トリレンマ、マンデル=フレミング・モデル、スタグフレーション | 秋山のブログ

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「戦後経済史は嘘ばかり」の第三章から。この章に書いてあることには色々問題がある。特に表題にあげた3つがそうである。それぞれ考察していくとして、大変よい記述があったのでまず紹介したい。金本位制に関する記述である。

 

『金本位制というのは、貨幣の裏づけに「金」がある制度です。金の量しか、貨幣をつくることができません。経済活動の拡大に伴って、金の量が増えていくのであれば、金本位制は成り立ちます。しかし、経済活動はどんどん大きくなりますが、金の増え方はそれに追いつきません。そうすると、金に裏づけられた貨幣の量が足りなくなっていきます。つまり、常に貨幣が過少気味で、デフレ基調になるということです。』

 

経済成長していくためには、国でも企業でもよいが借り入れによって貨幣を創造し、貨幣を増加させていかなくてはいけないこともこれで理解できるだろう。金本位制など言うまでもなく愚かしい。金の価格が上がればいいという意見もあるかもしれないが、適切な速度で変化する保証もなければ、適切な価格に変化するという保証も全く存在しない。経済に実害を及ぼしてまで、守るべき制度では全くない。

 

狂乱物価時の物価上昇がオイルショックが原因でないことは、以前書いた通りであり、全く正しい。ところが、ここで為替相場が原因だと高橋氏は考えているようである。円安を維持するために、円を刷って供給し、ドルを円に換えようとする動きに対応したために、大量の円が溢れ激しいインフレがおこったとしている。

高橋氏の問題は、貨幣の量で物価が説明できるものと考えていることと、民間の信用創造に注意が払われていないことだ。モノの価格は、より高く買う人間がいなければ上がらない。増えた貨幣が実体経済の循環に入って、消費者の収入を上げることによって物価の上昇は起こる(貨幣の量と物価は相関関係に過ぎない)。いくら貨幣を刷ることになっても、実体経済に入っていかなければ物価は上がりようがないのだ。すなわちこの時起こっている貨幣の増加は、民間企業の借り入れによる信用創造によって起こったものだと思われる。一方、独占的な商品は競争による物価上昇の抑制を無効にする。そちらを要因としてあげている識者もいるようだが、それも一理あるだろう。

 

さて、問題部分に移ろう。

 

国際金融のトリレンマというのは、「自由な資本移動」「固定相場制」「独立した金融政策」の3つが同時に成り立たないというものだ。高橋氏はこれを強固な法則として紹介している。しかしちょっと深く考えてみればこれはそうでもない。自由な資本移動下で、固定相場性であっても、自国経済を睨んだ金融政策は取りうる。金融政策で金利を操作すれば当然為替に影響を与えるが、トリレンマが想定するような大きさの変化は認められず(市場関係者の主観が決定要因なので当然だ)、おこなった政策を打ち消すだけの逆の政策をおこなわなければ固定相場を維持できないわけでないのが現実である。また、逆から見れば金融政策の為替に与える影響は間違いなく存在するので、変動相場制でも金融政策は全く独立などしていない。要するに、このトリレンマは、国同士が最適化された状態にほぼ常になるかのような非現実的な前提の上での話なのである。

高橋氏が自由な資本移動が必須であるとしているのも、単なる鵜呑みであって、正しくない。これがなければ『自由貿易体制は成り立』たないとしているが、トービン税をかけても、実貿易以外の為替交換を禁じていても(以前日本はそうしていた)自由貿易が成り立たないと言えるほどのことはない。むしろ安定した為替の状態や金融政策をより有効にするためにも自由な資本の移動は制限されるべきものである。

 

高橋氏はマンデル=フレミング・モデルに関しても検証なしに推奨している。固定相場制の時は財政政策が有効で金融政策は無効、変動相場制の時は金融政策が有効で財政政策は無効というのが、このモデルの基本的主張である。もちろんこれは全く価値のないモデルである。貨幣が借り入れによって発生するものであり、足りない貨幣を外国から融通してもらう必要が全くないことや、貨幣の流出はリスクを考えなくてはいけない性格のものであり、金利に飛びつくのはそれ程現実的ではないことからも成立しないことが分かるだろう。財政政策で金利が上がるという間違いも、経済はほぼ常に最適な状態にあるというおかしな前提があるからであり、財政政策をおこなったことによる目立った金利の上昇は観察されない。高橋氏は、変動相場制の場合でも、金融緩和を十分におこなっていれば財政政策も効くと書いているが、これは観察される現実との整合性を持たせるための主張だろう。本来のモデルからは言えないはずだ。

 

高橋氏はオイルショック後にスタグフレーションが起こったことを指摘し、それは供給要因によって起こったと主張している。それは需給の均衡で物価を考えたゆえの誤った結論である。

実際はどのようなことが起こったか説明すれば、石油が高騰したので石油以外のモノを買うお金を節約せざるをえない状況になったというところは、高橋氏も説明した通りだ。ここから素直に考察すればよいのだが、高橋氏はどうしても均衡から抜け出せなかったようである。まず石油以外のモノの需要が減少しているのだから、そのモノを供給するために必要な人数も減って失業が生まれるだろう。

少し視点を変えてみよう。原油輸入の費用の増大で日本から多くの貨幣、そして需要が失われても(得たお金で日本からの輸入を増やしてくれれば丸く収まるがそうはいかない)、石油の高騰によってあらゆるモノのコストが上がるというのは同時に起こりえる。モノの価格の成立に関して、マークアップで考える必要があるのはこのようなことからも分かるだろう。