TPPと薬 | 秋山のブログ

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TPPの大筋合意が成された。今から予言しておくが、推進派が言うような経済へのプラス効果は数字にほとんどあらわれないだろう。重商主義は意味がないし、大きな影響がある程もともとの関税は高くない。TPPは多国籍企業が各国の規制導入を抑制をさせようと、途上国政府に働きかけて始まったものだろう。r>gがさらに大きくなる可能性がある。

それはともかく、交渉の争点として、新薬の特許の保護期間が大きかったという話がある。新薬を多く開発している企業を多く持つ米国と、短くしたい途上国との争いだ。これだけの情報だと、いかにも米国がわがままを言っているかのような印象を受けるかもしれないが、新薬を現場で扱っている人間の感覚からすれば、5年はあまりにも短すぎる。多くの医師は新薬に慎重であり、また1年間は様子をみるために長期処方が許されないということもあって、余程画期的な薬でない限りは、売上げが伸びるまでに何年も待たなくてはいけない。また、薬の評価が定まるのは、使用した結果が大量に集積されて確固たるデータが出た時であって、それは1年や2年では出ないのである。5年でよいということになれば、待つべき期間を待った後ただで使えるということになるであろう。

この保護期間が短いことでどんなことがおこるか考えてみよう。高い開発費を回収しなくてはいけないので、薬の価格は当然高くなる。高いと売れなくなるから下がって適切な価格になるなどということはない。独占的な立場でもあり、相手も命がかかったりもしているので、それで破産するくらいの価格設定もありうる。そして一度決まった価格は、余程の状況の変化がない限り、製薬会社が下げることもないだろう。下げて売上高、利益が上がることが予測できるのは、同じものを売っている企業があって、パイをとりあっていて(この場合でも均衡にはいたらない)、総需要量が大凡判る場合だ。(最近の抗癌剤や抗ウィルス薬の価格の高さはびっくりする。例えば最新のC型肝炎治療薬は一人当りの薬代が数千万円で、これが税金保険料から製薬企業に支払われるのだ)
ただ乗りする途上国の国民も、企業が完全に資本主義の論理に従うならば利益をえることはできない。開発費を回収する必要もなく、低いコストでジェネリックメーカーが生産できると言っても、そのコストに合った安い価格で売るのではなくて、もとの超高価格をいくぶん安くした価格で売るだろう。そうなると新薬を開発するメーカーよりも、ジェネリックメーカーの方が利益がよくなるので、途上国に多国籍企業や先進国の製薬メーカーが乗り込んで、時には途上国のジェネリックメーカーを買い取って、その業務をおこなうことになる。日本でも外資製薬メーカーが(日本の大手もだが)ジェネリックの子会社を作ってジェネリックを売っているのが、観察されている。

もちろん保護期間を長くしても、単に暴利を貪る期間が長くなるだけということもありえる。製薬会社の決定した価格に対して、適切な値まで引き下げる者もしくは制度が必要だろう。製薬会社の数はほとんど有効な作用を示さず、フリードマンが言うようなことには全くならない。日本の保険医療制度は、国が価格を決めるので、暴利に待ったをかけうるが、政治的圧力に弱いこと、マンパワーが足りないこと、経済の仕組みへの理解が足りないことから、日本と米国の医療は構造が全く違うにも関わらず、価格を統一する原則があるなど問題は多々ある。

問題の根幹に、新薬の開発のためには莫大なお金がかかることがある。新しい物質を見つける、作り出すことにも相当な費用が必要であるが、何よりも問題なのは、効果を証明するための治験をおこなうことに莫大なお金がかかることだ。いい物質を見つけても、もし治験をおこなって、製品化に失敗したら、日本の中堅製薬会社が倒産するくらいの損失になるという話だ。日本の製薬メーカー(零細ではない)が開発した薬で、治験をする体力がなく、外資の大企業に権利を売って、その結果それが日本に輸出されているという例が多々ある(日本の製薬環境の閉鎖性を嘗て米国から指摘されたことがあるが、米国も治験網、販売網等似たような問題がある)。
高すぎる費用は、もちろん薬の価格に跳ね返ってくる(もっとも、かかった費用は、そこに無駄、非効率、搾取等がなければ、不当とは一応言えない)のも問題であるが、大きな参入障壁となり独占性を高めるということが問題だ。日本は外資製薬会社に対抗するために、多くの製薬会社の合併を誘導した。なんとも愚かなことだと思う。独占は悪なので独占企業は強制的に解体すべきですらあるという、何十年か前には常識だった話はどこへ行ってしまったのだろうか。

解決法としては、各国協力して安く早く治験と認可が得られるように国際的な機関を立ち上げることだろう。現状多くの無駄もあり、参入コストの高さが独占を生みもしている。一方、保護機関に関しては、それこそ音楽や小説なみに延ばして、その代わりに上乗せする利益と発生する様々な権利に制限を設けるのが現実的だと思える。独占性の高い分野で、適切な価格が自然に決まるわけもなく、人々が総じて恩恵にあずかることはとても期待できないのだ。
これを提言出来れば、日本の国際社会への最大の貢献になると思えるのだが、勇気ある政治家はいないかな。(一部の製薬会社には睨まれるかもしれない)