欲望の資本主義 | 秋山のブログ

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安田洋祐氏がナビゲーターを務めたNHKの番組の書籍化である。今回はこれについて書きたい。

 

 

まず安田氏の序文から。

数年前の氏のブログでの話からはかなり進歩している。しかしP7『新古典派経済学の代わりにきちんと問題に答えることのできるグランドセオリー、つまり天動説に置き換わる地動説のような体型的な枠組みは見当たらない』という話はいただけない。氏はマクロ経済学は専門ではないので、そこまで熱心に探しているわけではないから見つからないだけなのだ。有効需要や内生的貨幣理論を核においたポスト・ケインズ派経済学は、十分に問題に答えることができるだろう。海外の直接投資に関わる研究日本におこった経済問題のほとんど全てが、その枠組で説明できることは、このブログで証明できていると考えている。

 

スティグリッツ教授との対談では、目新しいことは何も出てこない。全て既知のことである。しかし重要な内容なのでまとめてみよう。

 

P20『世界的な総需要の不足が世界経済を押し下げ、減速させているのが現在の状態』

P21『富裕層が貧困層のおカネを吸い上げているために、消費に費やされるおカネが減り、総需要が不足する』

P22『市場に任せるべきというイデオロギーに縛られた保守派の政権が緊縮財政を実施している国が多いことも要因』

P26『GDPは経済パフォーマンスを測るのに適した指標とは言えない』

P34『”見えざる手”が見えないのは、存在しないから』

P34『市場は独力では効率的に社会をよい方向には導くことができないので、政府がインセンティブを正しい方向に導く必要があります』

P43『金利は人の行動を促す一因にはなりますが、要因は他にもある』

これらは全て正しく、知っておかなければいけないことである。

 

スティグリッツ教授の次に、セドラチェク氏にインタビューをしている。好人物ではあり、番組のディレクターは大いに尊敬しているようであるが、この書籍から判断する限り、氏には問題がある。それは氏が持っている経済学における方法論だ。引用しよう。

P80『日中は(中略)一般的な経済指標について語り、夜には、ワインを片手に哲学や神学、心理学の本を読んでいました。(中略)それらの分野を経済とどう結びつけられるか、さまざまな考えが浮かんでくる』

心理学は経済学にとって役にたつこともあるが、氏がやっているのはそういうことではない。氏がしていることは、喩えになるネタを探しているのだ。例えば氏は躁鬱病に経済を喩えるのがお気に入りである。しかし実際の経済が本当に躁鬱病に喩えるのが適切かどうかは分からない。結局これはイメージで考えるという、科学的思考とは真逆の思考法であり、全く好ましくない。このやり方で判断すれば、間違いが量産されるだろう。

実際のところ、経済学では氏のような思考法をしている人は少なくないようだ。国家を家庭に置き換えて考えて、破綻するだの、負債は悪いことだなどと主張する人間が後を絶たない。トリクルダウンの、馬を肥やすと周囲の雀も肥えるという説明も、イメージによる詭弁だ。

氏も例に漏れず、収支を合わせるように主張しており、貨幣の研究も少なからずあるのに貨幣というものを全く理解していない。結局、氏から参考になる理論は出てこないし、出てくるはずもないだろう。氏へのインタビューは、経済学のもう一つの間違った方法論(一つは数学の誤用)を浮き彫りにしてくれた以上の価値はなかっただろう。