事故を防ぐのは、心の安全から。
心の安全設計室
心の安全コンサルタント
安田伸也です。

これまで、潜水士として経験した
- 車の海中転落(自死)
- 漁船転覆事故
についてお話ししてきました。
一見すると、まったく違う出来事です。
一方は自死。
もう一方は海難事故。
しかし、海上保安庁で35年間、多くの事件や事故に関わってきたわたしには、この二つに共通するものがあるように思えてなりません。
それは、亡くなった方だけの問題ではありません。
「大切な人が、ある日突然いなくなる」
という、残された人にとっての現実です。
そして、もう一つ。
日頃のコミュニケーションや声掛け、確認を積み重ねることで、防げる可能性を高められることがある。
今回は、この二つの共通点から、なぜわたしが「自死ゼロ・事故ゼロの世界を創りたい」と考えるようになったのかをお伝えします。
この記事の目次
日本の自死の現状|2025年は19,188人
警察庁が公表した「令和7年中における自殺の状況」によると、2025年の自殺者数は19,188人でした。
単純計算すると、
1日平均で約53人。
今この瞬間にも、誰にも言えない苦しみを抱えている人がいるかもしれません。
一つひとつの出来事が、私たちの目に触れるわけではありません。
だから、普段生活していると、この数字を身近なものとして感じる機会は多くないかもしれません。
しかし、19,188という数字の一つひとつに、その人の人生があります。
そして、その人を大切に思っていた家族や友人、職場の仲間がいます。
※自殺者数:警察庁「令和7年中における自殺の状況」
海上保安庁で見てきた「突然の死」
私は海上保安庁で35年間勤務し、数多くの事故・事件に関わってきました。
- 船同士の衝突事故
- 海中転落による溺死
- 転覆事故
- 自死
調査のために現場へ赴き、関係者の話を聴き、事故報告書を作成する日々を送っていました。
そこにはいつも「突然の死」がありました。
生きたくても生きられなかった命。
自ら死を選んでしまった命。
なぜ、こんな理不尽なことが起きるのか。
私はずっと答えを探していました。
自死と事故に共通するものとは?
長年の経験から気づいた共通点があります。
それは――
亡くなった人ではなく、残された人に共通するものがある
ということです。
「大切な人が突然いなくなる」
という悲しい現実です。
事故は、突然起こります。
そして自死の場合も、本人が苦しみを周囲に相談できないまま追い込まれてしまうことがあります。
私の後輩の潜水士も、誰にも何も言わず亡くなりました。
生まれたばかりの赤ん坊がいたにもかかわらず。
わたしも、
「どうして相談してくれなかったのか」
と、無念な気持ちでいっぱいでした。
事故死も自死も、残された家族にとっては“青天の霹靂”です。
人はいつか死ぬ。でも「突然」は違う
人はいつか死にます。
それは避けられません。
病気や老衰などで、ある程度の時間がある場合には、家族がお別れの時間を持てることもあります。
私の母も、がんで亡くなりました。
ホスピスで過ごした最後の時間で、家族として心の準備ができました。
お別れもできました。
しかし、事故や自死では、それができないことがあります。
昨日まで一緒にいた大切な家族や友人が、突然いなくなる。
残された人の悲しみや苦しみは、簡単な言葉で表せるものではありません。
自死と事故を防ぐためのコミュニケーション
そして、もう一つ。
自死と事故について考え続ける中で、わたしは共通する大切なことがあると感じています。
それが、
コミュニケーションです。
もちろん、コミュニケーションさえ取れば、すべての自死や事故を防げるということではありません。
それでも、
- いつもと違う様子に気づく
- 困っていることを話せる
- 危険について率直に意見を言える
- 思い込みや認識の違いを確認する
こうした日々の関わりが、危険や孤立を早く見つけるきっかけになることはあると、わたしは考えています。
自死予防|「話せる場所」があること
心が苦しい時、自分自身が何を感じているのかさえ、分からなくなることがあります。
「自分はどう感じているのか」
「何に苦しんでいるのか」
「本当はどうしたいのか」
こうした自分自身との対話が難しくなることもあります。
そして、
