インフレについて | 秋山のブログ

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「スタンフォード大学で一番人気の経済学入門マクロ編」から。
 
第4章はインフレについてであるが、問題がある部分が多い。
 
いきなり、P47『インフレーション(インフレ)は、あなたの給料を食いつぶします。』といきなり、いかにインフレが悪いかという話で始まる。しかしこれは事実ではない。失業率の低い時、すなわち景気がよい時に物価は上がりやすい。もちろんその時は賃金も上昇する。従って多くの場合インフレでも問題にならないことが多いのだ。日本の近年(大不況)以前のデータを見れば、物価上昇と賃金上昇はきれいに相関し、しかも賃金上昇率の方が高い。考えれば当然のことで、賃金が上がっているから物価が上がってもモノが売れるのである。もちろん原油が上がるなどのコストプッシュや、独占寡占を悪用した釣り上げが蔓延れば、不況で、賃金が上がっていないのに、物価が上がることはありえる。
 
その後、インフレを測る指標について書かれている。これは全く妥当であり、かつ分かり易い。
 
ところがこの後、再び問題となる内容が書かれている。インフレが何故起るかということに関して、P53『人々がお金をたくさん持っていて、世の中に商品が不足しているときに』起るとしているが、これは何でもかんでも需給曲線に当てはめようとする経済学の悪癖だ。まず需給曲線ありきではなくて、インフレがおこる構造を考えてみよう。
前述のように、収入がなければモノを購入することはできない。そしてその収入は元をたどれば誰かの借り入れである。人がより多く、またはより高く(同じモノでも、より良くなったモノでもよい)モノを買えるためには、実体経済に入っていく借り入れを増やさなくてはならない。逆に借り入れが増えても、商品を欲しがらず貯蓄(銀行や証券市場)にまわしたり、返済したりすれば増えたことにならない。増えた分、全て購入に割り当てられたとしても、高いモノを買うのではなく、買う量が増えるかもしれない。マネーサプライ(相関するが実体経済を循環する貨幣そのものではない)の増減から2年程遅れて、賃金や物価の上下がよく相関する事実は、このモデルを支持するものだろう。
一方、お金の量と商品の量でインフレが決まるという考えは、お金の増加が観察されるときに、インフレも観察されることがしばしばあって、現実と一致することも少なくはないが、あまりにも単純化され過ぎたモデルで重要な要素が欠落するため、原油高のようなコストプッシュインフレの時に、金利を上げたり、貨幣の供給を絞ったりする間違った政策を取る原因になりかねないだろう。また、実際の経済が私の示したような構造になっていることを理解していなければ、そのお金がどの範囲の貨幣を指すのか分からずに誤りにつながる。需給曲線のいい加減な構造しか理解していなければ、フリードマンのように、ベースマネーを規定すればお金の総量を規定でき、インフレをコントロールできるなどと間違いをおかす可能性も高い。借り入れを増やすものが需要の予測であるという重要な事実は需給曲線のモデルからは導き出せない。
 
その次には、再度インフレが悪いということを強調する内容となる。P55『インフレ率が高く不安定になると経済は行きづまる』などと書いていた。不安定なことは確かに害があるだろうが、高いことの害は説明できていない。ハイパーインフレなどは市場がうまくいっていないからおこるものであって、因果関係が逆なのだ。賃金の上昇率を観察せずに、インフレの値のみに着目した考察であることも、モデルの欠陥を物語っている。後の方でP61『経済学者のなかには、インフレ率が2桁でも深刻な問題ではないと主張する人も』いると、確固たる話でないことを正直に書いているのはよい。(デフレに害があることや、軽度のインフレが高度なインフレに繋がるという証拠は存在しないことを述べている点もよい)
実体経済のモデルから考えても分かることだが、実証上利率が高いことは景気を悪化させる(多くの場合逆も成り立つ)。その値が適切かどうかは成長率との関係で決まるので、成長率を嵩上げするインフレは、むしろマクロ経済にとって好ましい作用がある。
 
インフレを嫌う人々に関して書いているのは面白い。P60『インフレを利用して得をすること、(中略)借りたお金をインフレによって楽に返済することなどは、よくないことだと考える』人だという。なんだか真面目そうな人たちのように見える表現だが、お金を貸して見返りをもらう資産家にとってそれが損であるからで、本当のところはエゴ丸出しの主張だ。この考えは、一般的な労働者は尊重する必要はない。そのような傾向が強まるほど、労働者が働いたより多くの部分を彼らに差し出すことになる。そこをきちんと理解して、国民はインフレ抑制策に反対すべきだ。
一方、インフレを問題はないと考える人の説明はとんでもない出鱈目だ。インフレ率より低い割合で賃金を上げて労働者の意欲を保ちながら実質的な減給ができるからだという。しかし労働者はそこまで甘くはないし、資産が目減りする状況はより人を雇って利益を得る必要性を増大させるだろう。労働者を騙せるという理由でインフレを許容している人間などいるわけがない。
 
まとめよう。
○インフレ率が高いことがマクロ経済にとって悪いという根拠はない。むしろよい。
○ハイパーインフレや不安定な物価は、市場機能等がうまくいっていないことが原因である。
○お金の量とモノの量の関係で物価が上下するという単純すぎるモデルは間違いのもとである。
○物価の変動は、実体経済の循環のモデルで考えるべきである。
○インフレを嫌う資産家の嘘に騙されないようにしなくてはいけない。