タマのお家 -3ページ目

オレの純愛物語 <6>お勉強デイト2

「昔話、おしまいっ!っと。・・・なあ、まりもはやっぱ大学とか、受けんだろ?」
「ハッキリ決めたってわけじゃないけど、たぶん。・・・でも、どうして?」
まりもが口ごもりながらそう答えたとき・・・忘れてた感情がよみがえった。
こいつと一緒に大学なんて・・・行けたら・・・どんなにいいだろうって。
夢みたいな、そんな気持ちを・・・・


俺、冗談のようにしてだけど、言っちまった。
まりもってやつは、なんだか人の心を素直にしてしまう魔法でも使えるんじゃねえか?

「いや、俺も、その・・・・受けてみよっかな、なんて。大学。あ!もちろん、ダメもとでさ。」


8割がた、冗談のつもりだった。
ところが、まりもは俺の眼をしっかりと見て、真剣に言ったんだ。
「天童くんさえやる気になれば、きっと大丈夫だよ!まだ、間に合う。まだ、時間はある。」


マジ・・・かよ?・・・こいつ、マジでそう言ってんのかよ?

「ホントに・・・おまえ、そう思う?」
そう訊ねた俺に、まりもは真面目な顔で、きっぱりとうなづいた。
「うん。思う。」


俺・・・・眼を閉じて、いろんな思いを整理しようとした。

今はこんなだとはいえ、端にも棒にもかからねえって成績でもねえ。
授業聞いてりゃ、多少の点数は取れた。
まあ、自分で言うのもなんだが・・・もとはイイんだ。腐っても秀才と呼ばれたんだし。
今からでも・・・やる気になりゃあ・・・ひょっとして、いけるんじゃねえ?


まりもに乗せられたのかもしれねえ。
けど・・・こいつになら、乗せられたって、悪くねえ、そう思った。
ヘンなやつだよなあ・・・
なんかこいつが傍で、のほほんとした顔して、「大丈夫だよ」なんて言ってくれてたら・・・俺だってやれるんじゃねえか・・・なんて、そう思っちまった。


そんなガラにもないやる気を起こしてる自分が、可笑しくて笑っちまったよ。
「けど、俺、自慢じゃないけど、はね学ん中でも、中の下・・・の下のほうだぜ。」
まりもにそう言うと、さすがに考え込んでやがる。
嘘はつけそうにねえやつだもんな。

そして、俺をしっかと見据えた。
「でも、一生懸命、やるんだよね?」
俺も、こいつにいいかげんなこと言えねえ、そう思った。
「ああ、もちろん!死んだ気でやる!」


まりもは、恥ずかしそうに、秘密を打ち明けるみたいに話した。
「あのね、私だって、1年の頃は100番以下、それも中と下のあたりを、ウロウロしてたんだ。でもね、友達や先生に助けてもらって、頑張って・・・こないだ、目標にしてた50番以内に入れたんだよ。」

へえ・・・こいつ。こつこつ頑張るタイプなのか・・・
「すげえじゃん。」
努力家なんだ、ほんとにそう思った。


そしたら、まりもは・・・こいつ、天然で、男を奮起させるツボこころえてるんだよなあ・・・
「すごくなんか、ないよ。天童くんは、今からもっとすごいことに、挑戦するんでしょ?」
にっこり笑って、そう言った。

これが計算で言ってんなら、大したもんだと思うぜ。
けど、こんなトロい女が、そんな計算して物言えるわきゃあ、ない。
おまえ、少なくとも、俺のやる気を引き出すことにかけては・・・凄腕!
ああ、そうだ。俺、挑戦ってやつ、してみるかって気分になってるよ。


まりもはそこでまた、にこにこしながら、キツいことを言う。

「それで、もうケンカもやめるんだよね?」
おいおい、なんでここでそんな話が出るんだよ?
「エッ!?・・・あぁ、その辺は、そうだな・・・」
「なに!?」
こいつ・・・けっこう迫力あるんじゃねえ?
否とは言えねえ雰囲気だぜ・・・・


ケンカ、か・・・
べつだん、しなくったって生きてけねえことも・・・ねえよな?
なあ、そんなら一つ交換条件ってえの、出してもいいか?
「・・・ううう、わかった。俺も男だ、やめる。・・・その代わり・・・なんだ、勉強、ときどき、見てくれるか?」
「もっち、ロンロン!」
あんまりあっさりと交換条件を飲まれて、俺のほうが驚いた。


もし、もし、頑張って大学に入れたなら・・・俺、こいつと一緒にいられっかなあ・・・。
「じゃあ、卒業したら、俺ら大学生カップルだな!」
そう言ってみた。
ところがまりもはあっさりと答える。
「ただの、同級生だってば!」
ちぇっ!こんだけオレに好意的で・・・その答はないんじゃねえ?


