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 現在実施されているアベノミクスの理論的正当性を以前から語っていた著者は、1990年バブル崩壊のきっかけとなる規制通達を行った人でもあり、2000年からの小泉政権下で財務官僚として活躍していた人でもある。2008年5月初版。
 下記リンクに、著者に関することが記述されている。
   《参照》   『日米「振り込め詐欺」大恐慌』 副島隆彦 (徳間書店) 《前編》

            【アメリカの路線変更】

 

【一般会計と特別会計】
 日本以外の諸国家においては「アリエナ~~~イ!」と思われているものが、日本独特の二重帳簿といわれる一般会計と特別会計の存在。「アリエナ~~~イ」のは特別会計のことなのだけれど、この2つの違いを分かりやすく理解するために無理やり区別するなら、単年度で決着がつくものは一般会計、大きな道路工事とか年金のように複数年度にまたがるものは特別会計として割り切って考えればいい。で、その財務状況はというと、
 実態として財務省は一般会計しか査定していなくて、特別会計については各省庁にお任せの世界と言うことになっている。
 だから、財務省は一般会計の話だけするんです。マスコミも一般会計ばかりを報道する。一般会計では、歳入と歳出に差があるから、フローで言えば、毎年、その赤字を埋めるために国債を発行している。・・・中略・・・。それが積もりに積もって、ストックとして8百兆円ぐらい赤字があるというのもその通りです。
 一方、特別会計はフローもストックもほとんど赤字がないと思う。(p.22)
 最後の一文に、「えっ!」と思うだろう。
 年金の特別会計に関しては、間違いなく大赤字なのである。
 しかし、それ以外の特別会計では赤字がないどころか・・・。

 

 

【埋蔵金の発覚】
 年金以外の特別会計を見てみると、それらは資産の方が大きい。そのバランスシートを見て資産の方が大きいというところを、2005年の経済財政諮問会議で私達が言ったのが「埋蔵金」なんです。それまでみんな知らなかった。なぜかというと、特別会計のバランスシートがあまり出ていなかったから。(p.25)
 著者が算式を提示して各省庁に特別会計のバランスシートを作らせたら、このような埋蔵金の存在が分かったのだという。
 特別会計の資産が大きいということは変なんだよ。一般会計のほうは資産がなくてお金がピーピーしているのに、特別会計のほうは潤っているということなんだ。
 普通の会社でいえば、資産が大きくて負債が小さいと、その間の分は内部留保。内部留保が大きいというのは、いい会社ということでしょう。喜ばしいことではあるんだよね。
 でも、一般会計が大変なのに、どうして同じ会社(国家)の中で内部留保を抱えた特別会計があるのかを考えてみると、要するに、一般会計から持ちだしをしていると言うことなんです。(p.26)
 2003年、衆議院財務金融委員会で塩爺(塩川正十郎元財務大臣)が最初に、「母屋でおかゆをすすっているときに、離れですき焼きを食べている」とうまいことを言ったわけ。(p.26-27)
 財務省は一般会計と年金の特別会計だけを元にして、国家財政が大変だという情報をマスコミに流し、財務省とグルになっているマスコミはそれをそのまま報道するから、国民は「国家財政が大変なら増税も仕方がない」と思ってしまい、まんまと財務省の罠に嵌っているわけである。
 内部留保を抱えた特別会計こそが、各省庁の「権力の源泉」であり、悪名高き「天下りの財源」であると理解しておけば間違いないだろう。
 財務省の埋蔵金の利用法と作り方の一例は、下記リンクに書かれている。
    《参照》   『アメリカは日本経済の復活を知っている』 浜田宏一 (講談社) 《後編》

              【金融緩和を拒む財務省利権】

 小泉さんが首相だった2006年に「行政改革推進法案」という法律を作って、財務省が溜め込んでいた埋蔵金を20兆円ほど吐き出させた実績があるそうだけれど、当時は、国民の圧倒的な支持があったからそんなことも出来たのだろう。しかし、その後は「公務員改革法」を引き継いでいたはずの民主党政権も、官僚によるクーデターで骨抜きにされてしまい、傲慢の極みである官僚にそっぽを向かれた民主党は実質的に政権運営ができなくなってしまったような状態だった。現在の自民党政権も、官僚の望む路線を粛々と歩んでいる様子である。埋蔵金活用とは決して言わずに、消費税増税を実施するのだから。
 下記のリンクを辿って、特別会計が官僚利権の根源であることをキチント理解しておきましょう。この国は、官僚という寄生虫にたかられて、遠からず終わりを迎えるのです。
    《参照》   『日本中枢の崩壊』 古賀茂明 (講談社) 《中編》

              【母屋と離れ】

 

 

【役立たず】
 ほんとうは財政審(財政制度審議会)の学者こそが「埋蔵金」を言わなければいけないんだよ。あんなに人数がいるのに、だれ一人言わないどころか、逆に「埋蔵金などない」と役所の代弁をする人もいるようだ。
 財政審や税調(政府税制調査会)の議事録を読むと面白いから。説明ばかりずっと聞いていて、「いや、今日はたいへん勉強になりました。ありがとうございました」で終わるのがけっこうある(笑)。1回1、2万円ぐらい謝礼をもらっているんだ。(p.128)
 一般大衆は、「有識者による○○調査会、○○審議会の話し合いを終え」などと報道されればそれをすぐに信用するんだろうけど、その実態は、「○○委員」とかの肩書という箔が嬉しくて、官僚たちに何とでもお追従を言うような人間たちを囲い込んでする、単なるヤラセとどこも変わりはしない。

