系統用蓄電池は誰が買うのか?

素朴な疑問である、簡単だ。投資家が買うのだ。

ただ、数十億円をポンと出せる投資家でないと無理。

となるとどうしても日本企業でなく、外国資本企業となる。

日本企業の蓄電池は2MW/4MWhと小さいのが多いのはリスクオンできないから。

外国の投資家とコミュニケーションを取るには英語力は必須となるから、どうしても外資系開発会社が有利となる。

 

それと投資家に買ってもらうためには適切な用地選びが必要だ。

一番良い土地は今すぐ大型バスやトレーラーが転回できるような工業団地の近く。

なぜ、工業団地かというと役所のお墨付きの造成済みでハザードマップ外なのと太い電力系統がすでに来ているので、投資家も安心するし工事費負担金が安くなる可能性がある。

大型車が転回できる場所が望まれるのは30~40トンもある重たい蓄電池コンテナを荷下ろしする140トンラフテレーンクレーンを使う必要がある。

なお、TeslaのMegaPack 2XLの蓄電池コンテナは40tあるので、140トンラフテレーンクレーンでは倒れるから無理。現地で200tクレーンを組み立てる必要がある。なのでどうしても大型車が転回できる場所が求められる。

 

米の値上がり騒動で米の保冷倉庫が倒産するとか言っているが、そういう場所に系統用蓄電池の設置はとても好適であろう。

【高圧】系統用蓄電池(2MW/8MWh)の接続検討をたくさんするとその結果より傾向が見えてきた。

 

  1. 変電所に近いところ(1km圏内)は工事費負担金が安い。20万円~300万円くらい。
  2. 変電所から5kmを超えるとSVR 5000kVAなどの補償機器が必要になり、1,000万円単位ではねあがる。
  3. 基幹変電所(275kVクラス)の変圧器増設が必要となると数十億円になり、期間は70~90ヶ月になる。
  4. 架空線でなく地中埋設配電線になると高額になる。架空線新設不許可の自治体あり。
今回は3.のパターンで東北電力管内基幹変電所の変圧器増設が必要で45億。配電線工事で5億かかるので、合計50億円。
転進だ。だいたいこのような蓄電所用地は平坦かつ隣に民家がないので何となく高額の予想が当たる。
 
なお、高圧系統用蓄電池でもやはり2,000kW級なのでローカルの変電所はかなりの負担となる。3億円~6億円は普通に出てくるので金脈探しのようなものだ。5千万円が安く思える。
関東でいうと龍ケ崎、神栖、鉾田や阿見など茨城県は工事費負担金2億円以上は普通なので開発が難しい。
数年後は系統が緩和されることを祈りながら接続検討申込するしかない。

 

【高圧】系統用蓄電池(2MW/8MWh)の販売価格が税別6億円だが、これ、買う人いるのだろうか?

海外のファンドは日本市場の系統用蓄電池に興味を持っているものの、高圧の系統用蓄電池(BESS)を6億円でそのまま買うファンドは皆無と思われる。なぜなら転売をもくろんでいるからだ。

 

それと出自のよくわからない業者からの購入はためらわれる。プロジェクトファイナンスが組めない限り融資もままならない。

プロファイが組めなければ、着手金を払ってドロンされる可能性がある。この手の取引は2億円くらい溶かせるくらい、つまりとても安くないと成立しない。さしずめ半額の3億円が妥当なところだろう。

 

もちろん一次調整力取引できるのは絶対条件だが、開発業者のスキルがいかほどなのかは疑問である。もちろん詐欺もありえる。

OCCTOのWebを見ると、例によって接続検討申込書の様式が2025/4/1に更新されてた。

いままではマイナーバージョンアップだったのだが、今回はずいぶん入力様式が変わっている。

  • FAX番号入力が無くなった
  • 様式5の3 設備運用方法の受電電力パターンのフォーマットが大幅に変わった
  • 複数の発電設備(例えば太陽光発電と系統用蓄電池)の組み合わせでの申込対応

私は接続検討申込書のエクセルをセル参照してテンプレート化しているがその作業に半日程度要した。これからバグ潰しする予定。

 

 