「いいんじゃねえ?カップルっても。」
「よくないよ。そんな、一方的に決めない!」
そんな会話を交わして、俺は気づいた。
ひょっとしてこいつ・・・・もう決まったやつ、いるんじゃねえか、って。
けど、こんな子供っぽいんだぜ?色気なんざカケラもねえし。
「なあ、まりも、おまえって、男、いるのか?」
一応、聞いてみた。


えええっ?っていうような顔するまりもにさらに聞く。
「つきあってる男がいんのかよ?って聞いてんの!」
そしたら返って来たのがこの答だ。
「うん、それならたくさんいるよ。」
あきれるっきゃ、ねえな。
ワザとじゃねえとこが、こいつの凄いとこかもしんねえ。


「ったく、おまえって。そんなとこでボケかましてんじゃねえよ。ワザとかよ・・・っておまえの場合マジなんだろうけど、さ。カ・レ・シ!!彼氏がいんのかって、聞いてんの。」
さすがに、ここまでハッキリ聞きゃあわかるだろうよ。
ひどく真面目な顔つきになったまりも。
だが、返事はまりもの口からじゃなくて、別のやつがした。


「いる。俺。まりもは、売約済み。」
長身、程よく筋肉のついた引き締まった体つき、何より・・・ハーフなのか?淡い色の髪に碧の眼をした、男にしては綺麗過ぎる美貌。
なんだ?この美形の男は?
どっかで見たことあるぞ・・・・・・・


俺は少し考え込んで、思い当たった。
こいつ、俺の周りの女たちにひどく騒がれてる、。あのモデルじゃねえ?高校生の。
そうだ・・・・名前もなんだかスカしてたっけ・・・・葉月・・・珪・・・だ。
なんて言った?まりもは売約済み?
なんで、まりもとこのモデル男とが・・・・・


オレの純愛物語 <5>お勉強デイト①

なんでもない日曜日のはずだった。
朝からひとしきり、臨海公園でスケボーやって、腹へったんで解散して、うちでメシ喰って、腹ごなしに外に出た。
これから、どうすっかなあ・・・なんて、ふと傍のサテンを見たら・・・まりもの横顔が見えた。


あいつ・・・何やってんだ?
難しそうな顔して・・・・

アルカードってサテンは、品が良くて、俺たちみてえなやつらには縁のないとこだったが、俺はのこのこと、近寄って行った。
まりも・・・こんなとこで、おまえ、勉強してんのかよ?
なんも、こんなとこで勉強なんかしなくてもよ・・・そう思いながら、俺、思い出してた。
この前、別れ際に言ったこと。


「今度、明るい内にお勉強デイトだ!」

これって、運命って言うんじゃねえ?
俺とこいつの間には、なんかしらただの縁以上のもんが、あるんじゃないかと、思ったよ。
いや、俺がそう思いたかっただけなのかもしんねえけどよ。


ちょこっと入りにくい気がしたけど、そのアルカードってサテンに入ってった。

まりもの近くに行っても、夢中でプリントに向かっていて、気づきもしなかった。
集中してんだな・・・と思ったら、突然まりもが声を上げた。
「ああ!もう~・・・氷室先生め!」
煮詰まってたんか?覗いてみたら、どうやら数学のプリントみてえだった。


「誰、それ?・・ふふ~ん、数学の教師かなんか?」
声をかけると、間抜けたツラしやがる。
「どうして?・・・・いつからそこにいたの?」

「ハハ、たまたま窓の外からおまえが見えたんだよ。ホラ、お勉強デイトの約束、したろ?」
「してない。」
「したんだ、よ。」


コーヒーを注文して、まりもの前に座った。
なんか言いたそうな顔したけど、まりもはまたプリントに向き直る。
へえ・・・シカトかよ?

