自由貿易と保護貿易 | 秋山のブログ

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「スタンフォード大学で一番人気の経済学入門マクロ編」から。

 

第14章には自由貿易のメリットが、第15章には保護貿易のデメリットもしくは自由貿易のデメリットの否定が書かれている。ここはまとめて書いてみることにしよう。

 

第14章で出てくるのはお馴染みの比較優位である。確かに貿易によって総生産量は増ええるであろう。しかし、現実はそう単純でない。増えた供給分需要が上昇する保証はない。ある程度需要は上昇する可能性はあるが、供給の増加分全てが増えることはむしろ少ないだろう。モノの価格も都合良くは動かない。為替もやり取りを上手く調節してくれるわけではない。後でもう一度出てくるが、供給過多による失業、賃金の減少を引き起こすことにもなる。

 

メリットとしての規模の経済や知識スキルの伝達等はもちろん正しい。この辺りはその通りだろう。

 

さて、第15章をみていこう。

 

P201『自由貿易が国内の雇用を減らす証拠』はないなどと書かれている。急激な自由化がおこなわれる例は多くない(例として出されているNAFTAはそこまで大きな変化ではない)が、EU加入後のギリシャの失業率の上昇は十分な証拠ではないだろうか。(もちろん逆にドイツのように雇用を奪うことで改善する国もある)

失業率が制度によって決まる自然失業率をベースにして、景気の変動によって上下するもので、貿易は関係ないとする主張は、需要不足などおこらないという理論であり、完全な間違いである。

 

P202『保護貿易は特定の産業を優遇』するので『その産業の平均賃金』が高くなるというのは、前提が誤っている。自由貿易にさらされて下がっている賃金を適正と考えているのだ。国内では不公正な労働市場に政府が介入するなど賃金の適正化圧力がある。海外にはそれはなく、また為替の歪みの問題もあって、海外の賃金はこちらの国からみれば適正ではない。海外と合わせて労働者の集団としても、雇用を取り合っているため賃金が下がるのは必定だろう(新古典派は非自発的失業など存在しないという前提を信じている)。

物価が安くなるのメリットは失業のデメリットに遠く及ばないが、失業はないと信じているからこんな馬鹿なことも主張できるのだろう。

P202『賃金は生産性によって決まる』から『海外と競争した方が』『賃金の上昇につながるはず』などという主張もナンセンスだ。不公正な賃金に合わせるように生産量を増大させた結果は、雇用を取り合っている状況下では、より大きな搾取に繋がるだけである。

 

P203『貿易によって転職を迫られて経済が混乱する』という話に対して、貿易がなくても国内で常におこっていることというのはその通りだ。しかし、それがスムースにいっていない時に自由貿易を強力に推進すれば火に油だろう。(これも逆に改善する可能性はある)

 

所得格差が広がったことに関しては、労働者間で広がったわけではない。資本家層と労働者の間で広がったのである。生産能力に対する賃金の低下は貿易のせいだけではないが、既に書いたようにグローバリゼーションは大きな要素の一つだ。

途上国の搾取に関しても、P205『貿易しないから貧しくなった』などと主張しているが、これはまさに貿易相手次第の話だろう。

 

未成熟産業の保護に関しては、悪い例としてブラジル、良い例として韓国が上げられている。この二つの違いは、日本の技術支援の有無だ。むやみに保護すればいいわけでないのはその通りだろう。

 

まとめる。

上手くやれば、グローバリゼーションは関係国全ての利益に繋がる可能性はある。しかしそのためには、デメリットにつがなる要素を大いに修正していく必要があるだろう。この本にあるようなデメリットの否定は百害あって一利なしである。もっともそのデメリットの利用こそが搾取できるポイントなので、意図的にやっているのかもしれないが。