タマのお家 -4ページ目

オレの純愛物語 <3> 再会


もう二度と会うこともねえだろうって思ってた、そのまりもに再び出会ったのは、テスト前のある日のこと。
テストったって、俺にやあ関係ねー。いつものようにフラフラうろついてたんだ。
その時、本屋から出てくる女に目がいった。


この前の・・・あのトロい女じゃん。
なんで、すぐにわかったんだろうな・・・はば学の制服着てるってのに、俺、すぐにわかった。
あの時の心配そうな顔・・・あんな顔しやがるもんだから、覚えてたんだろうか?


「カ~ノジョ♪、デイトしようぜ。」

なんで声かける気になったのかも、わかんねえ。
やっぱ・・・あの時のこいつの目なんかな?俺、あんな心配そうな目されたのって、小学生のときに離婚して出てったお袋くらいしか、覚えがねえ。


俺、今でこそこんな強面だけど・・・小学生の頃っちゃ、イジメられっ子だったからな。
お袋には・・・心配かけたもんだ。

女は・・・ぽかんと、間の抜けた顔してやがる。
やっぱこいつ、トロくせー。


「よう!・・・なるほどな、その制服、はば学のお嬢サマってワケか。」
嫌味な言い方、しちまう。
なんてえか・・・はば学っていうのは、ここいらじゃ金持ちで、頭イイ・・・そんなイメージがついてまわってっから、コンプレックスっつーの?そんなもんが有ったかもしれねえ。


「なんなの?」
「いや、ほら。・・・お高くとまってるし。」
俺がそう言うと、キッと俺を睨みつける。
「ほっといてよ!関係ないでしょ!?」
へえ、けっこう気の強いとこも、あるじゃん。

ふと、思う。
俺のこと、怖くねえのかな?こいつ・・・


こんなはば学のやつらなんて、俺にふつう、びびるんじゃねえ?
そう思ったら、可笑しくなった。
こいつ、けっこういい度胸してんじゃん。

ちょっと、ちょっかい出したくなった。


「関係あるだろ? なんせ、これからデイトなんだから。」
一瞬、目を丸くすると、言い返してきやがる。
「まさか!誰が名前も知らない人なんかと!」
なあ、おまえ、ナンパされたら、シカトするんが1番なんだぜ?
そんな言い返してたりなんかしてりゃ、いいようにされちまうぞ?


「名前を知りたきゃ、まず自分から。・・・はば学じゃ、教えねえの?」
からかってやる。
ふん、ぐっと詰まってやがるぜ。
けど、まさか・・・
「三木・・・まりも。・・・2年生。」
こんな俺みてえな男に、本気で名乗るなんて、思わなかった・・・


2年か、俺と、タメじゃん。
なんか、ちょっと嬉しくなった。
「あ、学年、一緒。俺、天童 壬。羽ケ崎学園。ま、制服見りゃあわかっか?
でも・・・まあ、そうだろうなぁ・・・」
「なによ?」
「いや、金持ちで優等生のはば学のお嬢さんじゃ、寄り道なんて、出来っこないか。」

挑発、してやった。
俺、この「三木まりも」と名乗った女を、からかって・・・面白がってる。


「そんなこと、言ってないでしょ!!」
案の定、言い返してきた。
こいつって、単純過ぎやしねえ?
すかさず、腕を掴んで言ってやった。
「じゃあデイトだな?決まり!ゲーセン行こうぜ!」


途中、逃げだしゃ、それでも良かった。
けど、まりもは付いてきたんだ。
まあ、俺が強引に引っ張ってったのもあったけどな。
なんか・・・もう少し、こいつからかってやるのも、面白えかな、なんて思った。


ゲーセンに着いて、声をかける。
「カ~ノジョ、なにからやる~?」
「あのね、その『カ~ノジョ』っての、やめてよね。」
そこ、突っ込むのかよ?
ならばと、俺は今聞いたばかりの名前を呼び捨ててやった。
「じゃあ、まりも、なにから?」


まりもは、何か言いた気な顔をしたが、何言っても無駄か・・・くらいに思ったんだろ、それとも、
「カーノジョ」って呼ばれるよりは、マシだと思ったんだろうか、そのことについては、何も言わなかった。


