第3章57.今後も彼を愛し続けます。 | FOXGODへの道

FOXGODへの道

定年間近のあるテレビマンは、1枚のFAXをきっかけにある3人の女の子に出会った。その瞬間から彼の人生は一変する。そして全くの異業種に転職。彼が営む大人の秘密基地の名は、「FOXGOD TOKYO」

 

最後のお客さんを送り出して、
シーンと静まり返った店内で、

声を上げて泣きじゃくった。

 

ずっと我慢していた。

お客さんの一人が泣き出した時も

ぐっと堪えた。

 

それが一人になって爆発した。

 

悲しい。悲しすぎる。

 

それは突然だった。

 

まだお店が始まったばかりで、

4.5人のお客がべビメタのデロを

見ながらお酒を呑んでいた。

 

ひとりのお客さんが、何気なくスマホを

見ていたら
いきなり「うそー!」と叫んだ。

 

すぐに音楽のボリュームを下げて、

その人のスマホを覗いて、皆が凍りついた。

 

かすかにべビメタの曲が流れる中、誰もが

放心状態で言葉を発する事ができなかった。

 

このまま、いつものようにお酒を呑んで
べビメタ談義をする気持ちにはなれない。

お店を閉めてお客さんには帰ってもらおうと

思った時にスマホの通知音がした。

 

まだ会った事がないフォロワーさんからの

DMだった。

 

「一人でいるのが耐えられない。メイトの

皆さんと一緒にいたい。ちよじぃのお店に

行ってもいいですか」
と書かれていた。

 

同じ思いの人が次々にお店にきてくれた。

 

そして、仮バンドの音源を聴き、べビメタの

デロで彼のいつも楽しそうにギターを弾く

姿を見ながら、皆で同じ時を過ごして弔った。

 

藤岡幹大さんを初めて知ったのは、
2014年英国FORUMの

ライブビューイングだった。

 

どうせアイドルのライブだろうと期待せずに

会場に行ったが、
青山さんのツーバスに衝撃を受け、

続いて現れた藤岡さんのギターに

心を打ちぬかれた。

メタルの音楽なのにどこかジャズを感じる

弦さばき。
半拍溜めながらの速弾きや、センスの良い

ミュート。
ギターの天才を見たという感じだった。

べビメタがアイドルではなく

ロック・メタルバンドだという事を教えて

くれた。

 

そして何よりも明るく楽しそうに弾いていた。
この人、ギター弾くのが大好きなんだろう

なと思った。

左足を時々ビョコっと上げるしぐさは、

どんな大きな会場の一番後ろから見ても、

今日は藤岡さんなんだと判った。

 

紅月で大神様と背中を合わせながらの

師弟共演のハモリは何百回繰り返し見たか

わからない。

 

まさに日本の音楽界の至宝のひとり、

小さな巨人だった。

 

大神様、BOHさん、青山さん、

LEDAさん、前田さん、ISAOさん、

宇佐美さんは今の気持ちをSNSで発信し
我々の気持ちを落ち着かせてくれたけど
発信できない3姫は、今どんな気持ちで

いるのだろう。
それが、心配で心配でしようがない。

 

藤岡さんとは、偶然に2度お会いしたことが

ある。

 

2度目の時は、藤岡さんから

「ちよじぃですよね」と声をかけて頂き、

嬉しくて嬉しくてしようがなかったという
思い出がある。

 

自分の印象としては、世界一うまいギターの

天才で、世界一心優しい人。

 

「お店には必ず行きますね」と言って

頂いてただけに本当に残念で、

そして悔しくてしようがない。

 

でも、全速力で生きた藤岡さんの事は

一生忘れません。

 

ずーっと、ずーっと今後も愛し続けます。

 

我々の心の中に藤岡さんは生き続けます。

 

ご冥福をお祈りいたします。

 

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