CAHIER DE CHOCOLAT -7ページ目

パスト ライブス 再会(Past Lives)


幼いながらも両思いだったナヨンとヘソン。でも、12歳の時、ナヨンはカナダへ引っ越してしまうことになる。その12年後の再会と別れ、さらにその12年後の再会までの24年間が描かれる。中心となるのはナヨン、ヘソン、そして、ナヨンの夫であるアメリカ人のアーサーの3人。このあとには、ネタバレになると思われる内容を含みます。

まず全体を通して感じたのは、ヘソンがとても幼く描かれているということ。ナヨン(英語名はノラ)はカナダへの移住後、仕事のために移り住んだニューヨークにアーサーとともに住んでいる。ヘソンは現在も韓国で両親と住んでいる(これはもちろん国による違いもある)。服装も、おでこを出したボブヘアに大人っぽい素材のラフなシルエットの服やちょっとアヴァンギャルドな黒い服のナヨンに対して、ヘソンは大学生のようなシャツとスボンにナイロンのリュックサック。それでいて、そのかっこうとは若干アンバランスに感じるほど、体格はしっかりしていて、背も高い。こういった部分を「韓国的な男性っぽさ」として、ナヨンがアーサーに語るシーンもある。アーサーは穏やかで、理解があって、かつ、率直。ナヨンがヘソンに会いにきたことを不安を感じつつも、それを隠さず口にし、ヘソンにも終始感じよく接する。その態度に嘘っぽさはない。そんな3人の姿を見ていると感じた。作品中では「Past Lives」ということばは「前世」という意味で使われているけれども、「12歳の別れまで」と「24歳の再会から別れまで」の、ナヨンがヘソンと過ごした日々は彼女にとってはすでに「過ぎ去った日々」なのだ、と言っているのかもしれない、と。少年の頃からの思いを心に抱いたままのヘソンにとっては、ここまでの24年間はすべて「現在」。でも、ナヨンの視点から見れば、彼はある意味「過去」を生きているともいえる。ニューヨークのバーのカウンターで、英語が少しだけわかるヘソンと韓国語が少しだけわかるアーサー、その間に、両方の言語に堪能で、両方の文化を自分の一部とするナヨンが座っている。それぞれが色々な思いを抱きながらも、3人とも感情的になることもなく、静かに大人らしくふるまう。どのシーンでも、画もセリフも美しい。それでも、ただ素敵とうっとりはできないような痛みを感じてしまう。何度も出てくる「イニョン(縁)」とか「チョンセン(前世)」といった、場合によってはロマンティックにも響くことばが、そんなスウィートなものには聞こえなかった。そもそも12歳の別れの時、ナヨンはヘソンへの気持ちを残してはいなかったのではないだろうか(SNSでの再会も偶然にすぎないのだし)。これは予告編などで演出されているようなラブストーリーではなく、カナダとアメリカで移民として懸命に生きてきたノラの物語なのだな、と私は思った。最後の彼女の涙は、叶わなかった「childhood first love」に対してではなく、あの時からこんな遠く離れたところまできた自分、そして、ヘソンのいるあの場所に戻ることはもうないのだ、という気持ちがあふれてきたからなのだろうと思う。