その夜、私はキッチンを借りて、ナギさんに渡すチョコレートケーキを作り終えた。
ユウ(材料、買いに行ってる暇がなかったけど……)
ユウ(ツムグさんがこっそり分けてくれてよかった)
リン「ユウさん、できた?」
ユウ「リンさん!いま完成したところです!」
りん「よかった!」
リン「あのね、実は私……ツムグについていくことに決めたの」
ユウ「えっ?」
リン「ツムグも、そうしてほしいって」
ユウ「そうですか……よかったですね!」
リン「うん、妻としてツムグを支えていけるように私も頑張るつもり」
リン「ユウさんは、これからナギさんにそれを渡すのよね?」
ユウ「はい。どこかに呼び出そうと思って」
リン「あ!それなら……」
ユウ「えっ?」
リンさんがさっきまでツムグさんと会っていたという、巨大なかまくらの中で、私はナギさんがやってくるのを待っていた。
ユウ(ロッジの外に、こんなのができてたなんて)
ユウ(バレンタインイベントの一環で作られたっていってたけど)
ユウ(幻想的な雰囲気……ナギさん、早く来ないかな)
ナギ「ユウ?」
ユウ「あ、ナギさん!呼び出しちゃってすみません」
ナギ「……いや、ちょうどお前を探してた」
ユウ「私を?」
ナギ「ツムグとリンさんの結婚祝いの宴をやるらしい」
ナギ「……船長が祝いの宴は久々だって盛り上がってる」
ユウ「そうだったんですね」
ユウ「っていうか、ナギさん……」
ナギ「……?」
ユウ(ナギさんの顔、ちょっと赤い……?)
ユウ「もしかして、もうお酒飲んでます?」
ナギ「ああ、ワインを3本くらい」
ユウ「ワイン3本!?」
ナギ「あいつらに急かされてな…」
ナギ「一気にあおったから、珍しく少し酔った……」
ユウ(ワイン3本で「少し」なのがすごい……)
ユウ(普通なら倒れちゃってるよ)
ナギ「かまくらは、意外に中があったかいんだな」
ユウ「はい……でも、ロッジに戻りましょう」
ナギ「なんでだ?」
ユウ「だって、酔ってるのに外にいたら、風邪ひいちゃいますよ」
立ち上がろうとすると、ナギさんが私の手をつかんでそれを止める。
ナギ「……もう少し」
ナギ「……お前と2人でいたい」
ユウ「え……」
ユウ(ナギさんがこんなこと言うの、珍しい……)
ユウ(それに、手が熱い……酔ってるから?それとも……)
ユウ「あ、あの…私、ナギさんに渡したいものがあって」
ナギ「なんだ?」
ユウ「バレンタインのプレゼントです」
ユウ「ナギさんが作ってくれたケーキの足元にも及びませんけど……」
ケーキが入った箱を渡すと、ナギさんが目をみはる。
ナギ「わざわざ、俺に?」
ユウ「はい……あの、気持ちだけはこもってますから!」
ナギ「……ああ」
箱の中に入っていたハート形のチョコレートケーキを見て、ナギさんが、優しく微笑んでくれた。
ユウ「それじゃ、切りましょうか!ナイフも持ってきたんですよ」
ナギ「ちょっと待て」
ナイフを取り出すと、なぜかナギさんがそれを止める。
ナギ「……切るのがもったいない」
ユウ「えっ?」
ナギ「目に焼きつけるから、もう少しこのままにしておけ」
ユウ「そ、そんな大層なものじゃ……」
ナギ「……いいんだ」
じっとケーキを見つめるナギさんが、なんだかかわいい。
ユウ「それとも、今切るの、やめましょうか?」
ユウ「酔いがさめてからでも……」
ナギ「……いや、今すぐ食う」
ユウ「じゃあ、そろそろ切りますよ」
ナギ「ああ……」
ユウ「そ、そんな悲しそうな顔しないでください」
ナギさんの心なしか寂しそうな表情に心が揺れながらも、ケーキを切る。
持ってきたお皿に乗せてナギさんに差し出したけれど、ナギさんはなんとなくぼんやりしていて、心もとない。
ユウ「大丈夫ですか?」
ナギ「ああ……」
ユウ「はい、フォークです。ちゃんと持ってくださいね」
ナギ「…」
差し出したフォークを、ナギさんが素直に握りしめる。
ユウ(ナギさん、もしかして少しどころか、だいぶ酔ってるんじゃ……)
ユウ(大丈夫かな……こんなナギさん、初めて見るかも)
ナギさんの様子が気になりつつ、自分用にもケーキを切り分ける。
一口食べてみると、思っていたよりもいい味だった。
ユウ「あっ!予想していたよりはおいしくできてるかも!」
ユウ「ナギさんも食べてみてください」
ナギ「…」
ユウ「……あれ?ナギさん?」
ユウ「……食べないんですか?」
ナギ「…そうだな」
ナギさんは、ケーキに手をつけずにじっと私を見つめている。
ナギ「…」
ユウ「…?」
ユウ(こ、この視線は……)
ユウ(食べさせたほうがいいのかな……?)
思い切ってケーキにフォークを刺してナギさんの口元に持って行くと―。
ぎゅっ……
ユウ「!?」
ナギさんは私の腕を、そっとつかまえた。
ナギ「今は……」
ナギ「……こっちがいい」
ユウ「こっちって……」
ユウ「……!」
ナギ「……」
そう問い返した瞬間、ナギさんにキスで唇をふさがれた。
深く深く求められて、甘い息苦しさとともに微かに肩が震える。
ユウ「っ……ナギさっ……」
ナギ「……うまいな」
ナギ「……上出来な味だ」
ユウ「も、もうっ…」
恥ずかしくて慌てて離れようとすると、ナギさんの腕が私を包み込み、それを許さない。
ナギ「もっと……」
ナギ「……食わせてくれるか?」
ユウ「!?」
ユウ(い、いつものナギさんじゃない!)
ユウ(酔ってるせい、だよね……?)
ユウ(ど、どうしよう……この展開!)
ユウ(でも……)
ナギ「……俺が作ったケーキよりも、お前が作った方がうまい」
ユウ「……!」
耳元で低くささやかれると、熱を帯びたナギさんの視線に貫かれる。
身動きが取れない私に、再びナギさんが唇を寄せる…。
ユウ(ナギさんにドキドキしなくなる日なんて……)
ユウ(きっと一生こないんだろうな……)
ユウ「……ナギさん」
ナギ「……なんだ?」
ユウ「ドキドキしすぎて……苦しいです」
ナギ「……俺もだ」
目を閉じて、ナギさんからのキスを待つ。
今日のキスはチョコレートよりもケーキよりも甘い、そんな気がした。
あまりの寒さとナギさんへの恋しさで、視界がぼやける。
その時、勢いよく小屋のドアが開いた。
そこに立っていたのは……。
ナギ「ユウ!」
ユウ「ナギ、さん……」
ナギ「……っ」
ユウ「!!」
駆け寄ってきたナギさんが、思い切り私の体を抱きしめてくれる。
ナギ「無事で、よかった…」
ユウ「ナギさん…」
ユウ「ナギさんっ……!」
ナギ「…ユウ」
思わず、私もぎゅっとナギさんに抱きついた。
ツムグ「リン!リン!?」
リン「ツムグ!」
ツムグ「よかった……無事で」
リン「ごめんなさい、私……」
少し遅れてやってきたツムグさんは、リンさんの無事を確認すると、ナギさんが私にそうしてくれたように、リンさんをぎゅっと抱きしめた。
ナギ「……身体が冷たい」
ナギ「どのくらい外にいたんだ…」
ユウ「……ごめんなさい」
ナギさんは心配そうな顔で、私の頬を両手で包み込む。
ユウ(あったかい……本当にナギさんだ……)
ユウ(こんな吹雪の中、助けに来てくれた……)
ナギ「…どこも怪我してないか?」
ユウ「大丈夫です…」
ナギ「…そうか」
ナギさんは私の頬を何度も包み込んだり、自分の体に私の体を引き寄せてなんとか温めようとしてくれる。
ツムグ「ここには暖をとれるものはなさそうだ」
ナギ「…なら、早く山を下りた方がいいな」
ナギ「このままここにいるよりはマシだ…」
ナギさんの言葉に、私たちは急いで山小屋をあとにした。
ナギ「…こっちだ」
ナギ「…さっき地図で確認した最短ルートだ」
ツムグ「よし…急ごう」
ツムグ「リン、行こう」
リン「うん!」
ナギ「ユウ、絶対に俺の手を離すな…」
ユウ「はい!」
ナギさんの後ろについていこうとした、その時―。
ズルっ……
ユウ「え……」
ナギ「!?」
凍った雪道に気づかず、足元が滑った。
そのままバランスを崩して、道脇の方へと体が傾く。
ユウ(まずい…!)
ナギ「ユウ!」
咄嗟に手を伸ばしたナギさんが、私を抱きしめてかばう。
次の瞬間、視界が一転した。
ツムグ「!?」
リン「ユウさん!ナギさん!」
私たちはそのまま、一緒に崖から滑り落ちてしまった。
ユウ(っ……いった……)
ユウ(あ……ナギさん!?)