まあいいやと、俺はちょうど運ばれてきたコーヒーを飲みながら、まりもの悪戦苦闘を見物してた。


どこで、つっかえてんだ?・・・そう思って、プリントを覗き込む。
俺、幾何は、超得意だったんだよなあ・・・
まりもの考え込んでる問題・・・口出ししていいもんかどうか、迷ったけど・・・
あんまり考え込んでぐるぐるしてんの見てて、言っちまった。

「それさ・・・その三角形。・・・頂点Bから垂直に線、引っ張ってみ。」
「ん・・・?」
「そんで、裏返したら、そっちのと同じになるんじゃねえ?」


「スゴイ!スゴイよ、天童くん!!」
まりもは、なんの裏もない、純粋に賛嘆の言葉を・・・くれた。

なんか・・・ケンカ以外で認められるだなんて・・・どれくらいぶり・・・なんだろう。
俺、ちょっと得意になったかもしれねえな。
「まあ、な。こう見えても、俺だって・・・・ま、いいや。」
いけねえ、いけねえ・・・んな、昔の話してどうすんだよ・・・。


「なに?最後までちゃんと言いなよ。」
ところが、まりもは、そう言いやがる。

「ああ。中1くらいまでは、さ・・・・やっぱ、いいや。どうせ、信じねえだろ。」
話し出したものの、今の俺を見て、そんな話信じてもらえるわけ、ねえなと思った。
この俺が、勉強が超出来た、だなんてな。


「信じるよ!、で、なに?」
けどよ、まりもの真っ直ぐに、なんの疑いも持たねえ瞳見てっと、続けて話してた。
「スゲェ、勉強・・・出来たんだ。ホントだぞ?・・・学校でも1番くらいに。」

それは、ほんとの話だ。
俺、小学校の時から、勉強だけは出来たし、嫌いじゃなかった。


いや、もっと言えば、勉強するのって、好きだった。
いろんな知識を知って、覚えて増やすのって好きだったし、難しい問題解けたときなんて、すげえ嬉しかったし。
まわりのやつらとは、全然レベルが違うってくらい、秀才だった。

だから・・・スカシてるとか、そんなふうに思われたんだろうな・・・ダチが出来なかった。
それどころか、その頃はチビでもやしっ子みてえなもんだったから・・・イジメられさえしてた。
ったく、あの頃の俺・・・悲惨だったよなあ・・・・。


「じゃ・・・どうして、そんな・・・」
まりもはそう言った。
「フフン、出来損ないになったかって?」
「あ・・・ゴメン。」

いや、あやまんなくったていいよ。
そりゃあ、そう思って当然だろうし。
俺、こいつなら・・・なんとなく話してみてもいいか、なんて思った。


誰かに聞いてもらいたかったのかも・・・しれねえ。
なんで、こうなっちまったのか・・・親父や兄貴にだって、言ってねえことだけど・・・なんか、こいつだったら、よけいなことナシで、真っ直ぐに俺の話、聞いてくれるような、気がした。

「勉強は・・・好きだったんだぜ、俺。けど、まあなんつーか、こう・・・。ハッキリ言やあ、俺、友達とかいなくてさ。敬遠・・っちゅーの?・・・中学で初めて出来たダチが、ワケありでグレはじめてさ。最初、俺が更生させてやる、なんてガラにもねえこと思っちまってよ。・・・で、つるんでるうちに、な。・・・あは、今じゃ完全に手遅れってやつ?・・・親からもガッコーからも、シカトされてっし、な。」


まりもは、痛みをこらえるような顔、した。

こいつ、ほんと、なんてえの?
お人好し?
なんも、そんな自分のことみてえに辛そうな顔するこたぁ、ねえだろう?
俺のことなんだし、おまえ関係ねーじゃん。
俺のことで・・・なんでそんな辛そうな顔・・・してくれてんだよ?



そう思いながら・・・なんとなく胸ん中が、ほっこりするのを感じた。
なんか・・・心配してくれる人がいるってのも・・・悪くないもんだよな。
俺も・・・まともにいってたら、こうやって、勉強して・・・大学になんて・・・
そう思ったら、胸がずきんとした。
ガキの頃は、大学進学っていうのが、当たり前の進路のように思ってたっけ。
一流大学、間違いなし、なんて言われててよ・・・・
ちぇっ・・・昔の栄光?なんて・・・なんになるってんだ、今さら。

オレの純愛物語 <4> 心配?この俺が?

