キザ過ぎる言葉の理由を聞くと
「悩んでるーって顔してっから、何て言えばいーかわかんなくてさぁ」
と照れ笑いするところがあまりに彼らし過ぎて、彼女はふふっと笑った。

そして、チョコを包み紙から抜き取り銀紙をしゃりんと破る。
その音が彼女の冴えない気持ちも一緒に破った気がして、やっと心の底から笑顔になれた。

「ありがとう。ダイキも食べよ?」
差し出されたチョコの破片とすっきりした笑顔の彼女とを交互に見ながら、彼はなんだよぉ、とぼやいた。
よくわからないが、なんだか悔しい。

「で、何があったの?」
答える代わりに彼女は微かに頬を赤らめて、唇にあてていたチョコを彼の口に入れた。

目を丸くして、でも口元は嬉しさを隠しきれない彼を見て、はにかみながら彼女もチョコを食べる。
「いーの、もう。」
へへっと笑う彼女を見て、拗ねた顔の彼はわざとらしい大きな動きで彼女の肩に腕を回してひっぱった。
悔しまぎれに、彼女のカバンが脇腹に当たるのも構わずに反対の手で頭をぐりぐりとやる。
「んだよ、心配させやがってー」
「痛いったらぁ」
言い終える前に笑ってしまった彼につられて、彼女も吹き出してしまう。
「もうへーき。ありがとう。」

たぶん今まで見たことのなかった満面の笑みに見惚れてから、ふと彼女のカバンに目が留まった。
ポケットで光るプレーヤーのタイトル表示に、彼は耳まで真っ赤になってしまう。
「オレの、曲…?」
彼女も同じくらい赤くなって、視線を合わせられないまま大きく頷いた。

「私の、特効薬。」
彼は黙ったまま、予備校の玄関を出た。

良くも悪くも素直すぎる彼の様子はいつも通りで、機嫌が悪いための沈黙には見えない。
いつもなら隣に座って自習しだす彼なのにどうしたんだろう、と思いながら、彼女は先程のチョコを軽く持ち上げてみせる。
「で、これ何?」
「チョコ。」

知ってるから、と思ったが彼の至極当然と言いたそうな顔を見ると、そうは言えなかった。

…なんか、今日はややこしい日だなぁ。

彼女のそんな表情を見た彼が、普段から困っているような顔にあわてた様子を浮かべた。
無理もない。彼女は切れ長の目の印象が強く、普段から機嫌が良くないと誤解されやすい雰囲気を持っている。
彼女の黙り込んだ顔を見て苛立っていると思ったらしい。
彼は少し動転し気味に、早口で「えっ、チョコレートだけど?」と言った。

見ればわかるよ、と彼女は思わず苦笑いした。
「ううん、どうして私に、チョコくれたのかと思って。」

彼はほっと息をついてから、長めの前髪をさらっと揺らして微笑んだ。
「暗いカオしてたお嬢さんを、甘いチョコで誘ってさらってしまおうかと思ってさ」
イヤホンからの曲は、いつの間にか止まっていた。
彼女は、今日何度目かもわからないため息を吐いて、再生ボタンを押してから制服の短いスカートからすっと伸びた脚を組み直す。

そっと見渡せば、周りは皆机の上の参考書と格闘している。

…すごい集中力。っていうか、私が場違い?

そんなことを思ってから、またノートに視線を落とす。けど、文字の替わりに目に入ったのは枝毛の目立つココアブラウンの髪だった。
なんとなく指先に髪を巻き付けたりしながら、手持ち無沙汰な右手でシャープペンを持つ。

いくつめかの英文を訳していると、こん、と机が軽く鳴った。目だけでそちらを見ると、ノートの上にチョコが一枚、それからそれを押さえる細くて長い指。
見上げた先で彼が軽く笑ってから、出よう、と口を動かした。
珍しいなぁと思いながら、荷物をまとめ席を立つ。チョコは手に持って、イヤホンを外しながら彼の後を追った。