ユウ「ナ、ナギさん!大丈夫ですか!?」
ナギ「…それはこっちのセリフだ」
ナギ「……似たようなこと、さっきもあったな」
ユウ(そういえば…さっきも私が転んで、ナギさんを押し倒して…)
ナギ「…それより、まずいな」
ユウ「え……?」
リン「ユウさん、ナギさん!大丈夫!?」
吹雪で姿は見えないものの、崖の上からリンさんの声が聞こえてくる。
ツムグ「待ってろ!すぐに助けを呼んでくる!」
ナギ「頼む」
2人の声が聞こえてこなくなると、私とナギさんだけが残された。
ユウ「ナギさん……ごめんなさい」
ナギ「……何がだ」
ユウ「私のせいで……ナギさんまでこんな目に」
ユウ「本当なら今頃、楽しくスケートしてるはずだったのに……」
ナギ「…」
無言で私の話を聞いていたナギさんが、不意にぎゅっと私を抱きしめた。
そして、自分の上着で私を包み込むように温めてくれる。
ユウ「な、ナギさん……」
ナギ「…震えてる」
ユウ「え?」
ナギ「……寒いだろ」
ナギ「…こんなこと聞かれなくても当たり前だろうがな」
ナギさんの上着に包まれながら、互いの体温が溶けあうのが分かる。
ユウ(今の状況なら、不自然なことじゃないんだけど……)
ユウ(ナギさんって……こういうこと、意識しないでいきなり出来るんだよね……)
ユウ(だけど、それが心地よくて、嬉しくて……ドキドキする……)
ユウ「ナギさん、私……」
ナギ「……ん?」
ユウ「ナギさんはもう……私と一緒にいても」
ユウ「恋人としてドキドキしてくれないんじゃないかって」
ユウ「思ったんです」
ユウ「最近の私たちって、恋人っていうより家族みたいで……」
ユウ「それが、少しだけ不安だったんです」
ナギ「……お前なら知ってるだろ」
ナギ「……俺は、言葉で気持ちを伝えるのは苦手だ」
ナギさんはそう言って、申し訳なさそうに目を伏せる。
ユウ「ふふっ、知ってます」
ユウ「さっきはナギさんに私のことを意識してもらいたくて……」
ユウ「自分から手をつないだり……目を瞑ってみたりしたけど」
ユウ「……そんなことで確かめようとした私が間違ってたんです」
ナギ「……ユウ」
ユウ(私はナギさんといるだけで、こんなに幸せだし)
ユウ(こんなにドキドキするから……)
そっと、ナギさんの顔を見上げる。
すると、ナギさんはさらに私を抱き寄せた。
ナギさんの胸に顔をうずめる格好になり、少しだけ息苦しくなる。
ユウ「ナ、ナギさん?」
ナギ「……お前を意識してないなんて」
ナギ「……そんなこと、あるわけないだろ」
ユウ「えっ?」
ユウ(あれ……これって、心臓の音?)
ナギさんの胸からは、ドキドキと心臓の音が聞こえてくる。
それは、今の私と同じくらい速く、脈打っているようだった。
ナギ「……お前を女として見ていないなんて」
ナギ「そんなこと絶対にない……」
ナギ「これからも……俺をこんな気持ちにさせるのは、お前だけだ」
ユウ「……ナギさん」
ユウ(それって……今でもナギさんは私に)
ユウ(ちゃんとドキドキしてくれてるってこと?)
ユウ{ナギさ――」
ナギ「…」
ユウ「……っ!」
顔を上げると、すぐにナギさんの唇が迫った。
少し強引に唇をふさがれ、深く合わさり、息が苦しくなるほどのキス。
ユウ「っ……は…」
ナギ「……さっきも、本当はこうしたかった」
ナギ「けど、あの時は……誰かが近づいてくる気配がした」
ナギ「……それで、とっさにお前を離した」
ユウ「そう、だったんですか……?」
ナギ「悪い……お前のこと、傷つけた」
ナギ「正直……さっき、お前から目を閉じた時は驚いた」
ナギ「お前からそういう……」
ナギ「……そういうことを求めるのは、珍しいからな」
ナギ「……自分を抑えるのに、必死だった」
ナギ「その……」
ナギ「お前のそういうとこを見て、嬉しかった……」
ユウ「ナギさん……」
(選択してください)
A:拒まれたかと思った
ユウ「私……ナギさんに拒まれたのかと思ったんです」
ナギ「……そんなわけないだろ」
ナギ「本当は、いつだって……こうしてお前を……」
もう一度、ナギさんの唇が近づく。
B:自分が情けない
ユウ「私……自分が情けないです」
ユウ「ナギさんの気持ちを疑って、一人で空回りして……」
ナギ「……俺が言葉足らずだったせいだ」
ナギ「……本当に悪かった」
そう言って、ナギさんが再び、唇を寄せる。
C:私こそごめんなさい
ユウ「私こそごめんなさい……」
ユウ「一人でやきもきしてナギさんを責めたりして」
ナギ「いや……誤解させた俺が悪い……」
ナギ「……さっきも迷わず、こうしてればよかった」
ユウ「え?」
聞き返す前に、ナギさんの顔が再び近づいてきた。
繰り返される深いキスで、頭の中がぼーっとしてくる。
それなのに、身体の芯は熱くナギさんを求めている。
ユウ(どっちがどれぐらいドキドキしているとか……)
ユウ(そんなことどうでもいいって思えるぐらい)
ユウ(私はナギさんと一緒にいるだけで、こんなに満たされるんだ……)
ナギ「ユウ……」
ユウ「…」
唇がふいに離れると、互いに息を整える。
ナギさんの瞳が、私の瞳を捕えて離さない。
もう一度唇を重ねようとした、その時―。
???「おいおい、雪が溶けるんじゃねーか?」
ユウ「へっ!?」
トワ「せ、船長!」
シン「このまま文字通りの高みの見物も悪くなかったけどな」
ソウシ「趣味が悪いよ、シン」
ユウ「せ、船長!?みんな!?」
声がした方を見上げると、ツムグさんたちと一緒にみんなが立っている。
ハヤテ「なんだよ、ナギ兄!助けに来ないほうがよかったか?」
ナギ「…」
ユウ「ハ、ハヤテさん……」
リュウガ「なんだか、邪魔するみてーで気が引けるが」
リュウガ「おーい、縄を垂らせ」
トワ「はい!」
慌てる私と相変わらず冷静なナギさんを、みんなはニヤニヤしながら見おろしている。
ナギ「……ユウ、帰るぞ」
ユウ「はい……」
みんなによって、私たちは無事に助け出されたのだった。
ロッジへ戻った私たちは、そのままその日は一泊して、翌日、リンさんたちが言っていたバレンタインイベントに参加した。
ユウ(賑やかなイベントだな)
ユウ(でも、さっきからナギさんがいない……どこに行ったんだろう?)
ナギさんを探して会場を歩いていると、不意に壇上の方が騒がしくなった。
司会者『それではこれより』
司会者『ツムグショコラティエよりサプライズがあります!』
ユウ「えっ?ツムグさん?」
慌てて振り返ると、ツムグさんとリンさんが見えた。
ツムグ「これは、婚約中のリンのために作ったものです」
ツムグ「いつも俺を支えてくれている彼女に」
リン「ツムグ……!」
会場から温かい拍手が沸き起こり、みんなが2人の婚約を祝福した。
ユウ(よかった……リンさんも幸せそう)
司会者『それではもう一人、サプライズのプレゼントがあります!』
司会者『飛び入り参加のナギさんが』
司会者『ユウさんのために作ったケーキです!』
ユウ「え!?」
突然、名前を呼ばれてその場に立ち尽くしてしまう。
慌てて辺りを見回したけれど、ナギさんの姿はどこにもなかった。
ユウ(ど、どういうこと!?ナギさんが私のために、って……)
ハヤテ「いいから早くしろよ!」
シン「作った人間がいなければ、格好もつかないだろう」
トワ「そうですよ!ユウさんにも気持ちが伝わりませんから!」
ナギ「だから、俺は別に……」
ユウ「ナギさん!?」
壇上の袖から、ナギさんがみんなに引っ張られて現れた。
司会者『それでは、ユウさんにもステージに来てもらいましょう!』
ユウ(ど、どうしよう!?でもナギさんがあそこで待ってるし)
リュウガ「ここにいたのか」
ユウ「せ、船長!?」
ソウシ「ほら、早く行ってあげて」
ユウ「ええっ!」
2人に背中を押され、壇上へと向かう。
ナギ「…」
ユウ「ナ、ナギさん……」
司会者『ユウさん、どうですか?ナギさんからの愛のプレゼントは!』
ユウ「あ、愛!?」
司会者『愛する彼からのサプライズは感動ものでしょうね!』
司会者『ユウさんはどのくらいナギさんを愛してますか!?』
観客1「ひゅー!」
観客2「いいぞー!どのぐらいだー?」
ユウ「あ、あの……」
ナギ「…」
ユウ(なんだか、会場中が盛り上がっちゃってる……!)