「あれに、する。」
まりもが選んだのは・・・いや、UFOキャッチャーは、べつにいいんだぜ。
けど、戦隊ボルバビンのヌイグルミって、どうよ?ガキじゃあるめえし。

「あれって・・・おまえ・・・あれ、かあ?」
「うん、弟が好きなんだよ、あれ。」
「ふ~ん、・・・ま、いいっかぁ。よし、俺がコーチしてやっから、頑張れよ。」


弟・・・か。
仲、いいんだろな、こんな時に弟の好きなヌイグルミ、取ってやっかなんて思うくらいには。
この頃、口もきいてない兄貴のこと・・・思った。
ガキの頃は、兄貴の後ばっかり、追いかけてたってのによ。


はば学のお嬢で、こんなのやったこともねえだろ、そう思ったんだが、まりもは案外上手かった。
「アハハッ!おまえ、ヌイグルミ、取りすぎだろ?店のヤツの顔見てみろよ。スッゲェ顔してるぞ?」
「もう、天童くんが、やらせたんでしょうが・・・」
まりもは、ふくれっ面して言い返す。


なんか・・・俺たち、ダチみてえじゃねえ?
ヌイグルミを取るのに夢中になって、ころころ笑う顔が・・・可愛いんじゃねえ?そう思っちまった。


いいかげん、ヌイグルミを取ってたら、外はもう薄暗くなってた。
「おまえんちの近くまで、送ってやるよ。」
女にそんなこと言ったのは、初めてだった。
俺の知ってる女は、送ってやらなきゃいけないって思うようなやつ・・・いなかったからな。
こいつは、なんかトロくて、単純で、ほっとくと、危なっかしいような、そんな気がしたんだ。


「ここまで来たら、もうすぐそこが家だよ。」
公園でそう言うまりもに、ここまでな、と言ったら、
「うち、もうすぐ、そこだよ。お茶でも出すから寄って行きなよ。尽、あ、私の弟なんだけど、お礼も言わせたいし。」
そんなことを言うんだ。


俺、まじまじと、まりもの顔を見た。

「まりも。おまえ、バカって言われねえ?」
俺にそう言われて、まりもはムッとした顔をした。
あ、いや、おまえを怒らせるつもりは無かったんだ、ただ・・・・
「いや、悪りぃ、俺の言い方がバカだった。・・・おまえ、こんなの連れて帰って、家の人にどう思われっか、とか、近所のオバちゃんたちに出会って、どんなこと言われるかって、考えねえの?」
俺みてえに、あきらかにワルだってわかるやつを・・・ごく普通の友達に言うみたいなこと言ってるまりもが、信じられなかった。


まりもは、不思議そうな顔をする。
「俺みたく、いかにもワルですってヤツとつるんでるだけで、おまえの評判、悪くなっぞ。」
「だって、天童くん、ワルじゃないもん。」
俺・・・思わずまりもをまじまじと見ちまった。
俺が・・・ワルじゃないって・・・そんなこと言うやつなんて、今までいなかった。

「おまえって、人を見る目ねえって言われねえ?」
「言われないよ、そんなこと。私は、ね。自分の目で見たことしか、信じない。私の見た天童くんは、ワルじゃないもん。」


俺・・・言葉が出なかった。
今まで・・・こんな真っ直ぐに俺を見たやつが、いたか?
みんな評判だけで、俺のこと判断して、近寄ってくるやつなんざ、いなかった。

こいつは・・・・自分の目でみたことしか信じないっていう。
こいつの目には・・・俺はワルじゃないって、映ってるっていうのか?
ただの、はば学のお嬢だと思って、からかってやろうとした俺のほうが、こいつをちゃんと、見てなかったんだ、な。


「ゴメンな、さっき。」
思わず、そう言ってた。

「俺、おまえって、もっと嫌味なやつかと思ってた。だから、挑発して、引っ掛けるみたいなこと、しちまって・・・」
「ううん、ゴメンは、お互い様だよ。私だって・・・天童くん、もっと怖い人かと思ってたもん。」
言うじゃないか、こいつも。
そこで、俺たちは吹きだしていた。