俺ん家は、商店街の青果店、「八百天」。あんま流行ってねーチンケな店だが、果物には不自由しねえ。
まあ、平たく言やあ、ガキのころから売れ残りのもん、食べさせられて育ったってぇこった。


それだから、商店街は俺の庭みてえなもんだ。
その日も店番してる兄貴を横目に、家を出てふらふらしてた。
もう、あきらめられてっから、親父も兄貴も、俺のことはシカトしてるし。


街はもう薄闇に包まれようとしている。

そしたら、前から不景気なツラしたあいつが歩いてくるじゃん。
今時分、こんなとこ、なんで歩いてるんだ?三木まりも。


「おお?これから夜遊びか?やるな、優等生。」
まさかそんなことはねえだろうと思いながら、そう声をかけた。
「天童くん!」
びっくりしてやがる・・・・


退屈しのぎに、からかってやるか・・・・
そういや、こないだ、またデイトしような、って別れたんだ。
「よう。・・・なあ、こないだデイトの約束したよな?」
「してない!ってば。」
すかさず、そう言い返しやがる。
それくらいで俺が引くわきゃあ、ない。


「したさ。俺、覚えてっから。」
「私は、し・て・な・い、の。」
こんな言葉のやりとりも、なんか面白かった。
シカトされるのに慣れてる俺には、まともに言い返してくるまりもが、なんか嬉しかったんだ。


「そんな、忘れっぽかったら、困るぜ、優等生。」

からかい続ける俺に・・・まりもはなんか眉間にシワ寄せてる。
「そんなことより!ねえ、どうしたの!・・・その顔のキズ・・・」
ああ、これかあ・・・名誉の負傷ってやつ?
「ああ、昼間ちょっとモメて。・・・倍返ししてやったけどな。」


まりもの顔は、ますます難しそうになった。
俺、ケンカ強いってのは、まあ自慢だったからな。
「つーか、俺、連戦連勝だし。・・・カッコいい?」

俺の周りの女なら、カッコいいーって、言ってくれるとこだぜ?


ところが、まりもは違った。
私、怒ってます!って顔になったかと思うとすげえ剣幕で言うんだ。
「・・・カッコよくなんか、ない!・・・もう、やめなよ。」
俺、一瞬ひるんだけどよ・・・今の俺、他人に誇れるもんなんて、ケンカが強いってくらいのもんだけしかねえんだよ。
それ、否定されるってのは・・・俺を否定されるような、気がした。


「あ、信じてねえ。この辺りで、はね学の天童って聞いてみ?ちょっとした有名人だぜ?」
だから・・・そう言ったさ。
ちょっとは、俺の存在感ってやつを認めて欲しかったのかもしれねえ。
そしたら、まりもは、悲しそうな顔になった。
俺にしてみりゃ、心底意外なリアクションだったし、その後に続いた言葉にも驚かされた。


「もう・・・バカ!だから、ケンカ売られるんじゃない!・・・こんなこと、いつまで続けるつもり?いつかは、ひどい目に合うよ!・・・心配だよ・・・」

心配・・・?だってぇ?・・・この俺が?・・・・
俺、目の前のまりもを、つくづくと眺めちまった。


そんなこと・・・俺に言うやつなんか、初めてだった。
「バカもん!」だとか、「不良!」だとかは、言われ慣れてっけど・・・この天童壬に、「心配」だなんて言ったやつは・・・遠い昔のお袋くれえなもんだぜ?
おまえは、俺のなんだってんだよ?ええ?保護者なんかよぉ?


ほんとに不思議だったんだ・・・なんで他人の俺のこと、そんなふうに思えるんだ?って。
「なあ・・・心配って・・・俺がか?」
「うん・・・・」
半信半疑で聞いた俺に、まりもはしごく当たり前のようにうなづいた。
ため息が・・・出た。


「なんか・・・調子狂うんだよなあ。おまえみたいな、お嬢ちゃんってのは・・・」
思わず、そう言っていた。

まりもは、黙り込んでいた。
ちっきしょー・・・マジ、調子狂わされてるじゃん、俺。
なんか・・・こいつと話してると、俺、時分がまともな人間みたいな気分になってくるじゃん。


なんか・・・やべえんじゃねえ?
けど・・・こいつには・・・あんま俺のワルんとこなんか、見せられねえな、なんて思っちまった。
「よーし、今日は見逃してやるよ。・・・その代わり、今度、明るい内にお勉強デイトだ!・・・・
いいな?約束したぜ。・・・じゃあな?」


俺は、そう言うなり、走り出していた。
なんか、これ以上まりもといたら・・・自分が自分でなくなっちまうような、そんな気がして。