デフレは貨幣現象である? | 秋山のブログ

秋山のブログ

ブログの説明を入力します。

また少し脱線。youtubeで、話をちょっと深めたいと思うような内容のものを見つけた。三橋TV第49回【日本を貶めた元日銀副総裁の嘘】というものである。

主なテーマは

ポストトゥルースとして「デフレは貨幣現象である」という言葉

それから派生して岩田規久男氏のりフレ理論

である。

 

大凡中身には賛成であるが、ちょっと引っかかったところを述べてみよう。それはこの場合の貨幣の定義についてである。三橋氏は『誰一人「貨幣の定義」を明らかにしないことです』『岩田教授は、間違えていたとは言え、「貨幣とはマネタリーベース」と断言しました』と言っている。

貨幣数量説という歴史的な学説における貨幣は、マネーストックのことを言う。マネーストックが先行して物価に相関する(相関性は最近は乏しい)ことは豊富なデータで確かめられている。ところがフリードマンは、ベースマネーをコントロールすることによってマネーストックをコントロールできると信じていたので、ベースマネーをコントロールする政策を主張したが、全世界でおこなわれた結果は散々であり、この件に関してはフリードマンを信じるものはいなくなった(フリードマンの間違いは、ベースマネーが決まれば信用創造でマネーストックは預金準備率に規定される最大限もしくは一定のそれなりの値に増大すると考えたためだが、現実には預金準備率は、貨幣の増大を抑える場合のみに働くブレーキでしかないということである)。ところが日本はとっくに否定されたはずの方法をおこなって失敗し、再度それが誤りであることを証明することになったわけである。

経済における貨幣の範囲は変容していて、マネーストックの定義に苦慮しており、時代とともに変更されてきている。貨幣は実体経済において経済活動を支えるために循環する他に、投機的な市場へも大量に移行したりするので、貨幣の定義をマネーストックとすると余計な部分が相当入ってくることになる。

またこの図を見ながら考えて見て欲しい。モノの価格が全体的にあがるためには、経済主体がそのための貨幣をもっていなくてはいけない(多くなった貨幣はより多く消費するためにも使われる。貨幣の量が変わらず何かの価格があがれば、消費量が減ったり、他のモノの価格が下がったりする)。すなわち物価が上がるためには、物価上昇に関係するこの実体経済部分の貨幣の量が増える必要がある。すなわちインフレなり、デフレなりで、貨幣現象と言う場合の貨幣は、この部分の貨幣である。貨幣の増加はすなわち収入の増加であり、経済成長(消費及び物価の上昇)につながる。

この部分は、銀行からの貸し出しによって増える。もしくは貯蓄(もとをたどれば銀行の貸し出しである)を切り崩すことによって(格差が広がり富裕層の所持する割合が増えると切り崩しにくくなる)増える。動画にしめされているように、ベースマネーとの相関はほとんどない。需要が予想されて初めて事業のための借り入れがなされるので、不況の時は金利が低くても貨幣の量は増えない。貨幣の量を増やすためには、政府が金を借りて財政出動をし、他の経済主体に代金を払わなくてはならない。

一方、この実体経済の貨幣の循環からお金が失われれば、インフレそして成長は抑制される。金利を少し上げただけで、景気がすごく悪くなるのはそのためである。金利そして配当が高い状態は、格差を拡大し、景気を悪化させ、成長を抑制する。消費税が景気に悪い理由もこの循環からお金を失わせるためである。その効果は金利を上昇させた場合に勝るとも劣らない。(税を取るなら、利子や配当など、この循環から失われたお金にかけて、それを政府が使い、この循環に戻すというのが、よい方策である)

 

さて、岩田規久男氏の理論であるが、インフレ率の目標値を中央銀行が示し行動することで、人々の期待インフレ率が高まり、それによって実質金利が低くなるので、その金利の低さから金を借りて事業をおこなう人が増えるだろうというものである。しかし、期待インフレ率という考え自体が、測ることもできなければ、何かの政策で操作できるという証拠もない眉唾な理論であり、また、高い金利は事業のブレーキにはなるものの、経営者が事業を決めるのは金利よりもはるかに需要予想に重点が置かれるといった事実がある。すなわち岩田氏の理論は、通用しないだろうということであり、事実その通りになったことは、動画の通りである(三橋氏は名目金利が重要と説明しているが、その部分は若干誤りだろう)。

この理論が財政出動を求めていた人々を騙し、財務省の思惑通り進んでいったという三橋氏の視点はなるほど納得がいく。確かにリフレ派に分類される人々の多くが嘗てこの理論を主張していた。考えてみれば岩田氏のインフレターゲットは、主流派経済学が推奨する理論をデフレに当てはめたもので、財政出動を嫌う主流派の詭弁そのままであるから、そのような結果になるのは必然であろう。経済学を学んでも主流派の間違いを指摘できるレベルでなければ、上手く騙されてしまうのも仕方ないかもしれない。