリン・ヘルモンド、ピーター・ヴォーンなど、素晴らしい俳優陣が出演している。しかしながら、キャストの中でも最大のビッグネームはショーン・コネリーだ。当時、コネリーは最後の“ジェームズ・ボンド”映画への出演を控えていた。『バンデットQ/タイムバンディット』の2年後に公開されることになる『ネバーセイ・ネバーアゲイン』だ。『バンデットQ/タイムバンディット』のコネリーの出演時間は長くはない。しかし、彼はこの映画のことを心から考えていた。この作品での彼の演技が映画史上における最も印象的な演技のひとつであり続けているのは、その気持ちがあったからこそなのだ。また、この映画が可能な限り効果的になるように、コネリーはギリアムの制作の手助けもしていたという。



テリー・ギリアムはショーン・コネリーが『バンデットQ/タイムバンディット』に出演してくれるとは思っていなかった

コネリーの『バンデットQ/タイムバンディット』への出演は、最初はギリアムとペイリンの間でのジョークのようなものだった。古代ギリシャにやってきた少年ケヴィンは、そこでミノタウロスと戦うアガメムノン王の姿を目にする。野獣を倒したアガメムノンはヘルメットを取る……脚本のその箇所には、「ほかでもないあのショーン・コネリーか、同クラスの俳優、でももうちょっと出演料の安い人」と書かれている。ギリアムとペイリンは、かの有名なコネリーが自分たちのプロジェクトに参加してくれるなどとは思ってもいなかったのだ。

幸運なことに、映画業界というものは不可能を可能にするつながりで成り立っている。この映画のプロデューサーは、元ビートルズのジョージ・ハリスンのマネージャー、デニス・オブライエンだった。オブライエンが設立したHandMade Filmsは、パイソンズの映画『ライフ・オブ・ブライアン』の制作会社だった。ある日、オブライエンはコネリーと一緒にゴルフをプレイしているときに、『バンデットQ/タイムバンディット』の話をした。パイソンズのファンだったコネリーは、脚本を読み、プロジェクトへの参加を決めた。売上総利益の分配のことを考えて、出演料は申し訳程度の額であることにも同意した。

ショーン・コネリーはテリー・ギリアムの制作に関する決定を助けてもいた


Image via HandMade Films (Distributors) Ltd.

コネリーは古代ギリシャのシーンの撮影のためにモロッコにやってきた。ギリアムにとっては、彼の出演は非常にありがたいことだったが、映画をうまく作ろうとするあまり、圧倒されてもいた。ギリアムはのちに次のように語っている。「彼は文字通り僕を助けてくれました。ショーンは僕のストーリーボードを見て、言いました。『そのことは忘れよう。これはむりだろう』と。だから、僕はそこに書いてあったものはやめることにしました。彼が言うことにはなんでも、「イエス、サー」です。急に、すごい経験を持つ、素晴らしい俳優の手にゆだねられているような気がしてきました。僕の野心ではなく、彼の現実的な考え方のおかげで、初日を乗り切ることができたんです」 カットされたシーンの中には馬に乗るアガメムノン王のシーンもあったが、それはコネリーがばかげたものになると思ったシーンだったそうだ。

コネリーの協力をもってしても、残念ながら、出発前に必要なシーンをすべて現地で撮影することはできなかった。そのため、エンディングを作り直す必要が出てきた。当初は、アガメムノンは悪魔と戦うケヴィンを手伝い、その途中で命を落とすことになっていた。自身の演じるキャラクターの行末を知ったコネリーは、「クライマックスのあと、倒壊する家からケヴィンを救出する消防士のひとりとしてアガメムノンが再登場したら、もっと楽しくできるのではないか」と意見を述べていた。

おもしろいことに、提案されたこの意見は最終的に取り入れられることとなった。ラストシーンのケヴィンと倒壊した家のパートを撮影するためにイギリスに戻っていたギリアムと彼のクルーは、コネリーが会計士とのミーティングのために近くにいることを知ったのだ。車でやってきたコネリーは、消防士の衣装を身につけ、ケヴィンを救出し、何かを伝えるようなウィンクをして、去っていく。これによって、映画は夢と現実の間の空間に残されたような感覚となっている。ふたつの世界はあまりにもうまく統合されているため、あれが最後につけ加えられたシーンだと気づいた観客はほとんどいなかっただろう。

