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 アメリカの日本化がいかに進行しているか、この本を読めば具体的に良くわかることだろう。日本は、戦後一貫してアメリカ文化に憧れ追随してきたけれど、実は、戦後作られた日本の「鉄腕アトム」などのアニメは、日本とほぼ同時にアメリカでも放映されていたのであり、その後も数多のマンガやニンテンドーのPCゲームなどが、アメリカの若者達に少なからぬ影響を与えてきたという経緯がある。
   《参照》   『クール・ジャパン 世界が買いたがる日本』 杉山知之 (祥伝社) 《前編》
             【アメリカで流行ったアニメ】

 幼い頃から日本文化に馴れ親しんできたアメリカの若者たちがビジネスに参加するようになった近年に至って、日本人の行動様式と日本文化は、違和感なくアメリカに取り込まれつつある段階へとステップアップしているのである。2009年11月初版。

 

 

【日本人のコンテンツよりもコンセプトが求められている】
 WBC連覇によって、日本人選手の優秀さだけではなく、日本野球のコンセプトそのものが賞賛されたように、これからはハリウッドも、コンテンツを買うだけではなくなるだろう。
 コンテンツ以上に、その根っこにあるコンセプトそのものを吸収する――。その流れは、すでにかなり大きなものになっている。
 「いま日本では何が流行っているの?」
 「こんなとき、日本人ならどうするの?」
 そんな言葉をハリウッドの映画人から投げかけられるのは、僕にとってもはや日常茶飯事だ。ホラーやマンガ・アニメといったコンテンツはもちろん、CGや特撮部門のスタッフとしても、日本人の活躍は著しい。(p.7-8)
 コンテンツよりもコンセプトを求めているのは、本質的な日本理解が始まったということ。
 その契機として、著者はWBCの2連覇(2008年)を挙げているけれど、物造りを中心とする産業界では、日本経済が絶好調であった頃、既に日本化は確実に進行していた。
      《参照》  『日本化するアメリカ』 ボーイ・デ・メンテ 中経出版
 オリジナル・コンテンツ不足に泣くハリウッドでは、この数年、日本を始めとするアジア映画のリメイクを盛んにしてきた。だが、それだけでは足りないと感じたのだろう。大事なのは日本の映画をリメイクすることではなく、日本的な感性を学び、持ち込むことだとハリウッド業界人は気付き始めたのだ。(p.195)
 現在のハリウッドでは「日本人に学べ」が合言葉になっている。(p.40)

 

 

【「インターンを雇うなら、アメリカ人よりも日本人」】
 それが、ハリウッドの合言葉になっているほど。・・・中略・・・。
 アメリカ式ベースボールの典型は「俺がヒーローになってチームを勝利に導く」というもの。だが日本野球の真骨頂は「仲間がヒーローになれるお膳立てをすることで勝利へ近づく」というもの、いわゆる「つなぎ野球」だ。この「つなぎ野球」が理解されるにつれ、日本人インターンの素晴らしさも、これまで以上に高く評価されるようになった。(p.23)
 インターンはそもそも補助的な役割を担う存在だから、「つなぎ役」が相応しいけれど、WBCの日本人選手たちは一流選手ばかりである。「つなぎ役」ができてこそ一流という認識に至らなければ、アメリカは永遠に日本に追いつけない。

 

 

【「・・・・・」】
 著者が、日本語のオリジナル脚本を「翻案」する作業をしていた時のこと、
 思案中のヒーロー、返す言葉がないほど困惑する女性、あるいは無言で敵を見つめる悪役。「・・・・・」を使うことで、より複雑なニュアンスを表現することができる。
 ただ、そのニュアンスをアメリカ人に伝えるのが難しい。なにしろ彼らは、「主張してナンボ」の人たち。アメリカの脚本では、沈黙や間も、「下を向いたまま黙りこくる」といったように具体的に記述するのが当たり前なのだ。(p.41)
 「・・・・・」の記述方法で悩んでいたら、アメリカ人の脚本家ジムが助け舟を出してくれた。
 「大丈夫。『・・・・・』のままで全く問題ないと思うよ」
 そういわれた時の僕は、いかにも意外そうな表情をしていたのだろう。ジムがさらに続けた。
 「タケシ・キタノの映画には、よくそんなシーンがあるじゃないか。それと一緒だろう? だったらハリウッドの人間にだって理解できないはずがないよ」(p.42)

 「・・・中略・・・ぼくらはそれをどういう形で表現していいか知らなかっただけさ。それに気づかせてくれたのは、キタノ映画や、言葉ではなくプレーでチームに献身する日本人ベースボール・プレイヤーたちだよ」(p.44)
 日本文化にとって当たり前の「・・・・・」という、間や以心伝心や多義性を内包する文化的表現様式を、ようやく違和感なく認識できるようになったらしい。

 

 

【いまや、ハリウッドにおける日本人イメージの定番】
 ほんの少し前まで、アメリカ(ハリウッド)ではニンジャ、サムライ、ゲーシャ、ヤクザ、エリートビジネスマン、ブランド物を買い漁る観光客といった日本人イメージ(人種的偏見)が一般的だった。しかし、こういった日本人のイメージを変えた人がいる。
 アジア人俳優のイメージを決定的に変えたのが、日本のケン・ワタナベ、すなわち渡辺謙だ。(p.51)
 『ラスト サムライ』 『バットマン ビギンズ』 『硫黄島からの手紙』 などの出演作品がある。
 「それって従来のサムライ・イメージのまんまじゃないの?」
 そう思う方もいるかもしれないが、ハリウッドにいると従来との違いを実感する。過去のステレオタイプな「サムライ」があくまでも理解不能な、別世界の人間だったのに対して、渡辺謙はアメリカ人に対してしっかりと伝わる形で日本人の美徳や誇りをアピールしたのだ。(p.52)
 渡辺謙の何が、日本とアジアのイメージを変えたのかといったら、決して媚びることなどない、「誇り高き威厳ある態度」だろう。それを成しえた俳優の名前が「謙」さんであるというのがまた良い。日本文化に揺るぎない誇りを持っているなら、「謙虚さ」と「威厳」は当たり前に並立する。