フリードリヒシュトラッセ、ブランデンブルク門
まだドイツに着いてすぐのころ。
友達がフリードリヒシュトラッセに連れて行ってくれた。
多分、レッスン&ネットカフェ帰り。
まだ冬まっさかりで、4時半くらいには暗くなり始めていた。
帰って来る頃には9時過ぎまで明るかったから、そうとう冬と夏の昼間の時間が違う。
(もちろんサマータイムになったせいもあるんだけど)
この道をずうっと行くと、ブランデンブルク門。
並木がまだ冬景色だったけれど夏になると気持ちがいいらしい。
この下にオープンカフェやビールを飲めるところが出たりしてるみたい。
考えるだけで楽しい。
この交差点の近くの(…確か)可愛いCafeに入る。
ふたりともケーキを頼んだんだけど、このケーキのでっかさにびっくりした。
それから、ドイツのケーキは横っぱらにフォークが刺さってる、というのも初めて経験。
でかいケーキならではのことだな~。
思い出のCafeはいくつかあるけれど、ここもそのひとつ。
一番たくさん行ったのはハッケシャーマルクトにあるCafeなんだけれど、多分そこの写真は撮っていない。
ブランデンブルク門。
さっきの通りの突き当たりにある。
ずうっと歩いている間に雨が降ってきて、この道沿いにあるお土産屋さんが店頭に商品を平然と並べているさまを二人で笑った気がする。
雨が降っても楽しくて。
門は、大きかった。
この門の過去に関係あるのかもしれないけれど、友達はこの門より向こうを見るのが恐い、と言って、門をくぐった向こう側には行かなかった。
ずっと向こうに歩いてゆくとジーゲスソイレとかもある。
大きな道。
★ ★ ★
本屋さんやCD屋さん、インターネットもできる大きなShop。
名前、わすれちゃった。
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無重力
久しぶりに気持ちがちゃんと内側からふっくらした。
別に自分の踊りをちゃんとできた、というわけでもない。
何かが変わったのかと自分にきいてみるとそれもよく分からない。
ただそれが一時的な、揺れの狭間なのかもしれない。
ほんとうにわからない。
だけど確かだ。
柔らかく空気を吸い込んで、おもてがわを張りつめることじゃない、優しいため息みたいななにかを。
知らなかった、だけど実際にはまさに私のこのなかにしかないすべてを、どうやったらもっと気付いてゆけるのだろう?
踊ることだけじゃなくて目が覚めて電車に乗って歩いて、誰かの目をみて会話をして、窓を閉めてベッドに入ること。
手を伸ばしたりぱくぱく空気を求めることばかりじゃなくて、その在り方にいつのまにか慣れていることに気付くような。
固めて守ってきたものを分解してみることはなくしたり壊したりすることじゃないととっくにわかっているから、ただ全部がすべてのうらと表なんだと知っているからあとは。
ここからしかものを見ることができなくてもフリをしないでいい。
たったひとつの場所だから、それが一番大切なのも、私 にとってだけだから、
それでいい。
どこかのあいだ
空気の匂いと重さが違う。
肌や髪が違う。
建物とたてものの隙間から見える、向こうの植え込みの緑色が違う。
昨日は稽古後、スタジオ近くのちいさな定食屋さんに行って銀むつ煮定食を食べた。甘辛さがちょうど良くてじっくり中の方まで味が染みていて美味しかった。
この微妙な味がもしかしたら日本人以外の多くの外国のひとには理解されないのだとしたらそれはとても勿体ないことだと思う。
日常生活はとっくに軌道に乗っているはずなのに何故か毎日夜中の3時ごろまで目が冴えている。そして朝は6時ごろに起きなければならないからとてつもなく眠たい。
もしかしてこれは緩やかな時差ぼけなのかな。それともただの気のゆるみかもしれない。
この空気中の水のつぶつぶが肺を満たして私は現実からすこし、半地下にいるような気がする。
ツゥラトゥストラはかく語りき
前にも書いたと思うけれど、ウィーンを飛び立った飛行機から見た、謎のオレンジ色の光。
これを見た時の胸騒ぎみたいなものはいまでも忘れられない。
あまりにも巨大すぎて、あまりにも橙色すぎた。
他の地上のものに比べて大きすぎるから建造物ではありえないし、小さな光の集合とは絶対に違う。ひとつのものすごい大きな光。
油田のようなものが燃えているか(爆発しているのか、絶えず火がついているのか、それはわからないけれど)山の噴火か、戦争が起こってしまっているんだ、と本気で思った。
万博にあるみたいな大きなテントと思えないか?
いや、やっぱりどんな風に考えても大きすぎる。
じゃあ何か…?
