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 諸外国とのビジネス交渉で活躍している方の著作。営業職に携わっている人がこのような本を読むんだろうけど、いろんな国との文化比較に興味がある人が読んでも参考になる本だろう。2008年6月初版。

 

 

【Broken Open】
 この人には負ける、という相手に出会ったら、「プライドが傷ついた」などとひがまずに、素直にその人から学べばいいのだ。
 英語に「Broken Open」という言葉がある。
「つぼみを壊さなければ、花は咲かない」といったニュアンスだ。
 私の交渉スタイルは、一人でがむしゃらに積み重ねた基礎が、ユダヤ一流の交渉の達人に壊されたことで花開き、今の形になっている。(p.21)
 著者が33歳のとき、ユダヤ人のマイヤー氏に出会ったのが、Broken Open のキッカケだったという。この本を書こうと思ったキッカケでもあったらしい。

 

 

【一冊の古いノート】
 私はまだマイヤー氏と別れがたかった。彼のみごとな交渉術にひかれ、なんとか教えを請いたい気持ちでいっぱいだったのだ。(p.61)
 そんな著者の気持ちを察するように、いくつかの助言や意見を述べてくれただけでなく、
 驚くことにマイヤー氏は、別れ際に私に一冊の古いノートを貸してくれたのだ。
 「ここまでお話してきたことは、私なりの気づきを日々、メモした薀蓄でもあるんです。明日は空港までお送りしますから、それまでの間、お貸しします。よかったら今晩、ご覧になってください。手書きで汚いものですが」・・・(中略)・・・。
 「本当にこんなもの読んでもいいのかなあ?」と思うような突っ込んだアドバイスもあった。私はパジャマにバスローブを重ね、英文をそのまま引き写していった。
 翌朝のフライトは11時だったが、すべてのメモを移し終えたときには、朝の7時半になっていた。(p.65)
 ビジネスにおける「秘中の秘」みたいなことが書かれていたであろう一冊の古いノートを、交渉相手に貸して見せてあげるって、凄いことである。
 並の人間は、私利私欲や独占の思いから隠したり囲い込んだりする。並以下の人間は、隠してさらに悪用する。マイヤーさんは、そういった人とは真反対側の人間である。
 空港で分かれる時、マイヤーさんが言っていたこと、
 「交渉の本質というのは、よい人間関係をつくることです。その意味で、私は今回、マークさんと仕事ができて幸せでした。」(p.65-66)

 

 

【わからないとこを「わからない」といえる素直さ】
 のべ3000人近くのユダヤ人、そして1万人を超える各国のネゴシエーターと交渉を重ねてきて知ったのは、「わからないことを認める強み」だった。(p.69)
 知らないことが多すぎると軽んじられるんだろうけど、プロとして認めあった同士で、「分からない」と言えるのは、信頼の証となるんだろう。

 

 

【友人になりえた最大の理由】
 アントニオがリラックスムードをつくりながら私の対応を観察し、見えないところで私の心を探っていたこと。私が「交渉の目的と最終ゴール」を見失わず。最後まで交渉したこと。つまり、お互いがタフ・ネゴシエーターでありつづけ、それを認め合ったことが、私たちが友人になりえた最大の理由だと思っている。(p.79)
 日本人同士だと、こういう感覚にはなりづらいだろうし、分かりづらいだろう。
 しかし、落合信彦の諜報活動を背景にした人間たちの世界を描いていたいくつもの小説を読んでいた人たちには、分かりやすいはずである。タフと認知できる領域にまで達しているなら、たとえ敵であっても互いに賞賛に値する戦士であり戦友なのである。

 

 

【理屈ではなく感情で合意可能なアラブ人】
 アラブ人相手の交渉の特徴としては、理屈ではなく感情で合意できる点だろう。・・・(中略)・・・逆にいえば、アラブ人に嫌われてしまったら、相手に有利などんなメリットを与えても、絶対に受け入れてもらえないということ。(p.91)
 アラブ人は女性的な面があるというか、日本人的な面があると言えるんだろう。
 また、友人になればビジネスはうまくいくが、別問題として「値引き交渉」はアラブ人の娯楽なので、ディスカウント要求は必ずあると思って準備しておこう。(p.92)
 だったら、関西人のおばちゃんを採用して交渉人になってもらえばいい。
 豹柄の服着た関西人のおばちゃんを派遣したら、「砂漠にこんなヘンなのいない」って返品されるかも。

 

 

【日本人の注意点】
 余談になるが、東南アジア人は日本人を上に見る傾向がある。言葉を変えると、日本人が少しでも相手を下に見ると、傲慢な印象を与えてしまうということだ。
 だからこそ東南アジア人相手には腰を低くすべきだ。(p.96)
 欧米人は、日本を含むアジア人を下に見ているから、欧米圏で露骨な傲慢ぶりに不愉快な思いをしたことのある日本人も相当多いはずである。その不快感を、日本人はアジア人に与えてしまいかねない。
 上に見られているから上でいいのではなく、上に見られているからこそ謙虚に振舞う。
 そんなのは言うまでもなく、人間として当然なことであっても、アジア諸国の空港などで傲慢な態度の日本人を見ると、日本人だってホントに「嫌~~~な」感じがする。品格のない優越感は完全にNGである。
   《参照》   『日本人が知らない「日本の姿」』 胡曉子 小学館 
             【品格のない優越感】

