Winterecord -5ページ目

風の武士

風の武士〈上〉 (講談社文庫)/司馬 遼太郎

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風の武士〈下〉 (講談社文庫)/司馬 遼太郎

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 時は幕末。伊賀忍の末裔、江戸に住む柘植信吾は公儀と紀州藩の謎めかしい争いに巻き込まれていく。熊野山中に隠れる安羅井国を目指して、信吾の旅が今始まる!

 筆者の作品の中で幕末物であり、なおかつ伝奇物であるというのは珍しい。奇想天外な展開にファンタジーを思わせる進行。その中で、主人公の信吾とその幼馴染お勢以の存在だけがかろうじて、この作品に確かな現実感を与えていた。ただ伊賀同心の血を引く信吾の卓越した剣さばきだけは例外で、まるでミュージカルを観ているような非現実感で彩られていた。この辺りの日常と非日常の描き方は、本作ならではであろう。
 またそれだけに、安羅井国の正体が、遥か昔にローマを追われてきたユダヤ人の国であったとする「種明かし」には強い印象を持った。これほど読者を当惑させるラストを描いた作品がかつてあっただろうか。読後、信吾とともに浦島気分に襲われた。

殉死

故郷忘れじがたく候

故郷忘じがたく候 (文春文庫)/司馬 遼太郎

¥500
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 本作には「故郷忘れじがたく候」「斬殺」「胡桃に酒」の三篇が収録されている。
 表題作「故郷忘れじがたく候」では、16世紀末、日本人に拉致されて薩摩に根付いた朝鮮人の話が語られている。その朝鮮人の中のある一族は、その卓越した陶芸技術を元に一大産業を築きあげる。彼らが生み出した「白薩摩」は藩主たちにも寵を受け、より一層の発展を遂げる。それは後に、明治六年オーストリアで催された万国博覧会にも出展される程に評判を高めることとなったのである。

 朝鮮との歴史的つながりというテーマ自体は、筆者の作品に実に多いところである。その中でも本作で挙げられた、日本に拉致され住み着いた朝鮮人というテーマは実に興味深かった。日本でも近年、北朝鮮による拉致問題が非常に取り上げられていたが、近隣国による拉致問題自体は、長年双方向に繰り返されてきたことなのだろうか。
 おそらく、拉致被害者のもつ感情へのけじめには、大きな困難を伴い、それはまたその子孫たちも同様であろう。だがそれでも、本作で描かれていた、その子孫の一人が370年という時を経てたどり着いた心情には、少し救われる思いがした。そして、英雄ならずしても世の中にはおもしろい人がいるもんだ、と改めて感じることができた。

仕事における年齢差別―アメリカの経験から学ぶ

播磨灘物語