為替相場 | 秋山のブログ

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「スタンフォード大学で一番人気の経済学入門マクロ編」から。

 

第16章は為替相場に関して書かれている。ケン・カーサ氏の発言を引用して、P213『外国為替市場ではいったい何が起こっているのか』ということが人類にとってもっとも難しい問いであるなどとしている。しかし本当だろうか。今まで為替市場の構造や問題に関して考察してきて、それなりに解けているように感じている。単に取り組まれず曖昧なままにされているだけなのではないかと考えるのである。とりあえず、この本の内容に沿って、書いていくことにする。

 

まず、P214『通貨の需要と供給によって』外国為替相場が動いているという指摘がされているが、これはその通りで(貿易に関するものだけでないことに留意する必要はある)、仕組みを理解するための基本である。

 

それから通貨が高くなったり低くなったりすれば誰が得するか書かれている。言うまでもなく輸出する人間にとっては通貨が安い方が有利であるし、輸入する人間にとっては逆だ。ちなみに明らかに間違ったことも書かれている。外国に投資する投資家にとって自国通貨が『弱いほうが助かり』、そのため『外国への投資が増え』ているというのは完全に誤りだ。外国へ投資していたところ自国通貨が下がれば儲けが増えるだけで、通常自国通貨が弱い国はより小さい規模の投資しかできず、また弱い国は利益の回収の段階では高くなっている可能性が高いということもある。投資が増えているというのは、貿易赤字の分が資本流入しているだけのことだ。

 

その後、変動相場制に移行していった経緯の説明がなされ、その後変動が激しくなったことが説明されている。これはもちろん事実である。

 

いただけないのは次、P221『長期的に為替レートは妥当な水準になる』という話である。購買力平価説で考えれば、そうなるからというのがこの本の主張であるが、現実は購買力平価説通りにはほとんどなっていない。成り立たない理由はいくらでもあげられるが、大きく分けて、裁定取引が十分におこなわれない関係と、投機的市場に価格が支配されているという関係の2種類のものがあるだろう。

この本では購買力平価通りにいかない為替の変動に関して、外国への投資(お金を貸して配当を得るもの)があるからとしているが、これは一番重要な理由を隠している。価格を決めている最大の要因は、価格の変動を予想し、その変動によって利益を得る投機的な取引にあるのだ。

 

どのようなことか説明すれば、為替レートは市場参加者の多くがどう考えるかということによって決定される。購買力平価も、投資のリターンの大小も、その国の利率も、考えるための情報に過ぎない。視点を変えれば、重要な情報であるために、購買力平価も利率も為替レートとある程度の相関性を持つ。逆に多くの人間が信じるのであれば、それが非現実的であってもそれを反映した為替レートになる(東日本大震災直後の円の急騰がよい例である)。

価格が変動する時に、いち早く下がるならば売り、上がるなら買うことで利益をえることができる。損をするのは逆の行動を取ってしまった人間だ。多数が考える値に価格はなるので、これは多数決ゲームであると言える。市場でのこの遣り取りは何ら生産的でないが、勝手にゼロサムゲームをしている分には問題はないだろう。しかしそう簡単にいかないのは、輸出入で実際に通貨を両替する人間がいて、その輸出品、輸入品を生産消費する国民がいるといったことがあるということだ(輸出入の不均衡や取引が同時でないことがポイント)。多数意見によって決まるのであるから、使える額が大きければ大きいほど圧倒的に有利なので、こういう小口参加者は鴨になって少しずつ上前をはねられるのである。世界の上位の僅かな資本家が、世界中の国民から搾取して、より富んでいく仕組みの一つであろう。

この本では、P224『投資家の期待による値動きは、いつまでもつづくわけではない』とされているが、以上のことを理解できれば、それが間違いであることが分かる。購買力平価に落ちつくような制定取引は現実的影響がある程は全く起こらない。為替レートはどの時点においても期待による値なのである。

 

最後に、この本では為替レートへの介入についても書かれている。市場にまかせればいいという立場があり、米国はそうしていることが書かれているが、特に小さい国では激しい変動が好ましくないため、介入も当然であるとしている。もっとも米国は基軸通貨国なので言えるのであって、日本や中国などは規模が大きくても介入するのが正しいだろう。

介入の一番の問題はP228『適切な為替レートを選ぶのが難しいということ』で、P229『購買力平価に近いところを目標にする』べきという内容になっているが、これはその通りだと思われる(ビッグマック指数のような購買力平価の算出法はかなり幼稚であり、研究の発展が望まれる)。

介入によって余計に不安定になるという主張には根拠はない。これは自分たちの常識に乗らない値動きを政府の介入によって引き起こされることを嫌った投機筋による詭弁であろう(投機筋は人々を騙すために様々な詭弁を弄してきた)。P229『経済学者のあいだで一般的な見解』として『変動させるか固定するか』どちらかにすべきであるという話も根拠はない。これも投機筋の意に沿った主張であろう。

為替の調整に金利の変動を使う方法が書かれているが、通貨を上げようとする場合景気を犠牲にすることになるため現実的でないというはその通りだ。さらに言えば、前述したように、金利も情報の一つに過ぎないために効果は未知数である。景気を犠牲にすべきではない。

通貨を政府が買うという方法には限度があるといったことが書かれている。しかしこれは制度次第では不可能ではない。実際アジア通貨危機においてマレーシアが投機筋に対抗した政策をおこなうことにより、投機筋を打ち破っている。できないという話は対抗策を考えさせないための布石であろう。

 

為替市場は各国のコントロール下にあるべきである。変動相場制の害が明らかであるのに、それを改善しようとしないのは馬鹿げている。為替市場をどうコントロールすべきかは、現在の知識でもある程度対応できるはずであるし、より深く研究すべき分野であろう。