悪いこと、しちまったな、こいつに。
「なあ、おまえ・・・ホントは今日、勉強かなんかの予定じゃなかった?」
「うん・・・ホントは、ね。テスト前だし。」
引っ張りまわしてすまなかった、そう言う俺に、まりもは事も無げに楽しかったからいいんだと言った。
「いや、よくねえよ。そういうの・・・・よくねえ。」
おまえは俺と違って・・・まともなんだから、俺みたくさぼらしたりしちゃいけねえんだ。


その時、俺の携帯が鳴った。
ダチからだ。
また、もめてんのかよ。
しゃーねーな、行かなきゃな。
まりもを見て、少し迷ってから、言ってみた。
「ワリぃ。ちょっとヤボ用が出来ちまった。・・・・なあ、またデイトしような?」
ちょっとだけ・・・いや、半分くらいは本気で。
なんか、会えるもんならまた会ったら面白いんじゃないかって。


まりもは驚いた表情だった。

返事を聞いちまうのが、なんだか怖くなって、俺はそのまま走り出す。
途中で、これだけは言っとかなきゃ、と思って、立ち止まって怒鳴った。
「期末、ガンバレよ!」
俺も、どっかで間違ってなかったら・・・あいつみてえなやつらと、さあ試験だ、なんて過ごす日々があったんだろうか・・・そんなこと考えながら、仲間の待つ修羅場ってやつに向かって走った。


今思えば・・・この時すでに、ちょこっとは惚れちまっていたのかも・・・しれねえな。
あの、真っ直ぐな眼に。



オレの純愛物語  <2>出逢い

あいつ・・・三木まりもとの最初の出会いは、俺があいつを利用したかたちで始まった。
あの日、俺はドジ踏んだ。
一人のときに、以前ボコにしてやったやつらのグループと会っちまった。
いくら俺がケンカが強いったって、1人で複数相手は、ちっとばかしキツい。
まいてやろうと走ってたら、うっかりぶつかっちまった女・・・それが、まりもだった。


「ワリぃ・・・大丈夫か?」
俺は、紳士だからな、こういう時ゃきっちりワビ入れる。
「う、うん・・・たぶん。」
女は、そう言った。
たぶん?・・・なんだかトロい女だなぁ・・・そう思った。


やべぇ・・・遠くから、やつらの息巻く声が聞こえてきやがった。
「なあ、この店、入んだろ?買い物、つきあってやるよ。」
目の前の店は、女向けのブティック。
このトロくさそうな女を利用させてもらおうじゃん。
まっさか、こんな店に俺一人で逃げ込むわけにゃいかねえもんな。


まりもは、目ぇ白黒させてたっけな。
俺はその腕を掴むと、強引に店に連れ込んだんだ。
とりあえず逃げ込んだら、女に用はねえ。
俺は、陳列棚の陰から、外のやつらの様子を伺ってた。


「あの、一体、なんのご用なんでしょうか?」
えらく丁寧な物言いに、初めて俺は、目の前の女の顔を見た。
こんな丁寧な口調で喋る女も、こんな生真面目な表情をする女も・・・今までの俺の知ってるやつらの中には、いねえ。
化粧っ気ひとつない女ってのも、見慣れねえ。


まあ、可愛くないこともないだろうが・・・それほどパッとした女じゃねえよな。
「ん?・・ああ、ええっと・・・ほら、アレ!ナンパ?」
なんのご用かって聞かれて、答えねえわけにもいかねえだろう。
テキトーなこと、言っとく。


そしたら、ムッとした顔になったね、こいつ。
「はあ!?帰るっ!」

とんでもねえ、今帰られてたまるかっちゅーの。
まだ外にはやつらがうろついてんだぜ。


「なあ、頼むよ!こんな店、俺1人じゃヘンだろ?・・待ってろ、すぐすむから。な?」
俺、ちっとはナキ入ってたかもしんねえ。
女の足が止まる。
あれ?なんか心配そうな顔・・・してるのか?


とにかくダチに連絡を取らなきゃな。
軽くウィンクひとつかましといて、携帯を手にした。
ようし、連絡はついた、へっ、首洗って待ってやがれ、あいつら。
女のほうにニコリと向き直る。


なんでこいつ、こんな深刻そうな顔してんだ?

