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 AKB48は、時代状況を踏まえて戦略的に運営されていたグループであることが記述されている。2010年12月初版。

 

 

【若い世代の生活傾向】
 私は大学教員として、最近の学生たちは内向き志向が強く、行動がリスク回避的になっていると感じます。・・・中略・・・。
 私はそれは現在の日本が不況で就職難だからというだけでなく、今の大学生が不況の中で育ってきた影響であろうと考えています。就職時点での景気の良しあしにかかわらず、今の若い世代には、初めからそのような安定志向、内向き志向があるのではないでしょうか。
 若い世代のそうしたマインドは、必然的に若者文化にも影響を及ぼしています。
 私が発明した言葉ではありませんが、「デフレカルチャー」ともいうべき、経済の不振に影響された内向きでお金を使わない傾向が、2000年代以降、若い世代の文化や消費に如実に観察されるんです。
 たとえば、ネットサーフィンに代表されるような、部屋にこもって限界費用の少ない、つまり初期投資さえしていればいくら利用しても追加費用がほとんどかからないような趣味に没頭することも、その一つです。(p.14)
 確かに、PCを購入してインターネットの接続料さえ支払えば、部屋にこもって何時間でも退屈することなく生活することが出来る。
 チャンちゃんは、完全無収入のタコおやじだけれど、ネット環境に繋がって、このような手前勝手なブログを書いているというだけで人生の退屈さからそこそこ解放されているというのは確か。まさに「デフレカルチャー」を生きているわけである。若者だけではない。
 私の目に「AKB48」というアイドルグループの大ブレークは、まさにデフレ不況時代の若者にターゲットを絞った、見事なマーケティング戦略の成果であると感じられるのです。(p.15)
 不況時代に少女グループのブームが起こるという分析もあるらしいけれど、社会学的見解がどうであれ、将来の経済生活を憂えてあくせく生きるより、ノー天気に生きながら、宇宙や異次元世界にでも心を飛ばしつつ、妙(女+少=少女のような)なる純真な心を維持していたほうが、本来の人間のあり方としては遥かにマシである。
 カネ意識にカブレ切っているがゆえに鈍感な大人たちは感じることが出来ないだろうけど、若者たちの深層意識は、近未来の地球の命運を感じ取っているはずである。

 

 

【AKB48専用劇場】
 AKB48の最大の特徴であり、他のアイドルグループと決定的に違う点は、最初から秋葉原にAKB48劇場という専用劇場を作った点でしょう。
 AKB48が秋葉原で公演を始めたのは2005年冬のことで、記録を見ると、最初の入場料はイス席1000円、立ち見500円で始まったようです。
 世界的に入場料が上がり、ポピュラー音楽のコンサートでも1万円台が珍しくなくなっている中で、これはなかり低料金設定といえます。
 低い料金設定にもかかわず、・・・中略・・・、劇場だけで億単位の費用が掛かっているとみられます。(p.18)
 秋葉原にAKB48の専用劇場があったなんて初めて知った。
 現在の入場料は1000円ではなく2500円になっているらしいけれど、それにしても、劇場に億単位を掛けているにもかかわらず、入場料が安く、しかもメンバーの人数が多いのだから、アイドルグループと言ってもメンバーひとりひとりのお給料が安いだろうことは、大人なら容易に想像できる。
 元AKB48の大堀恵は『最下層アイドル。 -- あきらめなければ明日はある!』(WAVE出版)という本の中で、
「アイドルだって給料制。私の場合、お給料をもらえるだけマシというレベルだった。びっくりするほど、その額は低い。大卒の人の初任給の平均額なんてもらったら、うれし過ぎて、裸で踊りだしちゃうかもしれない」
 と言ってるくらいです。 (p.158)
 事実、基本給は10万円だという。テレビ出演が増え、人気が出てコマーシャル出演などがあれば、それに歩合給として加算されるそうだけれど、そうなれるのは数人。アイドルという夢が叶うなら実利は不要と思っているのでないなら、AKBのメンバーになれたからと言っても喜べないだろう。生活は大変である。
 つまり、ファンもアイドルも、大人たちの作り出した芸能界という世界でうまいこと使役されているにすぎない。
 このような経済的実状があるから、AKB48には、本当は、もうひとつの顔があるのだけれど、この本にそのことはもちろん書かれていない。芸能界の顔である高山長房さんの著作『人類への警告⑥ 真の支配者』に書かれている。でも、その部分は、さすがに書き出していない。本当に芸能界に入りたいのなら、読んだ上で、覚悟して入るべき。後になって、芸能界にたむろするオッサンたちの真の正体を知って泣いても後の祭りだよ。
 

 

