創りたいのは自死ゼロと労災ゼロの世界

【うつ専門メンタルコーチ&講師】

安田伸也です。

今回は、わたしが体験したことを物語風にまとめてみました。
長文ですが、何かの参考になれば幸いです。


○自転車修理のクレームがアンガーマネジメントになった件


「あ〜あ、何だこれ」

こんな大きなため息をついたのは、久しぶりだった。

買い物へ行こうとして、自転車に乗ろうとしたが、後輪の空気が抜けていたのだ。



この自転車は、2週間ほど前に同じような症状で前輪のタイヤが抜け、5日程前にやっと重い腰を上げて、約30分自転車を押しながら、ショッピングモールの自転車屋へ修理へ持って行ったばかりだった。


前輪タイヤの修理の際、長い間メンテナンスをしていなかったこともあり、ついでにチェーンの調整やブレーキの点検、後輪タイヤのチェックもしてもらっていた。


修理をした日は、自宅まで何事も無く自転車に乗り帰ってきた。

 

その日から数日雨が続いたので、その修理した日以来、初めてその自転車に乗って買い物へはずだった。

なのに、この有様だ。


「また30分この自転車を押して、修理へ持って行くのか」
そう考えると、とても憂鬱だった。

車は昨年手放したので、足はこの自転車しか無い。

とりあえず自転車での買い物は諦めて、徒歩で行くことにした。


トボトボと目的のスーパーマーケットまで歩いた。


ちょうど桜が満開の時期、美しく咲き誇る艶やかな情景とは裏腹に、わたしの頭の中はグツグツという音を立てて、脳みそが沸騰しそうだった。

「あのオッサン、どんなメンテナンスをしてるんだよ!」
と怒りが湧いてきたのである。

そのオッサン(自転車屋の担当者)は、ボソボソと話す頼りない(と見える)人物だった。

メンテナンスを頼んだ時、修理時間や修理料金を訊ねてもハッキリ言わないので、イライラしたのを思い出していた。


「また修理を頼むと、同じくらい修理代がかかるのか?」
「メンテナンスを依頼して、1週間も経たないうちにまたか?」
「いいかげんな仕事をしてるんじゃねーよ!」


怒りが怒りを呼ぶ状態だ。
たぶん機関車トーマスのように頭から湯気を噴き出していたに違いない。

買い物を済ませて帰宅すると、一息ついてから前回修理したショッピングモールの自転車屋へクレームの電話をした。

オッサンとは、違う人だった。

何とか冷静を装うことには成功し、
・5日前に前輪の修理で持って行ったこと。
・それ以来、初めて乗ろうとしたら後輪の空気が抜けていたこと。
・修理の際、後輪もメンテナンスをしてもらったこと。
・空気を入れるとバルブ付近から抜けるので、バルブの不具合を見落としたのではないかと推測されること。