 

 

【財政政策はもう効かない】
 財政政策のほうが国家予算で大きなお金が動くから、影響も大きいのではないかとみんな思うけれども、これは経済理論の中では、変動相場制か、固定相場制かで大きな違いがある。
 結論を簡単に言うと、固定相場制のもとでは財政政策は完璧に効いて、金融政策は効かない。逆に変動相場制になると、金融政策しか効かなくて、財政政策は効かなくなってしまう。
「えぇ?」という感じになるとおもうけれど、90年代、変動相場制に移っているにもかかわらず、公共投資をたくさんしたのは、はっきり言ったらどうかしている(笑)。効かないことをやっているんだから。(p.57)
 変動相場制の下でどうして財政政策が効かないかの理由の概要は以下のように考えればいい。
 国債発行して公共投資をおこなうと金利が上がり、円高になってしまう。つまり、公共投資による内需増加分を、円高による輸出減少が相殺してしまう。要するに「自国内の公共投資の効果は、他国の輸出増になるだけ」という結果になってしまうのである。
 現在の安倍政権も、効かない財政政策(土木工事)を大盤振る舞いでおっぱじめているけれど、効かないどころか、時期尚早であればマイナス効果になってしまう。
    《参照》   『アベノミクスとTPPが創る日本』 浜田宏一 (講談社) 《前編》

              【「マンデル・フレミングの法則」を踏まえた上での金融政策と財政政策】

 国交省利権に絡む族議員という愚か者たちは、国全体のマクロ経済の視点などどうでもいいのである。また地方行政のトップで、いまだに馬鹿の一つ覚えみたいに土木工事や箱物工事で金をバラ撒きたがっているのは、時代状況も何も考えていない完全なる老害オヤジである。そういうオヤジどもは自らの肩書と高給に満足して高給公用車を乗り回しているだけで、下流社会の存在など何ら眼中にないのである。椅子に座っているだけ、ないし、出勤すらせず堂々と満額給料を受け取り続けている地方行政公務員や様々な法人職員という怠惰で愚劣な魔物ども共々、下流社会を救済する意志などテンデない。つまり、本気で日本全体を救済しよう、良くしようとする意志など全然ないのである。
    《参照》   『アベノミクスとTPPが創る日本』 浜田宏一 (講談社) 《前編》
              【アベノミクス第4の矢:セーフティーネットの作成】

 

 

【資本主義を引っ張るのは借り手のパワー】
 金融には、たしかに金利を払っている人ともらっている人がいるんだけれど、実はお金を借りている人のほうがエネルギーがあるから、金利を下げると経済は上向くんだよね。
 資本主義社会では、お金を持っている人よりは、企業家のように借りている人のほうが一生懸命考えて経済を引っ張るんです。だから、金利を上げると経済は落ちるんだよね。(p.121)
 預金を預けている日常生活者の思いとすれば金利は高いほうがいいに決まっているけれど、資本主義社会を動かしている借り手(企業家)の望みは日常生活者とは反対である。日常生活者の感覚で、国家経済を考えることはできない。
 これはこれで理解できるけれど、バブル崩壊以降の失われた20年といわれる期間の金利は、むちゃくちゃ低かった。特にリーマンショック以降を見たら、「この話と全然合わないじゃん」、と思うけれど、この間、経済が上向かなかったのは、諸外国との通貨供給量比較で、円の供給量が少なすぎた故の円高が強烈なダメージになっていたから。
 上記に書き出した話しは、あくまでも一国内での原則論。グローバル経済下の国家経済は、他国通貨との相関による要因の方が大きい。

 

 

【バブルを潰した二つの通達】
 24年ほど昔のお話。
 そのとき、営業特金という制度を使って企業が財テクしていたわけ。これが法律上ちょっとヤバかったから、規制通達をバッと出しちゃったんだ。・・・中略・・・。
 通達を出した後、年明け最初の新聞を見ると、「今年の株価は5万円、6万円か」といった威勢のいい株価予想が踊っていた(笑)。みんなそんな具合だったから、通達ひとつ出したぐらいで、ちょっと下がるとしても一時的でべつに大したことないというふうに思っていた。
 でもその38,915円が史上最高値で、いまじゃああり得ない高値だったことになっちゃったんだよね。
 バブル崩壊のきっかけになった通達を私が出したから、「お前、バブルを潰しただろう」って言われるときがあるけれど、全然そんな意識なんかないんだ。・・・中略・・・。
 その後、1990年の3月に証券局の隣の銀行局で「総量規制」を出したでしょう。銀行の不動産向け融資を抑えるという通達。あれも、抑えるといっても総貸出しの伸び率に合わせるくらいだから、きつい通達ではない。
 覚えているんだけど、「高橋君、総量規制で株価はどうなるかね」と聞かれたから、「ちょっと下がる」と答えたの。そのときのイメージは3万円くらいだった。そんなに効くかなあと思ったけど、奇しくもそれでバブルは潰れてしまった。(p.110-112)
 当時の著作には、「総量規制がバブル崩壊の引き金」と書かれていたものだけれど、「営業特金の規制」もあったというのは知らなかった。
 渡部昇一先生の著作には、「バブルを崩壊させるような通達を出した官僚が、責任を取るどころか出世している。けしからん」みたいなことが書かれていたのを覚えているけれど、5万6万になってから潰れていたら、そのダメージは大きすぎたんだろうから、結果論としては何とも言えない。
 ハッキリしているのは、“日本は、「闇の権力」の計画通りに、まんまとヤラレタ” ということ。

 

 

 
<了>