ショーン・コネリーは『バンデットQ/タイムバンディット』にハートを入れた





『バンデットQ/タイムバンディット』にコネリーが出演している時間は長くはない。しかし、彼はこの作品のことを驚くほど思っていた。その思いが、彼の出演シーンを際立ったものにしているのだ。実際の家庭が理想的とはいえないケヴィンにとって、アガメムノンは父親のような存在となっている。彼の両親は物質主義者で、自分たちの息子のことよりも、裕福さの象徴となる高価な電化製品のことばかり気にかけている。彼らがいつも観ているのは『Your Money or Your Life(金か人生か)』というタイトルのひどいクイズゲーム。まさに、逃走を企てている悪魔が「すべての人間をこういったものに変えたい」と思っているようなタイプの人たちなのだ。





それとは対照的に、アガメムノンはとしてふさわしい人物だ。ケヴィンが出会ったとき、アガメムノンは王国の人々を恐怖に陥れる危険な怪物と戦っているところだった。彼はケヴィンのおかげで怪物の注意を逸らすことができた。ケヴィンがひとりぼっちで、助けが必要だと気づいた彼は、ケヴィンを自分の街に連れてかえり、さらには、養子にして自分の後継者にするとまで言う。つまり、アガメムノンはケヴィンが冒険で手に入れたいと思うすべてを体現している人物なのだ。彼はケヴィンが「こんなお父さんだったら……」と思うような父親。自分のことを気にかけてくれて、わきに追いやるのではなく、嬉しい気持ちにさせてくれる人。そして、そのすべての中心にあるのはコネリーという存在だ。彼の落ち着いた声、フレンドリーなウインク、明るい気質、そういったものすべてが驚くほど見事に機能し、限られた登場時間のアガメムノンにキャラクターとして非常に多くの性質を持たせている。コネリーは自身が演じるキャラクターをさらに良い父親像にするために、ケヴィンに手品を披露してみせるなど、いくつかの提案もしている。これはコネリーの最高の役のひとつとまではいえないかもしれないが、彼の出演は『バンデットQ/タイムバンディット』という作品に温かさや軽やかさを加えることに一役買っており、この過小評価されているファンタジー映画のハイライトであり続けているのだ。



『バンデットQ/タイムバンディット』は現在、Prime Videoで視聴可能。





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*(* )の部分は加えています。
*リンク先は英文です。




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『バンデットQ/タイムバンディット』は日本でもプライム会員特典として視聴可能です(2024年7月4日現在)。本文の途中にも註を入れたように、なぜかタイトルは1983年の日本劇場公開当時の『バンデットQ』ではなく、『タイムバンディット』に変わっています。実は、Amazon Primeには『バンデットQ』のタイトルのままのものもあるのですが、「このビデオは、現在、お住まいの地域では視聴できません」となっています。タイカ・ワイティティ監督でリメイクのドラマシリーズの製作が進行しているようなので、わかりやすくするためなのかもしれません。もともと『バンデットQ』の「Q」に意味はなかったようですし、『タイムバンディット』としても問題はないとは思いますが、その無意味さが当時の空気を表わしているようなところもあって、それはそれでおもしろかったんですけどね。


『タイムバンディット(バンデットQ)』は大好きな作品です。この記事を訳している途中にまた観たけど、やっぱりいいな〜!と思う。今、マイケル日記の2巻(1980年代)を読んでいるところで、それによると、この映画の脚本の執筆はするすると進んだわけでもないようです。でも、そんなことは感じさせないくらいおかしい。というか、まあ私が割ときれいにまとまっているものより、でこぼこいびつなぐらいのもののほうが好きだからかもしれないけども。はちゃめちゃ具合や意表をつくキャラクターが楽しすぎる。ヘイゼルが担当している衣装もいいし、エンディングも最高。そのエンディングで重要な部分、かつ、私の大好きな部分がショーン・コネリーの提案であとからつけ加えられたところだったとは、ほんとうに驚きました。こういう、良いと思ったら、抵抗なく人からの提案を取り入れたりするテリーGの柔軟さや素直さが私は非常に好きです。

ところで、改めて観直していて気づいたのですが、ケヴィンの両親が座っているイスにはビニールがかけてあって、悪魔のすみかでもすべてのものにビニールがかけてあるんですよね。最初観たときは気づいていなかった。なんとも意味深な一致。




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