相手は、電話だけでは判らないので、取りあえず来店して欲しいとのことだった。

歩いて30分以上かかるので、今日は時間がない。
忙しいので、来週にならないと出向けないことを少々嫌みを込めて告げた後、電話を切った。


次の週のある日、昼前から予定が入っていたので、ショッピングモールの開店と同時に着くように自宅を出発した。

自転車を押して歩いている間、どうやったら「無償修理」を勝ち取れるか、脳内で作戦会議が始まった。

会議参加者の1人が言った。

「怒りをぶちまけるのも一手だが、自分も接客業をしているので、そのような交渉はしたくないな」

別の参加者が同意した。
「そうだよな。相手にも不快な思いをさせたくないし、こちらも良い気分でいたいよね」

「そうそう、目的は喧嘩することではなく、無償修理を勝ち取ることだからな」

「穏やかに交渉する」
ということで意見は一致した。

すると、別の参加者がこんな質問を投げかけた。
「でも、そもそも何故こんなに腹が立ったんだ?」

その中の1人がホワイトボードに
「腹が立った理由」
と板書をして意見を出し合った。

怒りは二次感情と言われている。

怒りの底には、「悲しみ」「辛さ」「虚しさ」「寂しさ」「心配」などの一次感情が隠れているのだ。

脳内会議の面々は、その一次感情を探し始めた。

結果、腹が立った理由は、この3つだと思われた。

・久しぶりに自転車に乗って買い物へ行けると思ったのに行けなかった。
→①期待が外れ、ガッカリして不愉快になった

・再度30分かけて修理をしに行かなければならない。
→②面倒くて辛い

・いいかげんな仕事をした疑惑。
→③自分が粗末に扱われたと感じて悲しい

そして気がついた。

「そうか、これをそのまま相手に伝えればいいんだ」

気がついたのと時を同じくして、ショッピングモールへ到着した。


自転車屋へ行くと、前回のオッサンとは違い年の頃は30過ぎのお兄さんがいた。

わたしは、作戦会議で出た結論のとおり、怒りたいのを我慢して、穏やかに淡々とお兄さんへ胸の内を伝えた。

・前回、前輪を修理をしてもらい、久しぶりに乗って買い物に行こうとしたら、今度は後輪が買い物へは30分かけて歩いて行かなければならなかったこと。
・今日も、30分かけて自宅から押してやってきたこと。
・クレームは言いたくないが、メンテナンスの直後なので、とてもガッカリしたこと。
・バルブの不具合だと思われるので、メンテナンスの段階で気がつけたのではないかということ。

などである。

お兄さんは「状況を確認して修理するので、30分後に来て欲しい」とだけ言った。

わたしは、ショッピングモールちょっとした買い物を済ませ、余った時間を潰すため、休憩スペースでコーヒーを飲む間に、怒りの感情は「諦め」へと変化していた。

前回の修理後は、異常なく乗って帰ったわけだし、偶然パンクが重なったのかもな。
その時にも、5段階変速のワイヤーが錆び付いているって言われたし、10年以上前に買った自転車だから、あちこち不具合が出ても仕方が無いか。



時間が来たので、自転車屋へ行くとお兄さんが他のお客さんの接客中で、傍らには、修理が終わったと思われる、わたしの自転車があった。

接客が終わると、お兄さんがわたしの方へやってきて状況を説明してくれた。

・空気が抜けた原因は、釘を踏んだとか、バルブの不具合ではなく後輪タイヤのチューブが経年劣化でパンクしたこと。
・パンクしたのがバルブ付近だったので、バルブの不具合のように見えたこと。


「仕方ない、気持ちよく修理代を払って帰ろう」

そう思い、料金を訊こうとしたところ、

「今回は、遠いところを持ってきていただいてありがとうございました。
無料修理とさせていただきますので、代金は結構です。ご迷惑をおかけいたしました」


と言いながら、お兄さんはわたしに深々と頭をさげたのだ。

驚いたと同時に嬉しいやら申し訳ないやらで、喜びのあまりお兄さんに抱きつきそうになった。

神対応とはこのことか。

もちろん、保証修理で無償になったのは嬉しかったが、それ以上にお兄さんがこちらの気持ちを理解してくれたのが嬉しかった。


どうして、自分の感情が「怒り」から「諦め」そして「喜び」へ変化したか、心理学やらコーチングなどを学んでいるので、自分なりに分析してみた。

まずは、脳内会議で本来の目的をハッキリさせて、感情をぶつけること無く穏やかに話そうと決めたことだろう。

この辺りは、心理学やコーチングでコミュニケーション力を鍛えられている成果だと思う。

そして、一番大きな理由は、自分の感情を「言語化」出来たことだとおもう。

人は、自分の気持ちを言葉に出来ないと、イライラ・モヤモヤし、心がズキズキ痛む。

一次感情に気がつかないと、怒りになって吹き出してしまうように。



だから、脳内会議で胸の中にある感情を冷静に分析し、コーヒーを飲むことによって、今の状況を客観的に捉えることができた。

そして、その想いを相手に伝えることによって、昇華できたのだ。

そうか、自然に「アンガーマネジメント」になっていたんだ。


わたし自身も買い換えるか、修理するか迷っていたのだが、次回また不具合が起こったら、このお兄さんから買おう。

そう心に決めていた。

礼をいって、ショッピングモールを後にしたが、ただお兄さんの名前を聞き忘れたことだけが悔やまれた。

春の気持ちの良い空気に包まれながら、わたしは勢いよく自転車のペダルを踏んだ。




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