ユウ(ナギさんも困ってるし……でも)
目の前の、ナギさんが作ってくれた可愛いケーキを見る。
ユウ(ナギさん、私のために……)
ユウ「わっ!私……!!」
ユウ「誰にも負けないぐらいナギさんを愛してます!」
ナギ「!?」
ユウ「ナギさんが大好きです!」
ナギ「……お、お前!」
私の発言に会場が沸き、ナギさんが驚いたように目をみはる。
ユウ(は、恥ずかしい……!けど、これが私の正直な気持ちだから)
ユウ(ナギさんを想う気持ちは、絶対に誰にも負けない……!)
司会者『ナギさん、どうですか!?』
司会者『愛おしい彼女は堂々と答えてくれましたが、彼氏としては!』
ナギ「……!」
その発言に、ナギさんがジロリと司会者を睨む。
ナギ「……バカにしてるのか」
司会者『えっ……』
ユウ「ナ、ナギさん?」
ユウ(あれ?もしかして怒っちゃった!?)
ユウ(やりすぎちゃったかな……!ナギさん、こういうの好きじゃないし)
ナギ「……俺の方が」
司会者『え?』
ナギ「……俺の方が」
ナギ「……愛してるに決まってるだろ」
ユウ「!?」
顔を真っ赤にしながらナギさんがそう言った瞬間、会場がこれ以上ないほど、沸きに沸いた。
ユウ(ま、まさか、ナギさんがそんなこと言ってくれるなんて……!)
ユウ「ナギさん、私……」
観客1「誓いのキスはまだかー!」
ユウ「えっ?」
観客2「キース!キース!」
ナギ「…」
ユウ(これって…ま、まさか!)
司会者『おっと、会場中からキスコールです!お2人、どうしますか!?』
ユウ「ど、どうしますかって……!」
ユウ(ほ、本当に……!?みんなの前でキスするの!?)
ハヤテ「いいぞーナギ兄!男を見せろー!」
リュウガ「思いっきりいけー!」
ソウシ「船長……」
ユウ「ナギさん、ど、どうしましょう……」
ナギ「…」
ナギさんはみんなの反応に小さくため息をつく。
次の瞬間―。
ぐいっ!
ユウ「えっ!?」
ナギ「…」
ナギさんが私の手を取り、壇上を降りた。
ユウ「ど、どうしたんですか!?」
ナギ「もういいだろ……行くぞ」
司会者『あ――っと、2人が愛の逃避行です!』
ナギ「……ほっとけ、逃避行じゃねぇ」
文句を言いながら、ナギさんは私を連れて会場をあとにした。
会場を抜け出した私たちは、奥のキッチンへやってきた。
ユウ「び、びっくりしましたね……」
ナギ「……なんか途中で、聞き覚えのある声も聞こえたけどな」
ユウ(そういえば、ハヤテさんと船長が観客に混じって)
ユウ(キスコールしてたような……)
ユウ「あ、あの……!」
ナギ「……なんだ」
ナギさんと2人きりになって、先ほどの出来事が今さらになって恥ずかしくなってくる。
ユウ「こ、ここであのケーキを作ったんですか?」
ナギ「……ああ、ツムグが婚約者にケーキを作るって聞いて」
ナギ「俺も、お前に……作ってやりたくなった」
ユウ「ありがとうございます……嬉しかったです」
ユウ「あ!でもケーキ、会場に置いてきちゃいましたね」
ナギ「……戻る頃にはあいつらの胃袋の中だな」
ユウ(だけど、作ってくれた、っていうことが嬉しい)
ユウ(それに、ナギさんのあの言葉も……)
ユウ「私……さっき、ナギさんにすごくドキドキしちゃいました」
ナギ「……驚かせて悪かったな」
ユウ「いえ、そういうびっくりじゃなくて」
ユウ「もちろん、サプライズもびっくりしたけど……」
ユウ「ナギさんが言ってくれた言葉に……」
ナギ「……!」
ナギさんは改めて自分の発言を思い出したのか、少し頬を赤らめて横を向いてしまった。
ナギ「……あれが、俺の本当の気持ちだ」
ユウ「ふふっ!私も正直な気持ちを言いました」
嬉しさのあまり、思わず自分からナギさんにぎゅっと抱きつく。
ナギさんも、私の大好きな優しい手で髪を撫でてくれた。
ユウ(私も、ナギさんに手作りのチョコケーキをプレゼントしたい……)
ユウ(これから頑張って作って、夜にナギさんを呼び出そう!)
その時、勢いよく小屋のドアが開いた。
そこに立っていたのは……。
ナギ「ユウ!」
ユウ「ナギ、さん……」
ナギ「……っ」
ユウ「!!」
駆け寄ってきたナギさんが、思い切り私の体を抱きしめてくれる。
ナギ「無事で、よかった…」
ユウ「ナギさん…」
ユウ「ナギさんっ……!」
ナギ「…ユウ」
思わず、私もぎゅっとナギさんに抱きついた。
ツムグ「リン!リン!?」
リン「ツムグ!」
ツムグ「よかった……無事で」
リン「ごめんなさい、私……」
少し遅れてやってきたツムグさんは、リンさんの無事を確認すると、ナギさんが私にそうしてくれたように、リンさんをぎゅっと抱きしめた。
ナギ「……身体が冷たい」
ナギ「どのくらい外にいたんだ…」
ユウ「……ごめんなさい」
ナギさんは心配そうな顔で、私の頬を両手で包み込む。
ユウ(あったかい……本当にナギさんだ……)
ユウ(こんな吹雪の中、助けに来てくれた……)
ナギ「…どこも怪我してないか?」
ユウ「大丈夫です…」
ナギ「…そうか」
ナギさんは私の頬を何度も包み込んだり、自分の体に私の体を引き寄せてなんとか温めようとしてくれる。
ツムグ「ここには暖をとれるものはなさそうだ」
ナギ「…なら、早く山を下りた方がいいな」
ナギ「このままここにいるよりはマシだ…」
ナギさんの言葉に、私たちは急いで山小屋をあとにした。
ナギ「…こっちだ」
ナギ「…さっき地図で確認した最短ルートだ」
ツムグ「よし…急ごう」
ツムグ「リン、行こう」
リン「うん!」
ナギ「ユウ、絶対に俺の手を離すな…」
ユウ「はい!」
ナギさんの後ろについていこうとした、その時―。
ズルっ……
ユウ「え……」
ナギ「!?」
凍った雪道に気づかず、足元が滑った。
そのままバランスを崩して、道脇の方へと体が傾く。
ユウ(まずい…!)
ナギ「ユウ!」
咄嗟に手を伸ばしたナギさんが、私を抱きしめてかばう。
次の瞬間、視界が一転した。
ツムグ「!?」
リン「ユウさん!ナギさん!」
私たちはそのまま、一緒に崖から滑り落ちてしまった。
ユウ(っ……いった……)
ユウ(あ……ナギさん!?)
ユウ「ナ、ナギさん!大丈夫ですか!?」
ナギ「…それはこっちのセリフだ」
ナギ「……似たようなこと、さっきもあったな」
ユウ(そういえば…さっきも私が転んで、ナギさんを押し倒して…)
ナギ「…それより、まずいな」
ユウ「え……?」
リン「ユウさん、ナギさん!大丈夫!?」
吹雪で姿は見えないものの、崖の上からリンさんの声が聞こえてくる。
ツムグ「待ってろ!すぐに助けを呼んでくる!」
ナギ「頼む」
2人の声が聞こえてこなくなると、私とナギさんだけが残された。
ユウ「ナギさん……ごめんなさい」
ナギ「……何がだ」
ユウ「私のせいで……ナギさんまでこんな目に」
ユウ「本当なら今頃、楽しくスケートしてるはずだったのに……」
ナギ「…」
無言で私の話を聞いていたナギさんが、不意にぎゅっと私を抱きしめた。
そして、自分の上着で私を包み込むように温めてくれる。
ユウ「な、ナギさん……」
ナギ「…震えてる」
ユウ「え?」
ナギ「……寒いだろ」
ナギ「…こんなこと聞かれなくても当たり前だろうがな」
ナギさんの上着に包まれながら、互いの体温が溶けあうのが分かる。
ユウ(今の状況なら、不自然なことじゃないんだけど……)
ユウ(ナギさんって……こういうこと、意識しないでいきなり出来るんだよね……)
ユウ(だけど、それが心地よくて、嬉しくて……ドキドキする……)
ユウ「ナギさん、私……」
ナギ「……ん?」
ユウ「ナギさんはもう……私と一緒にいても」
ユウ「恋人としてドキドキしてくれないんじゃないかって」
ユウ「思ったんです」
ユウ「最近の私たちって、恋人っていうより家族みたいで……」
ユウ「それが、少しだけ不安だったんです」
ナギ「……お前なら知ってるだろ」
ナギ「……俺は、言葉で気持ちを伝えるのは苦手だ」
ナギさんはそう言って、申し訳なさそうに目を伏せる。
ユウ「ふふっ、知ってます」
ユウ「さっきはナギさんに私のことを意識してもらいたくて……」
ユウ「自分から手をつないだり……目を瞑ってみたりしたけど」
ユウ「……そんなことで確かめようとした私が間違ってたんです」
ナギ「……ユウ」
ユウ(私はナギさんといるだけで、こんなに幸せだし)
ユウ(こんなにドキドキするから……)
そっと、ナギさんの顔を見上げる。
すると、ナギさんはさらに私を抱き寄せた。
ナギさんの胸に顔をうずめる格好になり、少しだけ息苦しくなる。
ユウ「ナ、ナギさん?」
ナギ「……お前を意識してないなんて」
ナギ「……そんなこと、あるわけないだろ」
ユウ「えっ?」
ユウ(あれ……これって、心臓の音?)