狭い日本で系統用蓄電池の土地探しは難しい。

高圧2MW/8MWhだと500平米弱、特別高圧50MW/100MWhだと7000平米の平坦な土地があればよい。

ただ、災害王国日本では適した土地は少ない。

  • ハザードマップで土石流、浸水地域はダメ
  • 隣に住宅地はダメ。住民の反対運動。無理に設置すると騒音苦情・裁判沙汰を引き起こす。
  • 傾斜地はダメ。蓄電池コンテナトレーラーが入れない。
  • アクセス道路が4m未満もダメ。蓄電池コンテナを吊る200tクレーンが入れない。
  • サイトまでのアクセス道の途中に10t重量制限の橋があるとアウト。
  • 高さ制限のガード下をくぐらなければならない場所もアウト。
  • 接道面にみず道があると難易度が高くなる。ボックスカルバートT-25も微妙。蓄電池コンテナ30t(アルファード25台分)が耐荷重制限で入れない。
  • 農転可能も高圧はダメ(早期連系が優先)
  • 送配電会社に支払う工事費負担金額と連系までの工期が短いこと
    高圧2MW:工事費負担金額 最大5千万円 工期は12ヶ月以内
    特別高圧50MW:工事費負担金額 最大3億円 工期は24~36ヶ月以内

【余談】

系統用蓄電池をBESS(Battery Energy Storage System)と呼ぶ。ただ系統Gridを冠していないのが気になる。

日本ではログハウスのブランドにBESSがあるようだ。
 

意外な話だが、系統用蓄電池の接続検討申込は高圧より特別高圧のほうが審査ハードルが低い。

その理由として、接続検討申込の担当窓口が高圧と特別高圧で異なることがある。

 配電線を担当:高圧

 送電線を担当:特別高圧

 

この違いが接続検討申込の審査に影響する。

配電線を担当する高圧担当のほうが重箱の隅をつつくようにうるさい。

申請ボリュームが少なく、送配電会社プロパー社員が審査する四国、北陸にその傾向がある。

一方、送電線を担当する特別高圧は割とあっさりだ。

まぁ、受変電機器は重電8社しか作れないから機器が固定されることもあるからだろう。

 

【余談】

受変電機器はスイッチギアというが、その略称はSG、SWG、SWGR? 私はSGがすっきりすると思うが、以前の鉄道の機関車に装備されてたSteam Generatorや原子力発電の蒸気発生器をSGと略するので混同するかな?

トーリング契約をご存じ?

 

トーリング契約とは「顧客から燃料を預かり、電気に変換して顧客に返す発電事業の形を指す契約。電力売買契約の一種で、IPP事業者が売電先と締結する」

まさに火力発電所がトーリング契約により燃料を得て発電電力の有価物に変えて収益を得るというパターンだ。

これを系統用蓄電池に応用するもの。

 

系統用蓄電池は火力発電で使う燃料ではなく、充電電力にすり替わる。なのでトーリング先はバランシンググループを持っている小売電気事業者がターゲットとなる。

 

トーリング契約は規模の小さい高圧でなく規模の大きい特高蓄電所に限定される。

個人事業主の出る幕はない。系統用蓄電池をやめとけ! の一例である。

系統用蓄電池の開発手法として補助金をゲットするかしないかの選択肢がある。

SIIの系統用蓄電池・水電解装置導入支援事業や長期脱炭素電源オークション(LTDA)がまさに補助金ありきの事業。

それに対し補助金に頼らず完全市場取引で運用するのがフルマーチャントだ。

 

市場取引は①容量市場、②需給調整市場、③卸電力市場の3つがあり、それをフルマーチャント取引して収益を得るビジネスモデル。

まさにハイリスク・ハイリターン取引である。

 