「よし、と。待たせたな?・・じゃあ、俺、先行くわ。」
俺がそう言うと、やっぱりなんだか心配そうな顔のまんま、
「ええっ!?・・ねえ、ちょっと・・・・」
なんて、言ってきやがる。


ヘンなやつ・・・と思った。
自慢じゃないが、一目でワルだってわかる風体してる俺だぜ?
普通は、係わり合いになりたかないハズだ。
「ワリぃ!デイトは、また今度ってことで。」
そう言って、店を出たんだが・・・あの心配そうな顔は、やけに印象に残ったんだ。


この時、俺はまだ、まりもの名前すら、知らなかった。


オレの純愛物語  <1>卒業式

終わったな・・・そう思いながら帰る道すがら、俺は前から歩いてくる男を見た。
葉月・・・自分が好きだった少女が、ひたすら愛してやまなかった唯一人の男。
一発くらい殴らせてもらっても、いいような気がした。
だが・・・少女、まりもと俺には約束が有った。
ケンカはしない、という。


その約束をたとえ半分だけでも守ったことを告げたい、ただそれだけのために自分の卒業式もそこそこに、ここまでまりもに会いにきたのだ。
俺は自分でもどうするか決めかねたまま、立ち止まってこちらを見ている葉月に近づいた。
いきなり繰り出してやった俺の右パンチを、葉月は避ける気配も見せなかった。
寸止めで俺は止めていたんだが。


「葉月、なんで避けない?」
俺の低く押し殺した声にも、葉月は動じた様子は見せない。
そこいらの男なら、俺のこんな凄んだ声だけで怖気づくもんなんだがな。
葉月は、ただ黙って、俺を見詰めているだけだ。
その不思議な色の澄んだ瞳で。

「ちぇっ・・・・ムカツクやつだぜ。」
思わずそんな言葉が出たが、言葉とは裏腹に俺は悪い気分じゃなかった。


葉月とまりもの間に、破局が訪れたと知ったときに、もしかしたらあいつが振り向いてくれはしないかという、そんな望みを持ってしまった。
まりもが一途な性格のやつだと言うことを、充分にわかっていながらも。

だが、まりもはその一途さを貫いた。
そしてまた、この葉月もあいつに劣らぬ一途さでずっと愛し続けてきたのだろう・・・まりもを。


俺の入り込める隙間は、最初っからどこにも無かったってわけだ。
返ってそれが小気味のいい気がした。

「まりもと・・・ケンカはしない約束してっからな・・・おまえ、命拾いしたと思え。」
そう言った俺に、葉月は初めて口を開いた。


「俺、負けない。勝てないかもしれないけど・・・負けはしない。」
笑ったよ、声をたてて。
羽学の天童、と言えばその辺の不良など、尻尾を巻いて逃げ出すのが通り相場だというのに、その俺にこれだけの事を言える葉月は、かなり度胸も据わっている。

「ますます、ムカツク。・・・ああ、おまえは、負けないだろうよ。・・・じゃあ、な。」
そう葉月に言い捨てて、俺は歩き出した。


葉月のやつ、もう迷いの無い眼をしてやがった・・・そう思った。
まりもは、俺の愛した少女は、葉月という王子さまを、あの教会で待っている。
絵に描いたような、ハッピーエンドじゃないか・・・そう思った。

彼らの間に、どんないきさつが有って付き合いだし、そして別れが有り、今また結ばれるのかは、俺は知らない。
俺はただ、自分の愛したまりもの幸せを、願うだけだ。
あいつは、あの葉月でなければ幸せにはなれないのだろうから。


さっき、唯1度だけ抱きしめたまりもの身体の温かさを、思う。
1回だけゴメン・・・そう言って、俺はまりもを抱きしめた。
最初で最後の・・・抱擁。
そうさ、成り行きで手くらい繋いだことは有ったけど、それ以上のことは何もなかったんだぜ、この俺が、な。
純愛・・・・って言っていいんじゃねえ?


「好きだった、おまえのこと。・・・幸せになれ!」
そう・・・言った。
最後くらい、カッコつけたいじゃん。
惚れた女の前でくらい。