(どうしよう、何で私……)
自分がしたことの衝撃に苛まれながら、私は旅館の玄関で散策用の下駄をお借りした。
動揺しているのに頭のどこかだけは妙に冷静で、自分の靴を出してもらっているうちに春に追いつかれてしまう気がしてしまった。
(こんなことになるなんて、この玄関をくぐった時は思っても見なかった……)
自分のせいなのに、そんなことを思って私は外へと駆け出した。
旅館を飛び出してすぐに、私はハイキングコースの案内看板を見つけた。
すぐ先には温泉街があるけれど、自己嫌悪に苛まれた気持ちでは観光客の人々であふれる場所には近づく気がしなかった。
(人のいないところで、冷静になりたい……)
その一心で私は、日の傾き始めた山道を登り始めた……。
一はハイキングコースの紅葉に染まる木々を見るだけでも心が静まるような気がしていた。
けれど陽が傾きかけていたことで、辺りはどんどん薄暗くなり、足場もあまりよくない山道を歩くことが少しずつ大変になって来る。
彩「……」
(春、すっごく驚いた顔してたな……)
今も脳裏にハッキリと浮かべられる、春の戸惑ったような驚いた顔に唇を噛む。
せっかくの楽しい旅行で、私の勝手な気持ちだけで暴走してしまった。
(あんなこと、いちいち考えたって仕方がないのに……)
そう思う反面で、あの時はどうしようもなく女将さんと春だけが共有する懐かしい昔話に、嫉妬のような気持を抱いてしまったのだと思う。
彩「もう嫌だ、……っ!?」
自業自得の自己嫌悪でいっぱいになって、大きな溜息を吐いた瞬間、ガツッと足が地面の木の根に引っかかった。
(わ、転ぶ……!)
そう思った時にはもう、地面に手をついて私は倒れ込んでいた。
彩「……本当に私、何やってるんだろ……」
私がどう思ったかなんて言葉にしなければ、春には伝わるわけもない。
それなのに感情のままに行動して、嘘までついて情けなくて飛び出した。
(私の勝手な行動で、春には迷惑ばっかりかけてるな……)
力ないままに笑うしかなくて、そっと起き上ろうと着いた手に力を込めると、ずきっと右手首に鋭い痛みが走った。
彩「痛い……」
(とっさに手をだしたから、ひねっちゃったんだ……)
ますます情けない気持ちになって、私は無事な左手だけで体を起こす。
一瞬だけ、今日はついていないなんて思いかけて、私の思わぬ言葉と行動に戸惑うだけの春の方がそう思ってる気がした。
(いくら何でも勝手すぎるよ……私)
今度は自己嫌悪と、自己反省で思考がグルグルとしてくる。
そんな気持ちに合わせたように、じわじわと地面に着いた時に一緒に出来たらしい、擦り傷まで鈍く痛み始めた。
彩「あ、血……」
じんわりと滲みだす血は、薄暗くなり始めた夕方の光の中でも分かった。
(今日の私は、色々とどうしようもないなぁ……)
傷口を押さえようと、ポケットからハンカチを取り出す。
彩「……!」
その途端、ハンカチの間に挟んでいた何枚かの紅葉がヒラヒラと落ちていく。
(あ……)
春とふたり、旅館に入る前に立ち寄った庭園での記憶がよみがえる。