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 あとがきに、「本書はゲーム理論的な考え方に基づく戦略思考を、経済学の理論をベースに置きながらもできるだけわかりやすく、具体的な例を通じて紹介することを意図して執筆・・」(p.188)と書かれている。その通りの内容である。ゲーム理論に基づいているから「戦略的」という用語が頻出する。個人的にはこの用語が好きではないけれど、まあ、合理的かつ具体的に考えることのメリットは確かにあることだから、そのつもりで読んでみた。2008年10月初版。

 

 

【じゃんけんはパーを出せ】
 学生725人に11567回のじゃんけんをやってもらい「グー」「チョキ」「パー」が出された回数を分析しました。
 結果は次の通りです。
 グー ・・・  4054回(35.0%)
 チョキ ・・  3849回(33.3%)
 パー ・・・  3664回(31.7%)  (p.19)
 完全にランダムならすべて33.3%になるはずだけど、グーは1.7%多く、パーは1.6%少ない。だから、パーを出せば、僅かながら勝つ確率が高いと言っている。
 この実験データって信頼できるだろうか? 学生一人当たり16回のジャンケンをしていることになるけど、面倒くさがって最も出しやすいグーを出した被験者がいるんじゃないだろうかと思ってしまう。

 

 

【ブルーレイ vs HD-DVD の決着】
 ソニーが主導するブルーレイと東芝が主導するHD-DVD、二つのシェア争いが続いていた。そんな中、ワーナー・ブラザースは二股をかけていた。しかし、
 「ワーナーホームビデオ社」が、08年5月をもって「HD-DVD」方式の映画ソフトの販売を中止し、以後はプルーレイに一本化すると発表すると発表したのです。
 これで、「HD-DVD」ソフトのシェアは20%以下に落ち込むことになりました。 (p.50)
 これでブルーレイの優位は確実になり決着がついたのだけど、その潜在的な因子として考えられるのは、下記リンクにあるような「コピーのしやすさ」ではなく、国境にかかわる「リージョンコード」の存在なんじゃないだろうか。
   《参照》   『ヤバいぜっ! デジタル日本』 高城剛 (集英社新書)
              【記録メディアの勝敗を決するもの】

   《参照》   『バイリンガルは二重人格』 苫米地英人 (フォレスト出版)
              【英語人格をつくる具体的な方法】

 ところで、東芝がHD-DVDから撤退すると発表したら、東芝の株価は上がった。
 株式市場は、これで東芝が形勢不利な「HD-DVD」事業からきれいさっぱり撤退し、同社が世界トップクラスの競争力を持っている原子力事業や半導体事業に全力投球することになると判断して、前向きに反応したわけです。(p.57)
 株式市場がどう反応しようと、放射能汚染が発生しないトリウム原発に移行しないのであれば、「原子力事業」は「天理に背いた事業」である。それを続けるというのなら、東京芝浦は海の底に沈むことになるだろう。
   《参照》   『宇宙戦争 ソリトンの鍵』 光悠白峰 (明窓出版) 《前編》
             【トリウムのもつ可能性】

 

 

【戦略思考における必勝法】
 自分に不利なゲームの構造を徹底分析した上で、「相手にとって有利なゲームのルール」を意図して戦略的に変え、自らにとって確実に有利となる構図に持ち込む・・。
 敵の土俵で戦うのではなく、自らの土俵で戦う構図に持ち込むと言うのが、戦略思考における必勝法なわけです。(p.117)
 スキージャンプ競技のルール変更や、BIS規制に関する事例を思い浮かべれば良くわかるだろう。
 日本が圧倒的な強さを見せた長野冬季オリンピック後に行われたルール変更によって、日本チームの活躍はパタリと止まった。またバブル期の日本の銀行が強すぎたため、銀行の国際ルールを変えることによって日本経済は失墜させられたのである。これも、欧米人の発想からすれば当然の手法だった。
 「ルールを守る」とか「法令順守」という発想が、基本であり出発点のようになっている日本人は、欧米人の戦略的発想に、いいように鴨にされるだけである。
 社会で決まっているゲームのルールは「守るべきもの」と律義に考えがちな日本人は、バカをみる怖れが出てきますね。
 実際、ビジネスの世界ではそうした例について枚挙にいとまがありません。(p.119)
   《参照》   『探そう!ニッポン人の忘れもの』 フジテレビ (扶桑社)
             【「規制・規則・法律には絶対に従うべき」と思い込む愚かさ】

