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 日本経済最高潮の頃、ニューヨーク中心部の多くを飾っていた日本企業の広告は、バブル崩壊以来数十年間ほとんどが姿を消していたけれど、最近、日本企業広告復活の兆しが見えているという。
 この本は、かつて日本経済最高潮であったバブル崩壊以前、1986年初版の古書である。
 著者は、1953年に日本交通公社(JTB)に入社し (p.193) 働いた経験がある方。


【シアトル】
 シアトルに最も早く進出した日本企業の一社としては、三井物産が上げられる。同社シアトル事務所は1916年、・・・(中略)・・・開設された。 (p.87)
 その他では、伊藤忠、アサヒペン、日本水産などがあるという。
 イチローがシアトルマリナーズに入団した時、多くの一般日本人はその理由がわからず、やや怪訝だったはずである。20世紀初頭は、いまだ船舶が主要な輸送機関の時代だったから、日本から最も近いシアトルが日米間の最大の通商港となったのは当然であり、日系企業の集積地だった。

 

 

【日本の自動車メーカーが与えたインパクト】
 アメリカにおける日本の自動車メーカーのインパクトは、かれらが直接間接に雇用するアメリカ人労働者の数よりもはるかに重要だ。そのはるかに重要なインパクトとは何かといえば、アメリカ自動車メーカーの考え方や行動および組合に及ぼす影響力である。  (p.125)
 上記の一例として、ライン停止ボタンを押す権利について書かれている。
 日本企業なら最低ランクの作業員でも押せるのが当然なのに、アメリカでは管理職の特権なのである。アメリカは 「従業員がサボルから」 という視点、日本は 「品質管理」 や 「安全管理」 の視点で運用されている。
 「作業員が押せるのが当たり前ジャン」 と思える日本人は、労資が共存共栄という意識を共有しないアメリカ階級社会の実態を顕著に反映した事例として、その違いを明確に理解し知っておく必要がある。

 

 

【アメリカ人に必要なのは・・・】
 コラムニストのグッドマン女史という方の結論。
 「ほとんどのアメリカ人は、自分ということを抜きにして自分自身を表現することができず、しかも 「結びつき」 とか 「一体感」 といった語彙をまったく持っていないため、アンビバレンツに陥っているのだ、ということである。 われわれアメリカ人に必要なのは、「分かち合いの価値を表現する言葉と、共同の努力があらゆる企画を大きく広げ、それによって孤独感が消えてなくなるようなあり方だ」 とは、グッドマン女史の結論である。 (p.136)
 結論の中に “孤独感” という言葉が出ているけれど、日本人とアメリカ人の孤独感の深さの度合いは、根本的にかなり違っている。 「結びつき」 とか 「一体感」 といった語彙をまったく持たない国の人々が抱いている “孤独感” なのだから。

 

 

【品質許容レベルとしての標準】
 アメリカの文化には、最善を尽くしたり、できるだけ最高なものを作り出すということは、時と金の無駄だとするところがあるのだ。その結果、アメリカでは従来から標準というものを認めてきた。そして、この標準は、ついには品質許容レベル (Acceptable Quality Level ) と呼ばれるようになったのである。 (p.215)
 これは、実に分かりやすい。
 アメリカから日本に伝えられたQCは、アメリカ国内よりも、さらに上を目指す日本企業によって率先して導入された経緯がある。QC を TQC にまで高めたのは日本企業であろう。
 アメリカ人従業員にとっての QC とは、どこまでも AQC ( Acceptable Quality Control ) だったのであろう。

 

 

【性的偏見をなくす混浴】
 10章:日本人の愛・結婚・教育制度に学ぶ、の中に、興味深いことが書かれている。
 公衆浴場においては男女を別にすることを要求していつ現在の日本のような法律は破棄されねばならない。この法律は、混浴は女性の品位を傷つけるというアメリカ流の考え方に立つ2,3の婦人議員の熱心な運動により、1950年代に国会で可決成立したものである。 (p.276)
 著者は、日本の江戸時代の習慣まで知っていて書いているのはいうまでもない。
 エピローグの 「日本のアメニティー(心地よさ)あれこれ」、には、著者がアメリカに導入したがっていた項目が、「ビジネスに有効な名刺の利用」、「地方ごとの名物・特産品」、「日本贔屓にさせる理髪店サービス」、「世界に冠たるタクシー・サービス」、「健康と長寿をもたらす腹巻」、「交番こそアメリカに」 といった小見出をつけて記述されている。
 近年、アメリカにおいて、名刺の利用はボチボチ、交番はすでに十分に広まっている。
 
<了>