もう、私の中の常識にないものとしか思えなかった。
他の乗客が騒ぎ出さないのが不思議なくらいだった。
だからこれがお月さまだとわかったとき、本当に心の底から呆然とした。
どうしてわからなかったんだろう。
低いところにあったにせよ。
地面に近くてあまりに赤かったにせよ。
月が地面から出てくるところを見たことがなかったにせよ。
地面と空との境目がわからなかったにせよ。
水平線はいつも目線の高さにある、という思い込みをしていたにせよ。
月なんて何千回も眺めているのに。
お月さまだよ、って教わらなくて初めて月を見た動物みたい。
『2001年宇宙の旅』の、お猿みたいだったかもしれない。
シュトラウス流れちゃった。
★ ★ ★
この時の感動と驚きを私は後にザールブリュッケンで友達になったドイツのひとに伝えようとした。
「How are you?」と訊かれて「How are you?」と問い返してしまうくらい英語ができないくせに、このオレンジ色の光が見えたときからの推移をずっと説明しようとしたのだった。
とっても無謀なのはわかっていたけれど、スイスからザールブリュッケンまでの車の旅は長いから何とかその間には伝わるだろう。
それにこのひとにはずいぶんお世話になって、なのにちゃんとお話をすることすら叶わなくて…だからそうだ、あの話をしてみよう。きっとこのひとなら私の驚愕を面白がってくれる、と思って。
結果は…
わたし「私がオーストリアから飛行機に乗ったときの話なんだけどね…~~略~~…でね、私はそれが大きな何かのイベントか、それとも戦争かと思ったの。そしたら違ったの!」
ドイツ「ああきっとそれ、大きな建物だったんだよ」
わたし「ううん、私もそうかと思ったの。でもあまりに大きいんだよ!よおく考えた後に、わかったんだけどね、それ、月だったの!私はあんな足下から月が昇ってくると思わなくてまさか月とは思わなかったんだけどね、それ月だったんだよ!」
ドイツ「たぶんそれ、建物の光の集合だったんじゃない?」
わたし「違うの。月だったんだってば!月だって気づいたの!」
ドイツ「ヨーロッパ内を飛ぶ飛行機はわりと低いところを飛ぶんだよ。だから、建物が思ったよりも大きく見えたんだね」
…
…
…全然通じてない。
10分くらい、つっかえつっかえずっとこの話をしていて感動の結末になるはずだったのに。
あの感動を、是非とも伝えたかったのに。
まったく、まるで通じてない。
もうお手上げだった。
もうすっかり、濡れてぺしゃんこの情けない毛並みになったモルモットのごとく、私は言うべきことが見つからなくなってしまった。
結局もうひとりの子を叩き起こし通訳してもらう。
やっとわかったドイツの友達は、「ああそうだったか、さっきの建物のことは忘れてね」というようなことを言っていたけれど、私の興奮はどうしてくれる。
どうやら感動はわかちあえなかったみたいだ。
そりゃあ、我ながらチャレンジャーだとは思ったしそう簡単に伝わるとは思わなかったけれど。
今思い出しても、深いため息をつかずにはおれない。
★ ★ ★
でもあれが単なる月の出だということをわかった今でも
やっぱりあの時のどきどきを忘れることはできないし、
もう一度同じ光景をみたとしてもやはり、
心臓がぐいぐい胸骨を押すくらいに、
どきどきすると思う。
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空の交差点
ものすごい速さで飛んでいることが大きな空の中にいると実感できない。羽の揺れなどでそれを感じることはあっても、相対する空間があまりに広すぎて、雲や空気がどこまでもたっぷりとありすぎていて、感覚だけがぼやんと拡張していってしまう。
ふと見下ろすと二本の雲を次々と生まれさせながら飛行機が飛んでいた。
飛行機から近くに飛行機が見えるということが旅の終わりの頃には普通のことになっていたけれども、行きにはまだそれがとっても珍しいことに思えた。
あの中にもたくさんの人が乗っているんだ、という感覚は地上からぴかりと光る飛行機を眺めるのとはちょっと違った。
自分が乗っているものよりもずっと不確かに見えるそのことが、自分の足下にたっぷりの空気があって、水滴があって、氷の粒があって、という事実をかえって思い起こさせる。
だからと言って恐くなったということではない。
ただ…ただ、なんだろう。
小さいのに、どうにかこうにかして遠くに飛んでいこうとしていることが感動で、滑稽。のような感じ…かな。
うまくやっぱり言えない。
飛行機に乗っている間はずうっと飛行機が頑張って飛んでいる音がごおごおしているのだけれど、このときばかりは、雲の生まれるしゅうしゅういう音が聞こえるといいなと、耳を澄ませた。
飛行機に乗るたびに実はこうして飛行機同士が出会うことなんかしょっちゅうあるということを知るようになった。
行き先までの距離によってか、時間帯によってかそれはわからないのだけれど飛ぶ時の高度はいくつかのパターンに決まっているようだった。
何度も同じ高度でクロスしている飛行機雲に出会った。当たり前のことだけれど、一方はいっぽうよりも薄れて、その輪郭を空に溶け込ませようとしている。
出来立ての飛行機雲との交差点に差し掛かると、飛行機は揺れた。
クロスする直前ではこころもち、パイロットは高度を下げたように思う。
でも頭と背中の辺りが雲のぎざぎざに影響されて、揺れる。
もうとっくにそこには飛行機はいないのに、時間をおいてもそこにはまだ空気のゆがみがある。
いくつもの層になっている雲と雲の隙間。
空気は、本当はすごく重いものなんだ。
★ ★ ★
これはGroningenの空。
北欧の方からオランダに入る飛行機がたくさんあるんだと思うのだけれど、Groningenの空にはいつもたくさんの飛行機雲がひしめいていた。
このレンガの建物の塔のあたりにたくさん雲が交差してる。
飛行機の中のごはん。
べとつきとか、味のかんじとか、宇宙食みたいだった。
…宇宙食食べたことないけど。
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