ナギさんの胸からは、ドキドキと心臓の音が聞こえてくる。
それは、今の私と同じくらい速く、脈打っているようだった。
ナギ「……お前を女として見ていないなんて」
ナギ「そんなこと絶対にない……」
ナギ「これからも……俺をこんな気持ちにさせるのは、お前だけだ」
ユウ「……ナギさん」
ユウ(それって……今でもナギさんは私に)
ユウ(ちゃんとドキドキしてくれてるってこと?)
ユウ{ナギさ――」
ナギ「…」
ユウ「……っ!」
顔を上げると、すぐにナギさんの唇が迫った。
少し強引に唇をふさがれ、深く合わさり、息が苦しくなるほどのキス。
ユウ「っ……は…」
ナギ「……さっきも、本当はこうしたかった」
ナギ「けど、あの時は……誰かが近づいてくる気配がした」
ナギ「……それで、とっさにお前を離した」
ユウ「そう、だったんですか……?」
ナギ「悪い……お前のこと、傷つけた」
ナギ「正直……さっき、お前から目を閉じた時は驚いた」
ナギ「お前からそういう……」
ナギ「……そういうことを求めるのは、珍しいからな」
ナギ「……自分を抑えるのに、必死だった」
ナギ「その……」
ナギ「お前のそういうとこを見て、嬉しかった……」
ユウ「ナギさん……」
(選択してください)
A:拒まれたかと思った
ユウ「私……ナギさんに拒まれたのかと思ったんです」
ナギ「……そんなわけないだろ」
ナギ「本当は、いつだって……こうしてお前を……」
もう一度、ナギさんの唇が近づく。
B:自分が情けない
ユウ「私……自分が情けないです」
ユウ「ナギさんの気持ちを疑って、一人で空回りして……」
ナギ「……俺が言葉足らずだったせいだ」
ナギ「……本当に悪かった」
そう言って、ナギさんが再び、唇を寄せる。
C:私こそごめんなさい
ユウ「私こそごめんなさい……」
ユウ「一人でやきもきしてナギさんを責めたりして」
ナギ「いや……誤解させた俺が悪い……」
ナギ「……さっきも迷わず、こうしてればよかった」
ユウ「え?」
聞き返す前に、ナギさんの顔が再び近づいてきた。
繰り返される深いキスで、頭の中がぼーっとしてくる。
それなのに、身体の芯は熱くナギさんを求めている。
ユウ(どっちがどれぐらいドキドキしているとか……)
ユウ(そんなことどうでもいいって思えるぐらい)
ユウ(私はナギさんと一緒にいるだけで、こんなに満たされるんだ……)
ナギ「ユウ……」
ユウ「…」
唇がふいに離れると、互いに息を整える。
ナギさんの瞳が、私の瞳を捕えて離さない。
もう一度唇を重ねようとした、その時―。
???「おいおい、雪が溶けるんじゃねーか?」
ユウ「へっ!?」
トワ「せ、船長!」
シン「このまま文字通りの高みの見物も悪くなかったけどな」
ソウシ「趣味が悪いよ、シン」
ユウ「せ、船長!?みんな!?」
声がした方を見上げると、ツムグさんたちと一緒にみんなが立っている。
ハヤテ「なんだよ、ナギ兄!助けに来ないほうがよかったか?」
ナギ「…」
ユウ「ハ、ハヤテさん……」
リュウガ「なんだか、邪魔するみてーで気が引けるが」
リュウガ「おーい、縄を垂らせ」
トワ「はい!」
慌てる私と相変わらず冷静なナギさんを、みんなはニヤニヤしながら見おろしている。
ナギ「……ユウ、帰るぞ」
ユウ「はい……」
みんなによって、私たちは無事に助け出されたのだった。
ロッジへ戻った私たちは、そのままその日は一泊して、翌日、リンさんたちが言っていたバレンタインイベントに参加した。
ユウ(賑やかなイベントだな)
ユウ(でも、さっきからナギさんがいない……どこに行ったんだろう?)
ナギさんを探して会場を歩いていると、不意に壇上の方が騒がしくなった。
司会者『それではこれより』
司会者『ツムグショコラティエよりサプライズがあります!』
ユウ「えっ?ツムグさん?」
慌てて振り返ると、ツムグさんとリンさんが見えた。
ツムグ「これは、婚約中のリンのために作ったものです」
ツムグ「いつも俺を支えてくれている彼女に」
リン「ツムグ……!」
会場から温かい拍手が沸き起こり、みんなが2人の婚約を祝福した。
ユウ(よかった……リンさんも幸せそう)
司会者『それではもう一人、サプライズのプレゼントがあります!』
司会者『飛び入り参加のナギさんが』
司会者『ユウさんのために作ったケーキです!』
ユウ「え!?」
突然、名前を呼ばれてその場に立ち尽くしてしまう。
慌てて辺りを見回したけれど、ナギさんの姿はどこにもなかった。
ユウ(ど、どういうこと!?ナギさんが私のために、って……)
ハヤテ「いいから早くしろよ!」
シン「作った人間がいなければ、格好もつかないだろう」
トワ「そうですよ!ユウさんにも気持ちが伝わりませんから!」
ナギ「だから、俺は別に……」
ユウ「ナギさん!?」
壇上の袖から、ナギさんがみんなに引っ張られて現れた。
司会者『それでは、ユウさんにもステージに来てもらいましょう!』
ユウ(ど、どうしよう!?でもナギさんがあそこで待ってるし)
リュウガ「ここにいたのか」
ユウ「せ、船長!?」
ソウシ「ほら、早く行ってあげて」
ユウ「ええっ!」
2人に背中を押され、壇上へと向かう。
ナギ「…」
ユウ「ナ、ナギさん……」
司会者『ユウさん、どうですか?ナギさんからの愛のプレゼントは!』
ユウ「あ、愛!?」
司会者『愛する彼からのサプライズは感動ものでしょうね!』
司会者『ユウさんはどのくらいナギさんを愛してますか!?』
観客1「ひゅー!」
観客2「いいぞー!どのぐらいだー?」
ユウ「あ、あの……」
ナギ「…」
ユウ(なんだか、会場中が盛り上がっちゃってる……!)
ユウ(ナギさんも困ってるし……でも)
目の前の、ナギさんが作ってくれた可愛いケーキを見る。
ユウ(ナギさん、私のために……)
ユウ「わっ!私……!!」
ユウ「誰にも負けないぐらいナギさんを愛してます!」
ナギ「!?」
ユウ「ナギさんが大好きです!」
ナギ「……お、お前!」
私の発言に会場が沸き、ナギさんが驚いたように目をみはる。
ユウ(は、恥ずかしい……!けど、これが私の正直な気持ちだから)
ユウ(ナギさんを想う気持ちは、絶対に誰にも負けない……!)
司会者『ナギさん、どうですか!?』
司会者『愛おしい彼女は堂々と答えてくれましたが、彼氏としては!』
ナギ「……!」
その発言に、ナギさんがジロリと司会者を睨む。
ナギ「……バカにしてるのか」
司会者『えっ……』
ユウ「ナ、ナギさん?」
ユウ(あれ?もしかして怒っちゃった!?)
ユウ(やりすぎちゃったかな……!ナギさん、こういうの好きじゃないし)
ナギ「……俺の方が」
司会者『え?』
ナギ「……俺の方が」
ナギ「……愛してるに決まってるだろ」
ユウ「!?」
顔を真っ赤にしながらナギさんがそう言った瞬間、会場がこれ以上ないほど、沸きに沸いた。
ユウ(ま、まさか、ナギさんがそんなこと言ってくれるなんて……!)
ユウ「ナギさん、私……」
観客1「誓いのキスはまだかー!」
ユウ「えっ?」
観客2「キース!キース!」
ナギ「…」
ユウ(これって…ま、まさか!)
司会者『おっと、会場中からキスコールです!お2人、どうしますか!?』
ユウ「ど、どうしますかって……!」
ユウ(ほ、本当に……!?みんなの前でキスするの!?)
ハヤテ「いいぞーナギ兄!男を見せろー!」
リュウガ「思いっきりいけー!」
ソウシ「船長……」
ユウ「ナギさん、ど、どうしましょう……」
ナギ「…」
ナギさんはみんなの反応に小さくため息をつく。
次の瞬間―。
ぐいっ!
