故郷忘れじがたく候 | Winterecord

故郷忘れじがたく候

故郷忘じがたく候 (文春文庫)/司馬 遼太郎

¥500
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 本作には「故郷忘れじがたく候」「斬殺」「胡桃に酒」の三篇が収録されている。
 表題作「故郷忘れじがたく候」では、16世紀末、日本人に拉致されて薩摩に根付いた朝鮮人の話が語られている。その朝鮮人の中のある一族は、その卓越した陶芸技術を元に一大産業を築きあげる。彼らが生み出した「白薩摩」は藩主たちにも寵を受け、より一層の発展を遂げる。それは後に、明治六年オーストリアで催された万国博覧会にも出展される程に評判を高めることとなったのである。

 朝鮮との歴史的つながりというテーマ自体は、筆者の作品に実に多いところである。その中でも本作で挙げられた、日本に拉致され住み着いた朝鮮人というテーマは実に興味深かった。日本でも近年、北朝鮮による拉致問題が非常に取り上げられていたが、近隣国による拉致問題自体は、長年双方向に繰り返されてきたことなのだろうか。
 おそらく、拉致被害者のもつ感情へのけじめには、大きな困難を伴い、それはまたその子孫たちも同様であろう。だがそれでも、本作で描かれていた、その子孫の一人が370年という時を経てたどり着いた心情には、少し救われる思いがした。そして、英雄ならずしても世の中にはおもしろい人がいるもんだ、と改めて感じることができた。