2001年夫婦世界旅行のつづきです。日本を発つ際に我々が利用したのは、“評判の高い”チャイナエアラインでした。



part5. いいぞ、チャイナエアライン!



 日本を発ったのは2001年4月14日。羽田発チャイナエアライン017便。予定より30分ほど遅れて、午後2時半頃離陸した。預けた荷物は「必ず壊れる」し、「よく紛失」するし、何の保証もしてくれないぞぉぉぉ、という“サービスの悪さで有名”なチャイナエアラインである。



 (実際、旅の途中で知り合ったオーストラリアの若者は、オランダだかの自転車レースに出場するためにチャイナエアラインを使った時、預けた自転車をボロボロにされたが、何も弁償されず、とうとう出場できなくなったことがあると言っていた。リアリィィ? である。)



  世界旅行に踏み出した嬉しさなど、ない。さぁ、チャイナエアライン、何をするつもりだ? という疑心暗鬼の固まりになっていた。しかし、乗ってみれば座席は清潔。問題ない。飲み物をサーブしにきたフライトアテンダントは美しく、物腰も丁寧。愛想もよい。飲み物に眠り薬も入っていない。お代わりもいくらでも持ってきてくれる。何だ、感じがいいぞ、チャイナエアライン。問題は預けた荷物だが、これもノープロブレム。荒らされるでもなく、紛失されるでもなく、壊されるでもなく、無事であった。チャイナエアライン、評判よりずっといいぞ。 (あくまでも、問題が起きなければ、なのだろうが。)

              つづく





世界旅行初めての夜は、台湾の安宿、いわゆる「ゲストハウス」で過ごすことにしました。……今となっては、いい思い出ですが……。



part6. ゲッ、ゲストハウス(ドミートリィ)!



 台北国際空港(蒋介石国際空港)には夕方6時ごろ到着。個人の自由旅行には、しなくてはならないことが一杯ある。



  空港でまず、ヴェトナム行きの飛行機のリコンファームをし、バスのチケット売り場を探し、チケットを買って、エアポートバス乗り場を探し、台北市内行きのエアポートバスに乗りこむ。降りるべき台北火車站(電車の駅を「火車站」というらしい?)がよく分からなかったが、大きな駅なのでたくさんの人が降りるだろうと、周りの様子をチェックしながら乗ること一時間。無事下車。

 

 そこからは、見当を付けておいたゲストハウスを見つけるのにまた苦労した。看板も何も出ていないのだ。右往左往しているうちにすっかり日が暮れてしまった。「中山北路二段」と「市民大道」との交差点のすぐ脇にあるはずなのだが……それらしい建物も表示もない。地元の安酒場が連なっているらしい路地裏で、築70年は経っていそうな古色蒼然とした長屋の中の店先に出てきたお婆さんに、すがるように尋ねてみた。「なんだってぇ? ハッピーファミリーだぁ? ゲストハウスゥ? あいやー。わたしゃ、長-いことここに住んでいるけどね、そんな名前、聞いたことがないねぇ。ふがふがふが。」と(台湾的英語で)おっしゃって、真っ赤なライトに照らされた怪しげな薄暗い穴倉の如き店の中へ、薄いカーテンに吸い込まれるように消えていった。魔界のものと言葉を交わしてしてしまったような、妙な気分が残り、夕闇をさらに濃く感じさせるのであった。



 結局、通りすがりの若者に尋ねて、実は1時間も前から目の前にあるボロボロのビルがそれだと分かった。婆さん、あんたの店から10mも離れていないぞ。 



  happy familyとは一体誰が名づけたのか、名前とは打って変わって、ひどい宿だった。宿の主人は感じこそ悪くないが、部屋は6人部屋。いわゆる、ドミートリーという相部屋だ。2段ベッドが3つ、所狭しと置かれている。なんだか、ガーリー船内を彷彿とさせる。その部屋に客は我々二人だけだったが、その部屋の中にさらに個室があり、その住人が夜中に出入りをする。どこの誰とも分からない、顔も知らない人が我々の部屋の中をうろうろするのである。ドアの鍵の壊れたトイレ。トイレと風呂は個室の人と共用だから、いつかち合うかわからない。



  「ゲストハウス」というのは、「ゲスト」という優雅なその名とは裏腹に、超安宿である。安い分、プライバシーと衛生がない。海外旅行での安宿には慣れているが、いままでの安宿はどんなに汚くてもプライバシーはあった。まだこうしたドミートリーに泊まったことのない我々は、まず、思いっきって初ドミートリーに挑戦してみたのだ。固いベッドは人型に窪んでいる。トイレ・風呂共用は当たり前。エアコンがない。虫がいる。部屋は男女共同の場合もある。



  ……そのくらいは覚悟していた。しかし、しかし、ベッドにまず、シーツも布団もないとは! クッションのふりをしているようなクッションは板同然。人型に窪みようもない代物だ。隣とのベッドの間隔は50cmほど。手を伸ばせば、荷物が簡単に盗めそうだ。トイレでは便器に紙を流してはいけないらしく、便器の横に大きなゴミ箱が置いてあるが、それが使用済みの紙で山盛りになって異臭を放っている。すでに5、6個ほどの丸めた紙が、山から滑り落ちて、茶色い染みをつけたまま、床に落ちている。なにが悲しくて、人のウンコの付いた紙を見ながらトイレせにゃならんのかっ! ばっちい! きちゃない! 宿の主人に掛け合って、ようやくボロボロの薄いシーツを借り、服を着たまま包まってみたものの、夜中にけたたましい音を立てて、ごつい白人男が個室を出入りするたびに、そいつの様子を窺ったりなどして、気が抜けず、どこをとってもおぞましいの一言だった。



 (夫は南京虫に食われたらしい。「まぁ、それは覚悟していたことだよね。」と、食われていない私はクールに答えられるのであった。)

つづく

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