ユウ「えっ!?」
ナギ「…」
ナギさんが私の手を取り、壇上を降りた。
ユウ「ど、どうしたんですか!?」
ナギ「もういいだろ……行くぞ」
司会者『あ――っと、2人が愛の逃避行です!』
ナギ「……ほっとけ、逃避行じゃねぇ」
文句を言いながら、ナギさんは私を連れて会場をあとにした。
会場を抜け出した私たちは、奥のキッチンへやってきた。
ユウ「び、びっくりしましたね……」
ナギ「……なんか途中で、聞き覚えのある声も聞こえたけどな」
ユウ(そういえば、ハヤテさんと船長が観客に混じって)
ユウ(キスコールしてたような……)
ユウ「あ、あの……!」
ナギ「……なんだ」
ナギさんと2人きりになって、先ほどの出来事が今さらになって恥ずかしくなってくる。
ユウ「こ、ここであのケーキを作ったんですか?」
ナギ「……ああ、ツムグが婚約者にケーキを作るって聞いて」
ナギ「俺も、お前に……作ってやりたくなった」
ユウ「ありがとうございます……嬉しかったです」
ユウ「あ!でもケーキ、会場に置いてきちゃいましたね」
ナギ「……戻る頃にはあいつらの胃袋の中だな」
ユウ(だけど、作ってくれた、っていうことが嬉しい)
ユウ(それに、ナギさんのあの言葉も……)
ユウ「私……さっき、ナギさんにすごくドキドキしちゃいました」
ナギ「……驚かせて悪かったな」
ユウ「いえ、そういうびっくりじゃなくて」
ユウ「もちろん、サプライズもびっくりしたけど……」
ユウ「ナギさんが言ってくれた言葉に……」
ナギ「……!」
ナギさんは改めて自分の発言を思い出したのか、少し頬を赤らめて横を向いてしまった。
ナギ「……あれが、俺の本当の気持ちだ」
ユウ「ふふっ!私も正直な気持ちを言いました」
嬉しさのあまり、思わず自分からナギさんにぎゅっと抱きつく。
ナギさんも、私の大好きな優しい手で髪を撫でてくれた。
ユウ(私も、ナギさんに手作りのチョコケーキをプレゼントしたい……)
ユウ(これから頑張って作って、夜にナギさんを呼び出そう!)
女性「きゃー!どいて~!!!」
ユウ「ええ!?」
ナギ「ユウ!」
ドンっ!!!
よける間もなく、女性が私に体当たりでぶつかってきた。
ユウ「わわっ!」
女性「きゃっ!」
身体が当たった拍子に、女性と一緒にリンクに尻もちをつく。
ナギさんが慌てて滑ってきて、助け起こしてくれた。
ナギ「ユウ!大丈夫か?」
ユウ「は、はい……」
女性「ご、ごめんなさい!私、スケートってしたことなくて」
ツムグ「リン!大丈夫か!?」
イオリ「滑れないのに一人で行くからだよ」
リン「まさかこんなに滑るものだとは…」
リン「本当にごめんなさい!」
ユウ「いえ……」
ユウ(やっぱりこの人たち、昨日、カフェにいた……)
深々と頭を下げる女性と、カフェでケーキを酷評していた兄弟を交互に見る。
ナギ「……怪我、しなかったか?」
ユウ「はい。転んだだけなので」
ツムグ「本当にすみませんでした」
リン「なんてお詫びしたらいいか……」
ユウ「いえ!あの、それより……昨日本島のカフェにいましたよね?」
ナギ「カフェ?」
ユウ「ナギさん、ほら私たちの後ろに座ってた……」
ナギ「……?」
ナギさんは私の言葉に、不思議そうな表情を浮かべる。
イオリ「あ!そういえばあんたたち、隣の席に座ってたよな」
ユウ「はい」
イオリ「そのバンダナの人、見覚えある」
ナギ「……俺か?」
ツムグ「こんな偶然、あるんだね」
リン「あの、お詫びと言ってはなんですけど」
リン「よかったら向こうのロッジに来ませんか?」
リン「私たち、そこに宿を取ってるの」
ユウ「いえ、そんな…」
イオリ「いいんじゃない?せっかくだし、甘いもんでもごちそうすれば」
ユウ「えっ!?甘いもの?」
ナギ「……食いたいのか」
ユウ「い、いえ!その……」
リン「行きましょう!ツムグたちが作るスイーツは絶品なの!」
ユウ「お2人で作ってるんですか?」
ツムグ「俺たち、ショコラティエなんです」
ナギ「…ショコラティエ?」
イオリ「チョコレート職人って言えば分かる?」
ナギ「…料理人か」
ユウ(そっか、だから昨日、あんなにケーキの味に真剣だったんだ)
ナギさんも2人の職業に興味をもったのか、いつのまにか兄弟と話しこんでいる。
私たちはお言葉に甘えて、ロッジへお邪魔することになった。
ロッジで、ツムグさんたちが作ったチョコをごちそうになる。
ユウ「おいしい……!」
ナギ「……舌触りがなめらかだな」
イオリ「だろ?」
ツムグ「気に入ってもらえてよかった」
ユウ「ハヤテさんたちにも教えてあげたいですね!」
ナギ「あいつら、スケートに夢中だったからな」
イオリ「俺たち、明日の夜にこの辺で開かれる」
イオリ「バレンタインイベントのために来たんだ」
ユウ「バレンタインイベント?」
リン「手作りチョコの味を競ったり、プレゼントの交換をしたりするのよ」
ツムグ「……あなたも船で料理人をしているとか」
ナギ「……ああ、まあな」
イオリ「誰でも参加できるし、出てみれば」
ユウ「面白そうですね!」
ユウ「もし、ナギさんが参加するなら、私もお手伝いしたいです!」
ナギ「…」
ナギ「参加条件はないのか?」
イオリ「男でも女でも、友達同士でも夫婦でも何でもOK」
ユウ「あっ、そういえばリンさんとツムグさんって」
ユウ「恋人同士なんですよね」
リン「ふふっ!もうすぐ夫婦になるんだけどね」
ユウ「おめでとうございます」
ナギ「…」
ユウ(そういえば昨日、婚約指輪の話をしてたよね)
ユウ(リンさん、すごく嬉しそう……幸せなんだろうな)
ツムグ「……おいおい、そんなにくっつくな」
リン「いいじゃない!これくらい普通だもの」
嬉しそうに、リンさんがツムグさんの腕に抱きつく。
ユウ(本当に仲が良さそう……)
ユウ(ナギさんは、こういう2人を見てどう思うんだろう……)
気になって、ナギさんにちらっと視線を向ける。
イオリ「緒子作りはまずテンパリングの技術が必要なんだよね」
ナギ「……テンパリングって何だ?」
イオリ「それは……」
ユウ(あれ?今の私たちの話、ナギさん全然聞いてなかった?)
ナギさんはイオリさんのチョコ作りの話に真剣に耳を傾けている。
そんなナギさんを見て、私は小さくため息をついた。
リンさんたちに別れを告げると、私とナギさんはスケート場に戻ってきた。
ユウ「ナギさん、イベントに参加するんですか?」
ナギ「……いや、材料も何も準備してないからな」
ユウ(ああっ!私もまだチョコケーキの材料、買ってない!)
ナギ「……ん?どうした?」
ユウ「えっ!?あ、い、いえ……」
内心慌てた時、近くのカップルが手を繋ぎながら滑っていくのが見えた。
ユウ「なんか……改めて見るとカップルが多いんですね」
ナギ「ああ……冬だからな」
ユウ「そうですよね。寒くなるとくっつきたくなるし」
ナギ「…」
チラリとナギさんを見たけれど、いつものようにその表情からは何も読み取れない。
ユウ(ナギさんとつき合い始めた頃は)
ユウ(隣にいるだけでドキドキしてたなぁ……)
ユウ(私は今でも、ナギさんにドキドキすることなんてしょっちゅうだけど……)
ユウ(ナギさんは、どうなんだろう……)
ユウ(今でも、私にドキドキしてくれてるのかな……)
そう思うと、なぜか焦りのような気持ちがわいてくる。
ナギ「どうした?滑らないのか?」
ユウ「あ……そ、そうですね!」
ユウ「…」
ナギ「……?」
ユウ(手……つないでみようかな……)
ユウ(いつもはナギさんから自然につないでくれるけど……今日は自分から)
ユウ(……えいっ!)
ナギ「……!」
緊張を抑えて、そっとナギさんの手を取ってみる。
特に驚いた様子もなく、ナギさんが私に向き直った。
ナギ「……寒いのか?」
ユウ「えっ?」
ナギ「……いや」
ナギ「あ……転ばないようにか…」
ユウ「えっ?い、いや、その…」
ナギ「……ちゃんと手、掴んでろよ」
ユウ(あれ?だめだ、ナギさん、全然ドキドキしてるように見えない……)
ナギさんの冷静な反応を見て、また焦りのような気持ちが募った。
はやれ「トワ、見ろ!滑れるようになったぞ!」
トワ「上手です、ハヤテさん!」
シン「生まれたての仔牛くらい不安定だな」
ハヤテ「そこまでじゃねーだろ!」
みんなが向こうで楽しそうに滑っているのを見つけて、ナギさんはぼんやりと眺めている。
ユウ「ナギさん?みんなのところに行きますか?」
ナギ「いや……スケートは休憩して、その辺を散歩でもするか」
ユウ「でもナギさん、私に教えるばっかりで全然滑れてませんよね?」
ナギ「……俺は別にいい」
そう言うと、ナギさんは私の手を引いて歩き出した。
ユウ(ナギさんの手のつなぎ方って、つき合う前から変わらないな……)
ユウ(なんていうか、包み込むような…すごく優しい触れ方……)
ナギ「……ユウ、手を離すなよ?」
ナギ「これ以上転んだら、明日身体を動かすのが辛くなる……」
ユウ「……はい」
ユウ(ナギさん……私のことを心配して、休憩させようとしてくれてる?)
