株と貨幣 | 秋山のブログ

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日経平均株価が上がっていることに対して、景気がよいことを表しているなどという主張を某所で最近見た。実にナンセンスな話なのだが、結構信じている国民も多いようなのである。以前も何度か話題にはしていたが、今回は貨幣に関する知見と関連させて考察してみたい。(因果推論の話を進めようと思ったが宿題にしておく)

 

一般的に、ある会社の業績が上がればその会社の株価は上昇する。しかし株価が上がったからと言って業績があがったと考えることはできない。逆は真とは限らないということで当然のことであるが、そもそも株価の上昇は、業績によって直接的に起こったことではないのである。

債券の市場において全ては、参加者の予測によって決定される。買うべきか、売るべきかはその後価格がどうなるかという予測によるのだ。今後高くなると予測するなら、前もって買って高くなった時売れば利益になるだろう。下がると予想するなら、損しないように前もって売ったり、信用取引のように誰かから借りて売り、後から買い戻すことによって利益にすることもできるだろう。様々な予測を持つものが、その時の価格に応じて、需要者になったり供給者になったりして、経済学における受給曲線さながらに均衡状態を作り出す。よって債権の市場にとって情報こそがもっとも重要な要素ということになるだろう。その市場に参加している人間の数とその資産の量も、市場を変化させる要素であるが、参加者を集めてくるのも結局情報である。

すなわち前述した企業の業績が上がることで株価が上がるという現象も、業績という情報によるものに過ぎないのである。だから必ずしも業績に一致した株価になるわけではないし、全く理屈に合わない株価になることもありうる。ケインズが嘗て「美人コンテスト」と喩えたのは実に適切な表現で、多くの人がどう考えるかで価格が決まるということだ。多数決の結果を予想して皆が行動を移す前に正しい行動をすれば利益を得られるというゲームなのである。

 

株と言うものは、株価がいくらと表示されていても、そのままの価値があると考えてはいけない。その値段で売れるとは限らないのである。例えば今表示されている価格より高い価格で買ったとする。そうすれば価格表示はその価格になるが、当然買った価格で売れる保証は全くないのだ。結局利益を得るためには、高く買って安く売るなど損をしてくれる誰かが必要になる。もしくは、その市場で新たに株を買ってくれる参加者が必要だ。

このことから分かることは、全体としての株式市場は基本はゼロサムゲームで、他の市場等から流入してくるお金によってそれより若干上がるということである。

 

ここで貨幣がどのように発生するか考えれば分かることがある。貨幣は、誰かが借金することによってのみ発生し、返済することによって消滅する。そのためトータルで見た場合、株価等の上昇のもとになっているのは、その増やされた誰かの借金によるものであるということである。すなわち、完全なゼロサムゲームでないのは、主には経済の成長拡大に伴い世の中の負債が増大しているからだ。長期ならば株式市場の時価総額が名目成長率とほぼ一致しているという事実もそれを裏付けている。

 

それならば日経平均株価の上昇が経済成長を意味してよいことなのではないかといった理解をする人がいるかもしれないが、負債の増加は経済成長の条件(大きなイノベーションがあって、生産能力が格段に向上しても、実体経済にまわるお金が増えなければ成長しない)であって、負債が増加しても実体経済に関係ない使われ方をすれば、成長などしないのだ(もちろん、国等の何らかの機関による買い支えによって株価が上がっても、それは成長とは何の関係もない)。

また、貨幣の流入する債権の市場は株式だけではない。投資資金は、様々な市場をその時の状況によって頻繁に行き来している。例えば、現実に日本の株式市場は円を買った際の投資先として使われているようで、平均株価は為替と極めて強い相関を持っている。

 

全体的な株価が上がることが、経済によい影響を与えると信じている人間もいる。考えられる理由は二つだ。一つはお金を借りる時の担保となるので、より多く借りることができるようになるからと言うものだ。バブル崩壊時、担保割れの問題が大きかったので、そこにどうしても注意がいく人もいるだろうが、現在は担保の問題でお金を借りて設備投資等がおこなわれないのではなく、十分利益を得られる需要がないということでおこなわれないのである。もちろん担保があればどんな融資でもおこなうといった話よりもずっと健全なことである。もう一つは、資産効果と言って株価の上昇で消費意欲が増すというものだ。しかし日本においてその効果が大きいかどうかはかなり疑問だろう(株価と消費の推移で、単純に因果関係としてもとめるわけにもいかず、明確な答えを出すのは難しい)。宝くじ当選ならともかく、株の上昇で消費を変化させることは、日本人では考えにくいと思われる(自分の周辺の少ないサンプルでは完全にそうだ)し、そもそも多くの日本人は株を所有していない。

 

以上のように、政策の目標として株価を上げようとすることは、国民や経済全体を考えれば意味がないだろう。経済成長によって自然に上がるなら喜ばしいことだが、指標としてなら経済成長(外需家事の商業化といった好ましくない要素を除外して考えるべきである)率等を使えばよいことだ。

もし政府が以上のことを理解した上で、株価を上げることを目標とするならば、目的は二つあると考えられる。財政均衡を維持した上では経済成長は不可能なので、小手先の政策(株式市場を他の市場より優遇したり、国のファンドに買わせることで上げることができる)で上げることができる株価を使って経済政策の性向をアピールするためというのが一つ。株価上昇が利益となる個々の企業の株主や経営者(献金してくれる)のためというのが一つだ。