18 彼女の奇行とスペシャリスト化の第一歩 (承1) | ななめ後ろ向きな日々〜みさきとの記憶と記録〜 みさきのうつ病

ななめ後ろ向きな日々〜みさきとの記憶と記録〜 みさきのうつ病

うつ病のみさき…
佐藤の中にある、いまだ鮮明なみさきの記憶を記録する。

彼女はどんどん素直で甘えん坊でありのままの自分を見せてくれるようになった。

そういう恋愛は初めてだったようで、いつもは常識的で配慮が人一倍の彼女も、時折、気づかいを忘れた行動を時にする。

彼女の実家近くでドライブしている時、調子が悪くなってきたと言った。

お付き合いする前やお付き合いしたての頃は、緊張感があって発作が起きなかったのか、もしくは、我慢していたのかは分からない。

でも、お付き合いして、1カ月以上になると苦しい時は苦しい、としっかり言うようになった。

たかが1カ月?って感じだが、彼女とまともに接してからの2カ月は1年以上に感じるほど矢継ぎ早に色々あり、1日1日が長かった。

付き合ってから、最初の2週間は3日に一回ペースで"別れたい"のメールが着て、翌日に「昨日はごめんなさい」と謝ってくる、というのを繰り返し、後の2週間は、5日から7日ペースになった事に少し成長を感じた。


ドライブ中、調子が悪くなったので、脇に車を止めたが、どうせだったら、手足を伸ばして休憩しようぜって事でラブホを探す。

もちろんエロ目的はない。

彼女の実家から5キロ以内だから、当然彼女の方が詳しい。
今だったらググればいいが、当時はそんな詳しく出てこない。

彼女は「確かここを真っ直ぐ行ったら左手にそれっぽいのあったと思う。」
と言うので、それに従い、行くと確かにあった。
ビルタイプでなく、お城タイプで入るのに勇気がいるやつだ。

そこに入り、あえてマニアックな部屋を選び、くつろいだ。

この時初めて、三角木馬と言うやつを見た。

座った。

もちろんそこに座ったのは僕だが。

彼女はベッドでうずくまるように寝ていた。

しばらくたち回復した彼女と部屋もので遊んだり、ふざけ合ったりとし、また、どうせだからとかなんとか言って正規利用をしたりして時間を過ごした。

「私も半分払う!」
と彼女は言ったが、お金に余裕があった僕は、
「全然良いから、任せておけ(笑)」
と言った。

「でも、元は私が体調悪くて入ったんだし…なっちゃんに無理させたくない…。」

こういう時、少しでも払わせた方が、彼女は対等っぽくて喜ぶのを僕は知ってる。

「じゃあ、1000円よろしく!(笑)」と僕は言った。

話がまとまり、そろそろ出ようかってなった時、彼女が
「あっ!そうだ!」
と言って、財布の中をガサゴソしだした。

そこで大量のラブホの割引券を並べた。

「これ使える!なっちゃん使って!」
とここのラブホの割引券を差し出した。

彼女は、全く悪気が無い。

当然だ。
彼女は現在、僕に対してなんらやましい事が無いから、こういう事が素直にできるのだ。
なっちゃんにとって良いことをしたい!が、彼女の自然だ。

僕は、それを理解しているから、
「ありがとう!(笑)」と笑って言った。

彼女は笑っている事にキョトンとした後、
「あ…こういうのって出すべきじゃ無いね…。私、なんて事をしたんだろう…。」
とへこみ始める。

普通ならば、こういう時、笑わずに「ありがとう!」だけで済ませば良いんじゃないの?と思う人がいるだろう。
でも、それはダメな例である。

気が付かせるのが、みさきを扱うポイントだ。
彼女は、きっと家に帰って、この出来事が、最悪的な行動だったと気がつくだろう。
いや、気がつくタイプだ。
そうすると彼女は、家で1人で苦しがる。

だから、ここであえて気が付かせ、そして、その状況を笑うのが一番だ。

ちゃんと、言葉ものせて。

「そうよ(笑)」
「普通、こんな事しちゃダメなんだよね(笑)」
「正直、俺も少し複雑な気持ちを持ったよ(笑)妬いちゃうもん。」
「でもね、裏を返せば、それだけ俺に対して素直で自然でいられるって事でしょ?」
「もし、心にやましい事があったら、みさは、そこを気を付けて、こんなもの出さない。」
「みさは、俺にやましい事が無いアピールを含めて自然に出したんでしょ?」

「うん。」と答える彼女。
「でも、今、もっと先にある配慮が足らなかったと反省してる…」

「別に配慮はいらないよ(笑)」
「俺は、過去にこだわらない。」
「その過去に俺はいないもん(笑)」
「だからむしろ、こういう行動はどんどんして!」
「俺は理解できるから、いつものように自然でいて!」

「うん!」と言って、彼女はへこみから解放された顔になった。

これで、彼女はこの件でもう勝手にへこまないとひと安心。

彼女が何でも僕に見せるから、自然と僕は、みさきの彼女専用のスペシャリストになっていった。
これが第一歩だろう。

スペシャリストになればなるほど、当時は嬉しかった。




今は、それが僕を縛ってしまっている。