ナギさんの背中を見つめながらも、周りでぴったりとくっつきながら滑っているカップルがどうしても目に入ってしまう。
私は、嬉しいような少し寂しいような気持ちで、ナギさんの背中に再び視線を向けた。
のんびり歩いているうちに、私たちはひと気のない場所へとやってきた。
ユウ「向こうは結構な人混みだったのに、こっちは全然ですね」
ナギ「……何もないからな」
ユウ「ナギさん、そろそろスケートに戻りませんか?」
ナギ「……まだ、もう少しいいだろ」
ユウ「だけど、スケートしに来たのに……」
ナギ「……もう少し足を休ませてからだ」
ナギ「……疲れた顔をしてる」
ユウ「え?」
そっと、ナギさんが私の頬に触れる。
(選択してください)
A:そうなのかな
ユウ「そう…なのかな」
ナギ「……ああ」
ナギ「お前は俺が目を光らせてないと、無茶をするからな……」
ユウ「……!」
そう言って優しく微笑むナギさんに、思わず胸が高鳴る。
B:疲れてないですよ
ユウ「私なら全然平気です!疲れてないですよ!」
ナギ「……だから、困るんだ」
ナギ「……自覚してないだろ」
ナギ「お前は人のことには気が回るのに、自分のことになると後回しだな」
ユウ「……!」
困ったような笑顔を向けて、ナギさんが私の頭をくしゃっと撫でた。
C:よくわかりましたね
ユウ「よ、よくわかりましたね」
ユウ(確かに、足が鈍く痛んでるような気がしてたんだよね……)
ユウ(どうして、ナギさんには言わなくても分かっちゃうんだろう……)
ナギ「……どのくらいの時間、お前を見てると思ってる」
ナギ「お前のことは……俺が一番よく知ってる」
ユウ「……!」
ユウ「そ、そんな風に言われると、ちょっと恥ずかしいです……」
ナギ「…そうか?」
気恥ずかしさになんとなく黙り込むと、2人の間に沈黙が落ちる。
沈黙に耐えかねて、私から勢いよく口を開いた。
ユウ「……あ!そうだ!みんなに何も言わずに来ちゃいましたね」
ナギ「……あいつらのことは ほっといても問題ないだろ」
ユウ「で、でもそろそろご飯の時間だし…」
ナギ「……!」
ナギ「ユウ、そこ、気を付け――」
ユウ「え?」
ユウ「……わっ!」
ナギ「!?」
ぐいっ!
ナギさんの言葉を聞き終えないまま、足元の石につまづき、体勢を崩す。
咄嗟にナギさんが支えようとしてくれたけれど――。
ユウ「あれっ!?」
ナギ「……っ!」
持ちこたえられずに そのまま2人で倒れ込んでしまった。
ナギ「……っ」
ユウ「す、すみません!ナギさん、大丈夫ですか!?」
ナギ「……ああ」
ユウ「す、すぐにどけますね!」
ナギ「…」
ユウ「!?」
慌てて身を起こそうとすると、ナギさんの顔がすぐ目の前にあることに気づいた。
ユウ(えっ……これって私……)
ユウ(ナギさんのこと、押し倒してる!?)
ユウ「あ、あのっ……」
ナギ「…」
ナギさんの深い色の瞳が、私を貫く。
ユウ(う、動けない……!)
ユウ(なんか、ナギさんの目にこのまま吸い込まれそう……)
ナギ「…ユウ?」
ユウ「…」
ユウ(で、でも、今ってチャンスなのかも…)
ユウ(ナギさんが今でも私にドキドキしてくれてるのか)
ユウ(確認するための……)
ユウ(この雰囲気のまま、ナギさんに……)
私は思い切って、そっと目を閉じる。
ただ息をひそめて、胸の高鳴りを落ち着かせながら、ナギさんの行動を待つ。
ナギ「…」
ユウ「…」
ナギ「…ユウ」
ユウ「…」
ナギさんの息づかいが微かに聞こえて、妙な緊張に包まれる。
すると、ナギさんの指が、ゆっくりと私の唇をなぞった。
ユウ「…!」
ナギ「…」
少しの沈黙の後、ナギさんが近づく気配がして――。
ユウ(……キス…だよね)
目を閉じていても、ナギさんの気配が近づいてくるのが手に取るように分かる。
ユウ(こういう瞬間……ナギさんとキスする瞬間って)
ユウ(いつも知らず知らずのうちにドキドキしてる……)
ナギさんの息づかいが近くなる。
もう少しで唇が触れるだろうと思った、次の瞬間……。
ナギ「…」
パッと、ナギさんが私の肩を軽く押し返した。
ユウ「え……?」
ナギ「…帰るぞ」
ユウ「…」
ユウ(どうして……?)
ユウ「ナギさん、どうして……」
ナギ「…何がだ」
ユウ「…」
ユウ(……もしかして、今はキスしたくない気分だったとか?)
ユウ(だとしても、こんな…)
ユウ(どうして、ナギさんは冷静でいられるの……?)
ユウ「……ナギさん、変なこと聞いてもいいですか?」
ナギ「……なんだ?」
私はナギさんと視線を真っ直ぐに交わすと、静かに口を開いた。
ユウ「ナギさんは……今でも私にドキドキしてくれてますか?」
ナギ「え?」
先に立ちあがったナギさんが、私の言葉に振り返る。
ユウ「……私といても、ドキドキしませんか?」
ユウ「私じゃ、ナギさんのこと……」
ナギ「ユウ……?」
ユウ「私じゃ、もうナギさんのこと、ドキドキさせられませんか?」
ナギ「…」
ユウ(あんなふうに、私からキスを求めても…)
ユウ(ナギさんは、なんとも思ってくれない)
ユウ(これじゃ、恋人っていうより…)
ユウ(家族みたいだよ……)
ユウ「……ご、ごめんなさい、私」
ユウ「ちょっと……頭冷やしてきます」
ナギ「ユウ!」
ナギさんの声が追いかけてきたけれど、私は振り切るように走り出した。
スケート場には戻らずにロッジまで走ってくると、ロビーで、座り込んでいる見覚えのある姿を見つけた。
リン「ううっ……」
ユウ「リンさん?」
リン「……!」
リン「ユウさん……」
泣きはらした目で私を見たリンさんに、思わず駆け寄る。
ユウ「ど、どうしたんですか?」
リン「ツムグが、留学するって……」
ユウ「りゅ、留学!?」
リン「もっとチョコのことを学ぶために、遠い国に行くことに決めたって」
リン「だから、結婚を延期してほしいって言われたの」
ユウ「そんな……今までリンさんに内緒にしてたってことですか?」
リン「私が結婚をすごく楽しみにしてたから」
リン「言えなかったみたい」
リン「でも……どうして?」
リン「どうして『妻としてついてこい』って言ってくれないの……?」
ユウ「……リンさん」
リン「私、ツムグにならどこでもついていくのに……」
震えるリンさんの肩に手を置いた、その時――。
ツムグ「リン!ここにいたのか」
ユウ「ツムグさん……」
リン「来ないで……私、一人でゆっくり考えたい!」
ツムグさんを振り切るように、リンさんが外へと駆け出す。
ツムグ「リン!」
ユウ「私……追いかけます!」
ツムグ「ユウさん!?」
リンさんを追って、私も慌ててロッジを出た。
ユウ「リンさん、大丈夫ですか!?」
リン「う、うん……」
リン「ど、どうしよう!どっちに行けばいいの?」
ユウ「…」
なんとかリンさんには追いついたものの、私たちは吹雪く山の中を彷徨っていた。
山に入った途端に天候が崩れ、今では吹雪のせいで右も左もわからない。
ユウ(とりあえず、どこかに避難できる場所があれば……)
その時、少し先に小屋のようなものが見えた気がした。
ユウ「リンさん、あそこ!小屋があります!」
ユウ「とにかく吹雪を避けられる場所にいましょう!」
リン「う、うん!」
凍える体を引きずって、私たちは小屋へ急いだ。
小屋に避難して吹雪からは逃れたものの、暖を取れるものは何もなかった。
ユウ(体が冷えて寒い……このままじゃ凍死しちゃうよ)
吐きだす息は真っ白で、室内の気温も外と大差ないことが分かる。
リン「ごめんなさい……私のせいで」
ユウ「そんな……ここでもう少し待てば、きっと助けが来ますよ」
ユウ「とりあえず、体を温めるものがないか探しましょう」
ユウ(…そうは言ったものの、もしこのまま助けが来なかったら)
ユウ(私、自分勝手にナギさんを責めて、謝れないままになっちゃうんだ……)
最悪の展開が頭に浮かび、慌てて首を振る。
ユウ(ナギさんに会いたい……顔が見たい……)
ユウ(このまま会えなくなったら、私……)
リン「……ツムグに会いたいな」
ユウ「リンさん……」
リン「どこにいても、何をしてても……隣にいられることが幸せなのに」
リン「どうしてこんなのことになっちゃったんだろう……」
ユウ(隣にいられることが幸せ……)
ユウ(そうだ……私だって、ナギさんがいてくれるから)
ユウ(安らげて、幸せで……)
ユウ「……私も、ナギさんに会いたいです」
リン「ユウさん……」
ユウ(たとえ、もうドキドキしてもらえなくても……)
ユウ(ナギさんが隣にいてくれるだけでよかったのに……)
ユウ「どうして私……あんなこと言っちゃったんだろう」
ユウ「ナギさん……」
ナギさんの優しい笑顔が鮮明に頭の中に浮かんでくる。
思わず涙ぐみそうになった、その時――。
バン!と勢いよく小屋のドアが開いた。
ユウ「!!」
???「ユウ!!」
そこに立っていたのは――。
ユウ「ええ!?」
ナギ「ユウ!」
ドンっ!!!