「こんなことを話したら迷惑だろう」
「弱い人間だと思われるかもしれない」
と、一人で抱え込んでしまう。
だからこそ、
- 話せる人がいる
- 本音を出せる場所がある
- 否定せずに話を聴いてくれる人がいる
そんな環境が大切なのだと思います。
苦しんでいる人に必要なのは、いきなり正しい答えを教えることではないかもしれません。
まずは、
「話を聴くこと」
から始める。
それが、その人が一人ではないと感じるきっかけになることがあります。
事故防止|「言ったつもり」「分かったつもり」をなくす
一方、事故防止の現場でも同じです。
潜水士は常に危険と隣り合わせ。
だからこそ、
- 単独行動はしない
- 必ず複数で連携する
- 作業前ミーティングを行う
- 危険や作業イメージを共有する
といったことを大切にしてきました。
ここで重要なのが、相互理解のコミュニケーションです。
相手の意見を聴く。
作業のイメージを共有する。
思い込みがないか確認する。
人は、それぞれ経験も価値観も違います。
同じ言葉を聞いても、頭の中に思い浮かべているものが同じとは限りません。
「言ったつもり」
「分かったつもり」
この小さな認識のズレが、現場では大きな事故につながることがあります。
だから、安全のためのコミュニケーションとは、単に仲良く話すことではありません。
相手と自分の認識が本当に一致しているのかを確認すること。
これが大切なのです。
なぜ私は「自死ゼロ・事故ゼロ」を目指すのか
自死も事故も、残された人の人生を大きく変えてしまいます。
海上保安庁の現場で、多くの死を見てきました。
潜水士として、助けることができなかった命もありました。
後輩を自死で失った経験もあります。
だから私は、
自死ゼロ・事故ゼロの世界を創りたい。
そう本気で思っています。
正直に言えば、私が生きている間に実現できないかもしれません。
それでも、
誰かがやらなければならない。
だから現在、安全大会や企業研修の場で、海上保安庁での経験をもとに、事故防止や心理的安全性、職場のコミュニケーションについてお話ししています。
事故を防ぐためにも。
一人で悩みを抱え込む人を減らすためにも。
安心して、
「分からない」
「助けてほしい」
「今、少ししんどい」
と言える職場を増やしたい。
それが、わたしの考える「心の安全」です。
まとめ|すべてはコミュニケーションから始まる
これまで潜水士として経験した、自死と海難事故についてお話ししてきました。
二つはまったく別の出来事です。
それでも、わたしが長年現場を経験して感じている共通点があります。
- 自死も事故も突然起こることがある
- 残された人の人生にも大きな影響を与える
- 日頃の対話や確認が、危険に早く気づくきっかけになることがある
そして、その土台にあるのが、
自分との対話。
周囲との対話。
つまり、コミュニケーションです。
一人だけですべてを変えることは難しい。
でも、一人ひとりが相手の話を聴き、声を掛け、確認する。
そんな小さな積み重ねから、事故や孤立を減らしていくことはできるのではないでしょうか。
自死ゼロ・事故ゼロの世界を創り、笑顔で働く人を増やす。
私はこれからも、そのために伝え続けていきたいと思っています。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
この記事が、自死や事故を遠い出来事として考えるのではなく、日頃の声掛けやコミュニケーション、心の安全について考える切っ掛けになれば嬉しく思います。
筆者プロフィール|安田伸也
心の安全設計室代表・心の安全コンサルタント。元海上保安官・潜水士。
海上保安庁に約35年間勤務し、潜水士、巡視船航海士、巡視艇船長などを経験。海難救助、転覆船や沈没船の捜索、領海警備、密漁船や密輸船への対応など、3,000件以上の事件・事故に関わってきました。
一方、在職中には職場の人間関係やコミュニケーションに悩み、約20年間メンタル不調を繰り返しました。退職後に心理学やコーチングを学び、現在は心の安全コンサルタントとして、ヒューマンエラーと事故防止、心理的安全性、職場のコミュニケーション、メンタルヘルス、傾聴などをテーマに安全大会や企業研修で講演しています。
「自死ゼロ・事故ゼロの世界を創り、笑顔で働く人を増やす」ことを使命に活動しています。