 アメリカは、京都議定書なんて頭から馬鹿にしているし、国際単位系(メートル・キログラム)ですら無視したままヤード・ポンドを国内標準として今日に至っている。
 日本人の発想でいえばアメリカ人は「アウトロー(無法者)」なのだけど、アメリカ人の発想でいえば日本人は「ひよわな花」なのである。

 

 

【アクティブ型 vs インデックス型】
 プロが運用する手数料が高いアクティブ型と、機械的に運用され手数料が安いインデックス型。この2つの投信のリターンとリスク(価格のブレ)を数値で比較し、標準偏差の概念を使って説明がされているのだけれど、その結論。
 つまり、何も細工をせずに市場の平均を機械的に追及し、手数料も安い「インデックス型」投信の方がリスクは小さく、リターンは大きかったということになります。(p.147)
 アクティブ型は「ハイ・リスク、ハイ・リターン」、インデックス型は「ロー・リスク、ロー・リターン」だと普通は思われている。しかし、実際は、後者の方が「ロー・リスク、ハイ・リターン」だった。

 

 

【正解を見つけることではない】
【地球上には絶滅寸前の危険な状態に追い込まれている生物種が沢山います。そうした生物種を・・・(中略)・・ひとつ取り上げて、なぜその生物が絶滅の危機に追い込まれているのか、考えられる原因について検討し、どうしたら絶滅から救うことができるか、あなたの考えをまとめてレポートしなさい】 (p.162)
 これは、著者がアメリカで生活している時、小学生のお子さんが持ち帰ってきた問題だという。
 これって、日本の学校教育と根本的に違いますよね。
 そう! 「正解」が存在しないのです。
 それどころか、そもそも生徒に与えられた課題は、「問題を見つける」ことであって、正解を見つけることではないのです。(p.165)
 今日の日本人ビジネスマンたちは、次第にこういった思考法に馴染んできているけれど、正解を求めているだけの受験勉強に馴染んだままの若者達は、世の中に「答えのある問題」より「答えのない問題」の方が圧倒的に多いことを自覚せず、「問題を探し出す」ことの重要性すらもとんと自覚していないだろう。
 下記リンク書籍は、まさに「問題を探し出す」ための著作である。ビジネス書に書かれている殆どの内容は「問題の摘出」といえるだろう。複雑な事象の中から、何が問題なのかが見えるようにならないことには、答えだって出しようがないのである。
   《参照》   『見える化』 遠藤功 (東洋経済新報社)

 

 

【賢女はセレブを目指す】
 メイクに凝りファッションに凝って、玉の輿に乗り、セレブを目指せ! と言っているのではない。
 とにかく彼の仕事を励まし、悩みを聞いてあげ、盛りたてるわけです。 ・・・(中略)・・・ むしろ彼女たちは、彼の仕事が上手くいけば手作りの料理でお祝いし、仕事の勉強で夜中まで起きていればテレビを消して自分も静かに読書するなど、一緒に励まします。
 男性と言うのはいつまでも子どもの面がありますから、奥さんから褒められ、励まされると実力以上に頑張るものです。
 こうして、手に入れた「原石」に磨きをかけていくことで、旦那はめきめき出世しはじめ ・・・(中略)・・・ 成功したりするわけです。
 つまり「真のセレブ」になる、・・・いや賢女の奥さんがセレブの旦那をつくるといったほうが正しいかもしれません。 ・・・(中略)・・・ 
 これは意識的にやるかどうかはともかくとして、明らかに「賢女の戦略」です。(p.174-175)
 普通の日本人なら、これこそまさに「内助の功」のやり方って言うんだろうけど、欧米発想の思考に狎れてしまうと「賢女の戦略」になってしまうらしい。まあ、どうでもいいや。でも、やっぱり「戦略」という言葉は好きじゃない。ハートが抜け落ちちゃってる感じだもんね。

 

 

<了>