春の風、イコールそよ風ではない。春は大抵、始終強い風が吹きまくる。春は大好きだけれど、春の風は嫌い。
ある時、友が久し振りにわが家に訪ねてきた。彼女はずっと同じ、きっぱりしたクレオパトラ髪をしている。その髪型のせいか、彼女は実年齢より10歳くらい若く見える。
自分で織って仕立てた、鮮やかな赤やピンク、青の服を着て颯爽と歩いてくる。
そういう彼女が、わが家に訪ねてきた時はびっくりした。あのきっちりとしたクレオパトラ髪が乱れに乱れ、息も絶え絶え、倒れ込むように玄関に入ってきた。
「ひ、ひどい風ね。あなたの家までの間は」
そうなのだ、駅からウチまでは一本道で、数分で来られるのだが、線路沿いの道のため風がひどい。
春の風といっても、俳句の季語には春嵐、春疾風、春烈風…色々ある。さえぎるもののない線路側から猛烈な風が吹く。
ある日私は、ミディ丈のスカートをはいて出てしまったら、突然猛烈な風が。若い女の子ならキャーとか声をあげて人の目を楽しませてくれるだろうけど、ワタシャ77歳。ロングスカートの裾を必死に押さえながら、しゃがみ歩きでウチに戻った。そういう道なのである。
クレオパトラの彼女には、風当たりの弱い遠まわりの道を教えるべきだった。
しかし、ずっと変わらなかったクレオパトラ髪をあっという間にメドウサ髪に変えてしまった春疾風、いたずらに目をみはりながら面白がっている私だった。