よける間もなく、女性が私に体当たりでぶつかってきた。
ユウ「わわっ!」
女性「きゃっ!」
身体が当たった拍子に、女性と一緒にリンクに尻もちをつく。
ナギさんが慌てて滑ってきて、助け起こしてくれた。
ナギ「ユウ!大丈夫か?」
ユウ「は、はい……」
女性「ご、ごめんなさい!私、スケートってしたことなくて」
ツムグ「リン!大丈夫か!?」
イオリ「滑れないのに一人で行くからだよ」
リン「まさかこんなに滑るものだとは…」
リン「本当にごめんなさい!」
ユウ「いえ……」
ユウ(やっぱりこの人たち、昨日、カフェにいた……)
深々と頭を下げる女性と、カフェでケーキを酷評していた兄弟を交互に見る。
ナギ「……怪我、しなかったか?」
ユウ「はい。転んだだけなので」
ツムグ「本当にすみませんでした」
リン「なんてお詫びしたらいいか……」
ユウ「いえ!あの、それより……昨日本島のカフェにいましたよね?」
ナギ「カフェ?」
ユウ「ナギさん、ほら私たちの後ろに座ってた……」
ナギ「……?」
ナギさんは私の言葉に、不思議そうな表情を浮かべる。
イオリ「あ!そういえばあんたたち、隣の席に座ってたよな」
ユウ「はい」
イオリ「そのバンダナの人、見覚えある」
ナギ「……俺か?」
ツムグ「こんな偶然、あるんだね」
リン「あの、お詫びと言ってはなんですけど」
リン「よかったら向こうのロッジに来ませんか?」
リン「私たち、そこに宿を取ってるの」
ユウ「いえ、そんな…」
イオリ「いいんじゃない?せっかくだし、甘いもんでもごちそうすれば」
ユウ「えっ!?甘いもの?」
ナギ「……食いたいのか」
ユウ「い、いえ!その……」
リン「行きましょう!ツムグたちが作るスイーツは絶品なの!」
ユウ「お2人で作ってるんですか?」
ツムグ「俺たち、ショコラティエなんです」
ナギ「…ショコラティエ?」
イオリ「チョコレート職人って言えば分かる?」
ナギ「…料理人か」
ユウ(そっか、だから昨日、あんなにケーキの味に真剣だったんだ)
ナギさんも2人の職業に興味をもったのか、いつのまにか兄弟と話しこんでいる。
私たちはお言葉に甘えて、ロッジへお邪魔することになった。
ロッジで、ツムグさんたちが作ったチョコをごちそうになる。
ユウ「おいしい……!」
ナギ「……舌触りがなめらかだな」
イオリ「だろ?」
ツムグ「気に入ってもらえてよかった」
ユウ「ハヤテさんたちにも教えてあげたいですね!」
ナギ「あいつら、スケートに夢中だったからな」
イオリ「俺たち、明日の夜にこの辺で開かれる」
イオリ「バレンタインイベントのために来たんだ」
ユウ「バレンタインイベント?」
リン「手作りチョコの味を競ったり、プレゼントの交換をしたりするのよ」
ツムグ「……あなたも船で料理人をしているとか」
ナギ「……ああ、まあな」
イオリ「誰でも参加できるし、出てみれば」
ユウ「面白そうですね!」
ユウ「もし、ナギさんが参加するなら、私もお手伝いしたいです!」
ナギ「…」
ナギ「参加条件はないのか?」
イオリ「男でも女でも、友達同士でも夫婦でも何でもOK」
ユウ「あっ、そういえばリンさんとツムグさんって」
ユウ「恋人同士なんですよね」
リン「ふふっ!もうすぐ夫婦になるんだけどね」
ユウ「おめでとうございます」
ナギ「…」
ユウ(そういえば昨日、婚約指輪の話をしてたよね)
ユウ(リンさん、すごく嬉しそう……幸せなんだろうな)
ツムグ「……おいおい、そんなにくっつくな」
リン「いいじゃない!これくらい普通だもの」
嬉しそうに、リンさんがツムグさんの腕に抱きつく。
ユウ(本当に仲が良さそう……)
ユウ(ナギさんは、こういう2人を見てどう思うんだろう……)
気になって、ナギさんにちらっと視線を向ける。
イオリ「緒子作りはまずテンパリングの技術が必要なんだよね」
ナギ「……テンパリングって何だ?」
イオリ「それは……」
ユウ(あれ?今の私たちの話、ナギさん全然聞いてなかった?)
ナギさんはイオリさんのチョコ作りの話に真剣に耳を傾けている。
そんなナギさんを見て、私は小さくため息をついた。
リンさんたちに別れを告げると、私とナギさんはスケート場に戻ってきた。
ユウ「ナギさん、イベントに参加するんですか?」
ナギ「……いや、材料も何も準備してないからな」
ユウ(ああっ!私もまだチョコケーキの材料、買ってない!)
ナギ「……ん?どうした?」
ユウ「えっ!?あ、い、いえ……」
内心慌てた時、近くのカップルが手を繋ぎながら滑っていくのが見えた。
ユウ「なんか……改めて見るとカップルが多いんですね」
ナギ「ああ……冬だからな」
ユウ「そうですよね。寒くなるとくっつきたくなるし」
ナギ「…」
チラリとナギさんを見たけれど、いつものようにその表情からは何も読み取れない。
ユウ(ナギさんとつき合い始めた頃は)
ユウ(隣にいるだけでドキドキしてたなぁ……)
ユウ(私は今でも、ナギさんにドキドキすることなんてしょっちゅうだけど……)
ユウ(ナギさんは、どうなんだろう……)
ユウ(今でも、私にドキドキしてくれてるのかな……)
そう思うと、なぜか焦りのような気持ちがわいてくる。
ナギ「どうした?滑らないのか?」
ユウ「あ……そ、そうですね!」
ユウ「…」
ナギ「……?」
ユウ(手……つないでみようかな……)
ユウ(いつもはナギさんから自然につないでくれるけど……今日は自分から)
ユウ(……えいっ!)
ナギ「……!」
緊張を抑えて、そっとナギさんの手を取ってみる。
特に驚いた様子もなく、ナギさんが私に向き直った。
ナギ「……寒いのか?」
ユウ「えっ?」
ナギ「……いや」
ナギ「あ……転ばないようにか…」
ユウ「えっ?い、いや、その…」
ナギ「……ちゃんと手、掴んでろよ」
ユウ(あれ?だめだ、ナギさん、全然ドキドキしてるように見えない……)
ナギさんの冷静な反応を見て、また焦りのような気持ちが募った。
はやれ「トワ、見ろ!滑れるようになったぞ!」
トワ「上手です、ハヤテさん!」
シン「生まれたての仔牛くらい不安定だな」
ハヤテ「そこまでじゃねーだろ!」
みんなが向こうで楽しそうに滑っているのを見つけて、ナギさんはぼんやりと眺めている。
ユウ「ナギさん?みんなのところに行きますか?」
ナギ「いや……スケートは休憩して、その辺を散歩でもするか」
ユウ「でもナギさん、私に教えるばっかりで全然滑れてませんよね?」
ナギ「……俺は別にいい」
そう言うと、ナギさんは私の手を引いて歩き出した。
ユウ(ナギさんの手のつなぎ方って、つき合う前から変わらないな……)
ユウ(なんていうか、包み込むような…すごく優しい触れ方……)
ナギ「……ユウ、手を離すなよ?」
ナギ「これ以上転んだら、明日身体を動かすのが辛くなる……」
ユウ「……はい」
ユウ(ナギさん……私のことを心配して、休憩させようとしてくれてる?)
