財政政策と財政赤字 | 秋山のブログ

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「スタンフォード大学で一番人気の経済学入門マクロ編」から。

 

第8章は、財政政策と財政赤字に関してである。財政政策とは、そこに書かれているように政府が税金を集めて、それを使うことが基本である。そして税で足りない部分は債券で調達されている。

 

好ましくない間違った政策を実行させようとする主流派経済学のやり口は、実にさりげなくおこなわれる。P104『ここで注意してほしいのは、相続税のように議論の対象になりやすい税が、金額的にはほんのわずかな割り合いしか占めていないという事実です』などと書かれているが、フローに対する税金とストックに対する税金を同じ土俵の上にのせるべきではない。性質が違うものだ。歪んだ分配を再分配して修正するというのも、税の重要な役割である。相続税は何十年に一回しかおこらない貴重な修正の機会である(本来はインフレが修正の役割をしていた)。
また、米国の相続税は、制度的に他国と比べて僅かしか取られないようにできている上に、抜け道もたくさんあるから、わずかな割り合いしか占めていないのだ。実に悪質である。注意深くない学生なら騙されてしまうだろう。
 

そして財政政策と財政赤字がマクロ経済の4つの目標(実際は3つの目標と1つの嘘)にどのような影響を与えるか考察している。

 

まず経済成長に関してであるが、そこで出てくるのはまたしても恒等式の誤謬だ。P108『国の財政赤字が大きければ、企業が設備投資に使えるお金』が少なくなるなどと書いているが、どうしてこのような明らかな間違いをおかすのだろうか。

日々働いて収入を得て、節約に励めばいくばくかの資産を残すことができる。しかしそれが集まったのが総貯蓄ではない。節約に励めば、必ず誰かの収入が減少するので、節約することも、頑張って働くことも、マクロ経済における総貯蓄を増やすことに関しては意味が無い。総貯蓄を増やすのは、借り入れの増加のみである。

(それが分かっていれば、誰か、又は誰かの子孫が永遠に資産を増やしていくのはおかしいことも分かるはずである。増えた分は、経済主体のどれかが借金をした結果だからだ。特に現代において富の大部分を独占している少数の人間がさらに富を増やしているのがいかに好ましくないことか理解できるだろう。これは前述の相続税の話にも繋がる)

設備投資に使えるお金が多くなるので、P109『政府の借金が少なければ、長期的な観点で』着実な経済成長を促すなどと書いているが、そのような実証データは存在しない。財政再建によって政府が借金を減らすことにより景気にも成長にもブレーキがかかった実証なら掃いて捨てるほどある。貨幣不足による需要不足は、生産を控えさせるだけでなく、トレーニングや研究も抑制することによって生産能力の向上も抑制する。何万年という長期間であっても、常に需要が重要である。つまり正しい理論で考えれば、国の借金が少ないことは経済成長にとってマイナスの要素であるというのが結論だ。


失業率の改善に関しては、自然失業率というインチキをまたしても持ちだしている。景気の変動によるとしている需要不足による失業に対しては財政政策が有効であることを述べていてそれは正しいが、ここ数十年の先進国の現実においては、常に需要不足の状況にあり、自然失業率であるとされている数字の大部分が需要不足による失業だ。変動は存在するが変動によって需要不足がおこるのではなく、貨幣の供給不足、格差、市場の失敗をおこすような様々な要素によって需要不足はおこり、それがなくなることはほとんどないというのが本来持つべき理解であろう。

 

インフレに対して増税や支出減が有効なのはその通りだ。しかし、インフレの抑制は本来目標とすべきではない。

 

国際収支に関しても恒等式の誤謬で、愚かなことを言っている。この間違った理論に基いて、日本は嘗て米国から圧力を受け、貿易黒字削減のために財政支出を増やすなどということをおこなった。もちろん貿易黒字が減ることなどなく、貯蓄が増えたのである。

 

資本家が得をする政策に誘導するための経済学である新古典派が、財政政策や財政赤字を否定的に扱うことには理由がある。不況の方が彼らにとって都合がいいのだ。失業率が高い状態であれば、労働者の賃金は低く抑えられる。だから失業率が高くても、その数値で上限、自然失業率だなどと主張するのである。また資本を提供して利益を得る、しばしば搾取をする性格上、資本の提供者のライバルは少ない方がいい。国が赤字を出すということは、中央銀行≒国による実質上無限の資本提供、もしくは国からお金を受け取った新規ライバルからの資本提供が増えることを意味する。もちろん、インフレも資本家にとっては忌むべきものだろう。

ケインズが経済学会を席巻した時に、当然のようにインフレ(決して高くない)と資本の利益の減少(搾取が減ったのに過ぎないが)がおこり、米国や日本などの先進国では多くの国民が豊かさを味わった。しかしフリードマンを始めとした新古典派経済学者による詭弁と宣伝によって政策はねじ曲げられ、格差は拡大し、成長は鈍化することになる。ケインズ経済学にも誤りがあったが、反ケインズ革命以降に行われた経済政策の変更は、ほとんどすべて改悪と言って良い。そうすればよりよくなるという嘘を信じておこなわれ、実際好ましい結論に結びつかなかった政策を元に戻すだけで世界は今よりかなりマシになるだろう。そのためにも新古典派経済学は完全に葬るべきものである。