 

 

【フランス・コメディ】
 ドイツ人やイギリス人なら、交渉に集中するためにと食事はサンドイッチですませるだろう。ところがフランス人の場合、交渉と食事は別問題とばかりに「季節だから」と言ってオイスターに白ワインの前菜を取り、「せっかくだから」と言ってメインに肉料理を食べ、赤ワインを飲む。その間、猛烈にしゃべりまくる。
 途中にアルコールが入る、12時間にも及ぶ商談。こちらは疲労困憊だったがフランス人はケロリとしていた。しゃべるのも食べるのも体力勝負といえる。(p.111)
 コメディードラマの場面みたいである。
 フランスの食文化に関しては下記リンク。
      《参照》  『食がわかれば世界経済がわかる』 榊原英資 (文芸春秋) 《後編》
               【グルマンなフランス】 ~ 【フランス料理と日本料理】

 

 

【ユダヤ人からの学び】
 マイヤー氏に会ってからというもの、ユダヤ人との交渉は非常にスムーズになった。それは、私が「ユダヤ人に勝とう」という気持ちを捨てたからだと思う。・・・(中略)・・・。
 優秀な相手に勝ちたければ、相手を打ち負かすのではなく、相手になりきること。これがユダヤ人からの学びである。もしかすると、彼らは多くの敵に打ち負かされてきた苦難の歴史のなかで、このスキルを磨いてきたのかもしれない。(p.115)
 マイヤーという名は典型的なドイツ人名である。ユダヤ人なのにマイヤーさんという名前を聞いただけで、相手(現地人=ドイツ人)になりきって生活していることが分かる。
 ロスチャイルド家の初代も2代目もこうしていた。まさにユダヤ人の知恵だろう。
      《参照》  『富の王国』 池内紀 (東洋経済新報社) 《前編》
               【ロスチャイルド男爵】

 

 

【欧米のスタンダード】
 交渉先の会社が車を出してくれた際、日本とは「上座・下座」が違うことも知っておこう。タクシーや運転手つきのリムジンは別だが、運転席の隣の助手席が「エライ人」の席。後部座席がスタッフの場所となる。(p.120)
 欧米では「身内のもめ事を公共の場でさらすのは恥」である。たとえ部下でも、相手を一人の人間としてきちんと扱わない人間は、まともなビジネスパーソンと見なされない。これは日本でも同じだと、私は思う。(p.120)

 

 

【全体の流れを変えるような主張を言うタイミング】
 「聞く耳」をもつのもいいことではある。
 しかし、全体の流れを変えるような主張は、最後までとっておくべきではない。
 自分の主張を後だしするのは、じつは相手にとっても非常に失礼なふるまいだ。(p.139-140)
 日本側が黙って聞いていると、相手は同意してくれているものと思い込んでいる。そんな状況で最後に違うことを言い出したら、相手は無意味な交渉だったと思い憤慨するのだという。
 逆転満塁ホームランとか、水戸黄門の印籠パターンは、日本人好みであっても、外国人相手の交渉ではやってはいけないパターンらしい。

 

 

【すべての交渉は、接戦で終わるべき】
 すべての交渉は、接戦で終わるべきだ。相手にコールド負けしてもいけないし、こちらが圧倒的勝利を収めるのもまずい。(p.181)
 兵法で言われていることと同じである。
      《参照》  『米長邦雄 ともに勝つ』 加古明光 (毎日新聞社)
               【ともに勝つ】
      《参照》  『風の谷のあの人と結婚する方法』 須藤元気 (ベースボール・マガジン社)
               【『私たちが』が幸せになる】

 

 

【ビジネスセンスの違い】
 日本人のお金の使い方というのは、世界から見て評価が低い。親しいネゴシエーターに聞いてみると、ケチだというのではなく、「甘い」という意見が圧倒的だった。日本人同士の交渉だと、「今回は損してもいいから、相手に花をもたせて、次回からキッチリやろう」などと言って、不必要な譲歩をしてしまうことが多い。
 この態度で外国人との交渉に臨むと「お金におおらかな日本人」ではなく「ビジネスセンスに乏しく、尊敬に値しない相手」と判断される。日本人としては末永い付き合いと考えて、相手の意向をくんだつもりなのに、相手は「こんな信頼できない会社とはパートナーになれない」と考えているのだ。(p.201)
 こういう意識のすれ違いって、どの国の間でもありうることだけれど、日本は特に多いんじゃないだろうか。
      《参照》  『日本人には言えない中国人の価値観』 李年古  学生社
               【すれ違い】

 

 

<了>