一部の業者はフルマーチャントで参入する。ある意味正統な参入方法と思う。

系統用蓄電池とアグリゲータは一心同体の関係がある。

系統用蓄電池の充放電性能がよくてもアグリゲータのアルゴリズムが悪ければキャッシュインが悪くなる。その逆も同じ。

系統用蓄電池にとってアグリゲータの選定はキャッシュフローの良しあしにつながるのでとても重要。

また、アグリゲータが大容量のバランシンググループを持っていないければ元も子もない。

高圧の系統用蓄電池もアグリゲータサービスフィーは月110万円くらいで年1,300万円。確かにFIT売電にはこの費用はゼロだ。

これにびっくりして、自前でアグリゲータを作る動きがあるが、バランシンググループがないのと、制御アルゴリズムが作れないのでうまくいかない。

制御アルゴリズムはイギリスUKのクラーケン(Kraken Technology)のシステムが良いだろう。インプリメントはめちゃ高い。東京ガスのTGオクトパスエナジーはクラーケンを使っているみたいだね。

 

系統用蓄電池は電力需給システムに深くかかわりがあるので、どうしても電力会社系のアグリゲータ(関西電力のE-Flow)が有利となる。

ただ、電力会社系のアグリゲータは規模を追うので特高系統用蓄電池しか受け付けない。

 

アグリゲータはアグリゲーションコーディネータ(AC)とリソースアグリゲータ(RA)に分けられるが、発電事業者としてはAC/RAを一体として運用を依頼する。

あっ、需給調整市場にも触れないといけない。

 

系統用蓄電池は発電量調整供給契約となる。受給契約のFITと比べれれば、FITはチョー楽じゃんとなる。

 

FIT太陽光発電のポスト金儲けビジネスとして、系統用蓄電池がマスコミ記事を賑わしているのは周知のとおりである。

 

しかし、系統用蓄電池の開発・運用 個人事業主はやめとけ!と言いたい。

なぜならば、系統用蓄電池の最低容量がFIT高圧太陽光の最大容量と同じスケールである。

FIT高圧太陽光の2MWをコーポレートファイナンスで複数回せる人はとても少なかったろう。あの山佐は例外として。

そもそも、系統用蓄電池は特別高圧FIT太陽光で多用されるプロジェクトファイナンススキームでないとできない商品と思う。つまり、低圧FITや高圧ミドル太陽光で扱われたコーポレートファイナンス(リコースローン)ではすぐに資金が枯渇する。

数十億~数百億の金主を投資家から得る必要があり、それはプロジェクトファイナンスでないと不可能だ。

 

低圧FIT太陽光で一儲けした業者がポスト太陽光ビジネスで高圧系統用蓄電池に参入希望する向きがある。

 

面白い話として、アグリゲータに系統用蓄電池の発調契約申込を相談する際に、その前段階の接続検討申込をアグリゲータに代行してほしいという要望が少なからずあるそうだ。

確かに低圧FIT太陽光分譲業者は税別20万かかる接続検討申込をケチってやったことないのでそういう発想になるのだろう。このような業者はアプラス・ジャックス・イオンしか知らないので当然コーポレートファイナンスを組成するスキルがない。

またコーポレートファイナンスは信金や地銀も組成スキルがない。

 

卸電力市場JPEXの超快晴時に発電しすぎて昼頃の0.01円/kWh 売りの時にたっぷり充電しといて、夕方に放電して稼ぐアービトラージという鞘取り手法はFIT太陽光のkWh取引と同じでわかりやすいが、365日すべてが0.01円/kWhとなることはない。

なので、容量市場や需給調整市場にも参加しないと蓄電池の稼働がもてあそぶ。

 

そう、需給調整市場をうまく使えばとても儲かるが、需給調整市場は電力の系統運用の経験者でない限りとても分かりにくい取引だ。また、新生アグリゲータがこの調整市場をうまく活用できるとは限らない。

 

系統用蓄電池は通信が肝である。アグリゲータとの通信断が続けば蓄電池はただのオブジェでお金を生まない。

FITは連系したらすぐにキャッシュインできるが、系統用蓄電池はキャッシュインする前のキャッシュアウトがとても大きく、リスクがとても多い。どうしても機関投資家の資金を溶かしてもよいノリで開発を進めないとうまくいかないだろう。

 

だから、系統用蓄電池の開発・運用は資金力のない個人事業主はやめとけ!となる。

系統用蓄電池分譲販売どの営業が芽生えているが詐欺的要素満載なのでそれもやめとけ!だ。そもそも蓄電池分譲売り業者が需給調整市場の仕組みを知らないのだから。