19 イタいデートと山間の道 (承2) | ななめ後ろ向きな日々〜みさきとの記憶と記録〜 みさきのうつ病

ななめ後ろ向きな日々〜みさきとの記憶と記録〜 みさきのうつ病

うつ病のみさき…
佐藤の中にある、いまだ鮮明なみさきの記憶を記録する。

「みさの実家周辺ってクワガタムシとか普通にいっぱいいそうだな。」

「いるよ(笑)たまに私の部屋の網戸とかにカブトムシがくっついてる事あったもん(笑)」

「すげぇな(笑)」
「俺な、クワガタ採りを久々にしたいんだ。付き合ってくれ(笑)」

「良いよ!(笑)」


僕も彼女も生き物を研究しているから、こういうのは言いやすい。
7月になったし、そういう時期だ。
もう、そういう遊びを10数年してないので、久しぶりにしてみたかったってのもあるが、デートにクワガタ採りを誘う二十代後半の男だなんて相当イタいだろう。
これは面白い。
そう思って誘った。
彼女はノリノリだった。
彼女にネタ提供だ。
今の友達に彼女は笑い話でこの話をして盛り上がる事が出来るだろう。
自虐的なネタとして。
しかし、彼女は、
「私には、そういう話ができるのは、幼なじみの仲良し2人ぐらいで、その2人は長期休み以外実家に戻って来ないの(笑)今はそんな人が周りにいない。」
とネガティヴな発言をしてきた。

「いずれ就職なりした時に出来るでしょ(笑)そのためにもだ!」
と無理やりポジティブな方向に持っていった。


僕はいずれこのみさきの幼なじみ2人に会い、色々助けてもらう事になる。


僕は生まれて初めて女の子をクワガタ採りに誘った。

おそらく、彼女も生まれて初めて、彼氏にクワガタ採りに誘われた。

僕もいい歳だ。
女性とは何人か付き合ってきた。

だから、今までした事が無いことをしたかった。
これは、みさきが初めてだって事をしたかった。

彼女にも、初めてを経験させたかった。


そして、人に話しても笑ってもらえるような事を。


みさきの幼い頃に父に連れて行ってもらったという、採れる場所に案内してもらった。

本当にいて、ちょっと盛り上がった。

そこの場所は、みさきの家がある山と対岸の山で、見渡しが良く、彼女の家も見えた。

その山と山の間には、一本の道があり、よく見るとみさきの家からもその道に繋がっていた。

「この道はね、私の高校時代の通学路なの。自転車で毎日通ってたよ。」
「でね、普通にこの道を通ってる時、目の前から、スズメバチが飛んできて、私の顔にぶつかって、転けたの(笑)」
「刺されてはないけど、びっくりした。」
「その様子を見ていたおじさんが心配して駆け寄ってきてね、その人からするとスズメバチなんて見えてないから、私が勝手に突然転けたように見えたのよ。」
「擦り傷だらけで、大丈夫ですって行って、恥ずかしいから一目散にその場を去ったよ。」
僕は、面白くて笑った。

彼女は、狙って笑いを取るときはイマイチだが、彼女が面白いともなんとも思ってない彼女的な普通の話が僕にとってツボだった。
顔が真面目で変な事を言うギャップが好きだった。


僕は、こういう事を思い出しながら、その後、この道を1人で何度か歩くことになる。
ここが、みさきが高校時代通った場所なんだなと思いながら。