ナギさんの背中を見つめながらも、周りでぴったりとくっつきながら滑っているカップルがどうしても目に入ってしまう。
私は、嬉しいような少し寂しいような気持ちで、ナギさんの背中に再び視線を向けた。
のんびり歩いているうちに、私たちはひと気のない場所へとやってきた。
ユウ「向こうは結構な人混みだったのに、こっちは全然ですね」
ナギ「……何もないからな」
ユウ「ナギさん、そろそろスケートに戻りませんか?」
ナギ「……まだ、もう少しいいだろ」
ユウ「だけど、スケートしに来たのに……」
ナギ「……もう少し足を休ませてからだ」
ナギ「……疲れた顔をしてる」
ユウ「え?」
そっと、ナギさんが私の頬に触れる。
(選択してください)
A:そうなのかな
ユウ「そう…なのかな」
ナギ「……ああ」
ナギ「お前は俺が目を光らせてないと、無茶をするからな……」
ユウ「……!」
そう言って優しく微笑むナギさんに、思わず胸が高鳴る。
B:疲れてないですよ
ユウ「私なら全然平気です!疲れてないですよ!」
ナギ「……だから、困るんだ」
ナギ「……自覚してないだろ」
ナギ「お前は人のことには気が回るのに、自分のことになると後回しだな」
ユウ「……!」
困ったような笑顔を向けて、ナギさんが私の頭をくしゃっと撫でた。
C:よくわかりましたね
ユウ「よ、よくわかりましたね」
ユウ(確かに、足が鈍く痛んでるような気がしてたんだよね……)
ユウ(どうして、ナギさんには言わなくても分かっちゃうんだろう……)
ナギ「……どのくらいの時間、お前を見てると思ってる」
ナギ「お前のことは……俺が一番よく知ってる」
ユウ「……!」
ユウ「そ、そんな風に言われると、ちょっと恥ずかしいです……」
ナギ「…そうか?」
気恥ずかしさになんとなく黙り込むと、2人の間に沈黙が落ちる。
沈黙に耐えかねて、私から勢いよく口を開いた。
ユウ「……あ!そうだ!みんなに何も言わずに来ちゃいましたね」
ナギ「……あいつらのことは ほっといても問題ないだろ」
ユウ「で、でもそろそろご飯の時間だし…」
ナギ「……!」
ナギ「ユウ、そこ、気を付け――」
ユウ「え?」
ユウ「……わっ!」
ナギ「!?」
ぐいっ!
ナギさんの言葉を聞き終えないまま、足元の石につまづき、体勢を崩す。
咄嗟にナギさんが支えようとしてくれたけれど――。
ユウ「あれっ!?」
ナギ「……っ!」
持ちこたえられずに そのまま2人で倒れ込んでしまった。
ナギ「……っ」
ユウ「す、すみません!ナギさん、大丈夫ですか!?」
ナギ「……ああ」
ユウ「す、すぐにどけますね!」
ナギ「…」
ユウ「!?」
慌てて身を起こそうとすると、ナギさんの顔がすぐ目の前にあることに気づいた。
ユウ(えっ……これって私……)
ユウ(ナギさんのこと、押し倒してる!?)
ユウ「あ、あのっ……」
ナギ「…」
ナギさんの深い色の瞳が、私を貫く。
ユウ(う、動けない……!)
ユウ(なんか、ナギさんの目にこのまま吸い込まれそう……)
ナギ「…ユウ?」
ユウ「…」
ユウ(で、でも、今ってチャンスなのかも…)
ユウ(ナギさんが今でも私にドキドキしてくれてるのか)
ユウ(確認するための……)
ユウ(この雰囲気のまま、ナギさんに……)
私は思い切って、そっと目を閉じる。
ただ息をひそめて、胸の高鳴りを落ち着かせながら、ナギさんの行動を待つ。
ナギ「…」
ユウ「…」
ナギ「…ユウ」
ユウ「…」
ナギさんの息づかいが微かに聞こえて、妙な緊張に包まれる。
すると、ナギさんの指が、ゆっくりと私の唇をなぞった。
ユウ「…!」
ナギ「…」
少しの沈黙の後、ナギさんが近づく気配がして――。
ユウ(……キス…だよね)
目を閉じていても、ナギさんの気配が近づいてくるのが手に取るように分かる。
ユウ(こういう瞬間……ナギさんとキスする瞬間って)
ユウ(いつも知らず知らずのうちにドキドキしてる……)
ナギさんの息づかいが近くなる。
もう少しで唇が触れるだろうと思った、次の瞬間……。
ナギ「…」
パッと、ナギさんが私の肩を軽く押し返した。
ユウ「え……?」
ナギ「…帰るぞ」
ユウ「…」
ユウ(どうして……?)
ユウ「ナギさん、どうして……」
ナギ「…何がだ」
ユウ「…」
ユウ(……もしかして、今はキスしたくない気分だったとか?)
ユウ(だとしても、こんな…)
ユウ(どうして、ナギさんは冷静でいられるの……?)
ユウ「……ナギさん、変なこと聞いてもいいですか?」
ナギ「……なんだ?」
私はナギさんと視線を真っ直ぐに交わすと、静かに口を開いた。
ユウ「ナギさんは……今でも私にドキドキしてくれてますか?」
ナギ「え?」
先に立ちあがったナギさんが、私の言葉に振り返る。
ユウ「……私といても、ドキドキしませんか?」
ユウ「私じゃ、ナギさんのこと……」
ナギ「ユウ……?」
ユウ「私じゃ、もうナギさんのこと、ドキドキさせられませんか?」
ナギ「…」
ユウ(あんなふうに、私からキスを求めても…)
ユウ(ナギさんは、なんとも思ってくれない)
ユウ(これじゃ、恋人っていうより…)
ユウ(家族みたいだよ……)
ユウ「……ご、ごめんなさい、私」
ユウ「ちょっと……頭冷やしてきます」
ナギ「ユウ!」
ナギさんの声が追いかけてきたけれど、私は振り切るように走り出した。
スケート場には戻らずにロッジまで走ってくると、ロビーで、座り込んでいる見覚えのある姿を見つけた。
リン「ううっ……」
ユウ「リンさん?」
リン「……!」
リン「ユウさん……」
泣きはらした目で私を見たリンさんに、思わず駆け寄る。
ユウ「ど、どうしたんですか?」
リン「ツムグが、留学するって……」
ユウ「りゅ、留学!?」
リン「もっとチョコのことを学ぶために、遠い国に行くことに決めたって」
リン「だから、結婚を延期してほしいって言われたの」
ユウ「そんな……今までリンさんに内緒にしてたってことですか?」
リン「私が結婚をすごく楽しみにしてたから」
リン「言えなかったみたい」
リン「でも……どうして?」
リン「どうして『妻としてついてこい』って言ってくれないの……?」
ユウ「……リンさん」
リン「私、ツムグにならどこでもついていくのに……」
震えるリンさんの肩に手を置いた、その時――。
ツムグ「リン!ここにいたのか」
ユウ「ツムグさん……」
リン「来ないで……私、一人でゆっくり考えたい!」
ツムグさんを振り切るように、リンさんが外へと駆け出す。
ツムグ「リン!」
ユウ「私……追いかけます!」
ツムグ「ユウさん!?」
リンさんを追って、私も慌ててロッジを出た。
ユウ「リンさん、大丈夫ですか!?」
リン「う、うん……」
リン「ど、どうしよう!どっちに行けばいいの?」
ユウ「…」
なんとかリンさんには追いついたものの、私たちは吹雪く山の中を彷徨っていた。
山に入った途端に天候が崩れ、今では吹雪のせいで右も左もわからない。
ユウ(とりあえず、どこかに避難できる場所があれば……)
その時、少し先に小屋のようなものが見えた気がした。
ユウ「リンさん、あそこ!小屋があります!」
ユウ「とにかく吹雪を避けられる場所にいましょう!」
リン「う、うん!」
凍える体を引きずって、私たちは小屋へ急いだ。
小屋に避難して吹雪からは逃れたものの、暖を取れるものは何もなかった。
ユウ(体が冷えて寒い……このままじゃ凍死しちゃうよ)
吐きだす息は真っ白で、室内の気温も外と大差ないことが分かる。
リン「ごめんなさい……私のせいで」
ユウ「そんな……ここでもう少し待てば、きっと助けが来ますよ」
ユウ「とりあえず、体を温めるものがないか探しましょう」
ユウ(…そうは言ったものの、もしこのまま助けが来なかったら)
ユウ(私、自分勝手にナギさんを責めて、謝れないままになっちゃうんだ……)
最悪の展開が頭に浮かび、慌てて首を振る。
ユウ(ナギさんに会いたい……顔が見たい……)
ユウ(このまま会えなくなったら、私……)
リン「……ツムグに会いたいな」
ユウ「リンさん……」
リン「どこにいても、何をしてても……隣にいられることが幸せなのに」
リン「どうしてこんなのことになっちゃったんだろう……」
ユウ(隣にいられることが幸せ……)
ユウ(そうだ……私だって、ナギさんがいてくれるから)
ユウ(安らげて、幸せで……)
ユウ「……私も、ナギさんに会いたいです」
リン「ユウさん……」
ユウ(たとえ、もうドキドキしてもらえなくても……)
ユウ(ナギさんが隣にいてくれるだけでよかったのに……)
ユウ「どうして私……あんなこと言っちゃったんだろう」
ユウ「ナギさん……」
ナギさんの優しい笑顔が鮮明に頭の中に浮かんでくる。
思わず涙ぐみそうになった、その時――。
バン!と勢いよく小屋のドアが開いた。
ユウ「!!」
???「ユウ!!」
そこに立っていたのは――。