【コアなファン育成戦略】
 こうした低価格戦略と、カジュアル感覚というか、「秋葉原に行けばいつでも会える」というコンセプト。これは「テレビで見るのがアイドル」「アイドルというのは遠くから見てあこがれるもの」という概念を完全に覆す仕掛けでした。
 普段パソコンでばかりで遊んでいるおたくだからこそ、ライブで見られる、リアルタッチできるアイドルが新鮮に感じられる。そこでおたく同士が集まることに、仲間意識と高揚感を感じることが出来るのです。
 AKB48は、このような戦略で秋葉原のコアなアイドルおたくの心をつかんでいきました。
 移り気なテレビの視聴者と違って、コアなファンは長続きします。(p.40)
 最初にオーディションで20人を選び、レッスンして育成し、広告宣伝にお金を掛けず、初期の公演はお客さんが「ほんの数人という日もあった」らしい。
 初期のファンから見れば、素人の女の子がアイドルとして育っていく過程を目の前でつぶさに見ることができたのです。
 それによって親近感を持たせて、コアなファンを作っていく --。
 秋元氏のインタビューを見ると、「まじかでスターになっていく様をファンに見てもらいたい」
 と述べていますから、これも意図して仕掛けていた戦略だったのです。(p.34)

 

 

【AKB48と宝塚の違い】
 共通点は、それぞれ専用劇場をもっていること。
 宝塚の場合、当初に想定したお客様は、不況とはいえお金持ちの層でしたが、AKB48はそうではありませんでした。秋葉原に引き寄せられる貧乏な若いおたくたちをターゲットにしたという点は、両者の大きな違いでしょう。(p.47)
 二極化してゆく過程では、どちらも経営危機にはならないだろう。

 

 

【デフレカルチャーや心の消費の中心にある存在】
 インターネット文化とは実は、お金はないけれども時間は余っている人たちが中心になってつくり出している文化なのです。
 そしてそうした人たちの小さな物語、小さな心の消費が、お互いに接続し合って、それまでにはなかった不可思議なコミュニケーション・ネットワークをつくっています。
 そういった「心の消費」がデフレ不況の中で、爆発的に増殖しつつあるのです。
 秋葉原に集まるおたく系の若者をコアなファンとしているAKB48は、まさにそういったデフレカルチャーや心の消費の中心にある存在です。
 AKBの場合、・・・中略・・・。かなりのメンバーがブログを持っています。いわば彼女たちはメンバーの個々の小さな物語・・・中略・・・を絶えずインターネット社会に向けて発信しているのです。(p.56)

 AKB48の人気は、テレビには出てこないメンバーのミクロな活動とそれとつながったネットワーカーのネットワークによって支えられているのです。
 その意味ではAKB48こそ現代の「心の消費=デフレカルチャー」を象徴する存在である、といっていいかもしれません。(p.58)

 

 

【地元回帰】
 ずっと低賃金のバイトや、派遣労働を続けざるを得ないとなると、都心で高い家賃を払ってアパートを借りても、将来には何の希望もないわけです。それだったら郊外にいても同じです。
 バブル期までに地方の若者には「東京に出たら、自分の地元には絶対にないような働き口があって、それまでの自分を変えられるのではないか」という夢があったけれども、実際に行った友達がフリーター生活をしている実態が知れ渡るようになると、東京に行きたいというインセンティブがなくなってくるのです。(p.172)
 地元より東京の方が少々賃金が高くても、アパート代や食費を考えると、地元(親の家)で生活した方がはるかに負担は小さい。こういった時代状況なのだから、AKB48の人気が出たからといって、地方の若者がはるばる秋葉原の劇場まで通うことはまずあり得ない。
 だから、それぞれの主要都市に48をつくった。
 NMB48(大阪・難波)、SKE48(名古屋・栄)、HKT48(九州・博多)など。
 

 

【国内回帰】
 地方回帰と並行して、国内回帰と海外志向の低下も、近年の若い世代に見られる傾向としてしばしば指摘されるところです。日本の若い世代が仕事であれ旅行であれ、海外に行きたがらなくなっているという話はよく耳にします。
 私も去年、数十年ぶりに行って実感しました。夏休みにもかからわず、日本の若い人が本当に少ない。いるのはアジア系だと中国人と韓国人の若者ばかりなのです。(p.173)
 10年位前までは、中国人はほとんどおらず、日本人と韓国人がほぼ同数くらいだった。ところが、近年は本当に日本人の若者が激減している。これは紛れもない事実である。
 デフレ状況下で生まれ育ってきた世代には、航空運賃が近年とても安くなっているとはいえ、生活費を海外体験に回そうという思いは出てこないのかもしれない。
 行動も意識も内向きになれば、インターネットがグローバルな情報に繋がっていても、これにアクセスしようとはしないだろう。
 「ぴあ」の映画ランキングを見ても、その年の映画のベストテンが、ほとんど邦画で占められています。これは、私などハリウッド映画全盛の時代に育った世代の感覚からいうと、信じられない現象です。・・・中略・・・。邦画が本当にレベルが上がって、ハリウッド作品よりおもしろくなっているのならいいでしょうが、どうもそういうことではないという気がします。
 若い世代が外国文化に目を向けなくなり、日本の娯楽文化がガラパゴス化しているような感じを受けてしまうのです。(p.70-71)
 海外の若者たちが 『クール・ジャパン 世界が買いたがる日本』 に感化され、 YouTube で、AKB48その他の日本人グループの動画を見て興味を持ち、そこそこの観客を集めているのに、日本の若者たちが内向きって・・・・・。
 まあ、これも故ないことではないのは、先に書いた通り。
 でもやっぱり、『世界のどこでも生きられる! 外籠りのススメ』 をしたい。
 遠からず、日本の若者たちも、覚醒するだろう。


 

<了>