イメージ 1

 横帯に「おそらく私の最高傑作ではないか」と書かれているけれど、ビジネス書として船井さんの本を何冊も読んできた読者は同じように思うのではないだろうか。他の著作にも書かれている重要なポイントに関して、この本にはそこに至るまでの過程が詳細に記述されているから、その重要さが深く広く理解できることだろう。
 タイトルに関係するコンサルタント業界の人々だけでなく、全ての人にとって多くの学びを提供してくれる著作である。2010年7月初版。

 

 

【重要なのは】
 事実をそのまま書きます。1970年代から2000年代初頭の30余年間にわたり、私は経営コンサルタントとして5万件前後のアドバイスをしてきましたが、この間には失敗は一度もしなかったと思います。 ・・・(中略)・・・ 。
 それは私に優れた天分があったからだと言ってくれる人もいます。 ・・・(中略)・・・ 。しかし天分の有無などは、さほど大きな要因ではないようです。
 重要なのは、第一に経験、加えて仕事に取り組む姿勢、この二つに尽きるようです。
 つまり、優れた経営コンサルタントを目指す人は、なるべく多くの仕事をこなそうとする意欲を持ち続けること。そして、すべてのクライアントに対して、常に真剣に、親身に接し、相手の立場になって命がけで仕事に取り組むこと。これ以上に確実なコンサルティングの道はないようです。(p.23-24)

 何度目かの繰り返しになりますが、プロと呼ばれて、クライアントに感謝される経営コンサルタントになるためには、学びながら寸暇を惜しんで働き続ける以外に確実な道はないのです。(p.155)
 経験を積んでくると、立ち寄るだけで、問題点もその解決方法も分かるようになるし、バランスシートも貸借対照表も何も要らないと書かれている。これって名人の域に達している証拠。
 そして、この点に関して、名医と名経営コンサルタントは同じであると。

 

 

【医師とコンサルタントの見分け方】
 船井さんは病気に悩まされていた3年ほどの期間に60人くらいの医師に接する機会があったというけれど、その中で信頼感を与えてくれたのは、ほんの数人だったという。
 いばっている医師、納得させてくれない医師、治療について説明してくれない医師、診療時間外に連絡のとれない医師、自宅の電話や携帯電話の番号を教えようとしない医師などとは、付き合わない方がよいでしょう。医師なるものの職業の尊さを勘違いしている連中だからです。(p.29)
 船井総研では、24時間営業のコンビニが出現する以前から24時間体制でクライアントに対応していたと書かれている。
 経営コンサルタントも医師も人の命にかかわることは同じである。上記文中の医師をコンサルタントに置き換えてみて、自分の知り合いの人やコンサルタントがどの程度の人材(企業)なのか判断することができるだろう。
 少なくとも医師と経営コンサルタントだけは超プロでなければなりません。なぜなら、この二つの仕事は直ちに人の命に関わる仕事だからです。(p.56)
 近年はコンサルタント志望の若者が多いらしいけれど、殆どは給料が多いからということだけを根拠に希望している程度なんじゃないだろうか。その程度の浮ついた希望だけなら止めといた方がいい。経営コンサルタンントとは、失敗してしまったら一家離散や自殺に追い込まれてしまう人々にかかわる重大な仕事なのである。
 「あなたはクライアントのために死ねるか」なのです。ぜひ死ぬ気でクライアントと付きあってください。(p.114)
 それができないなら、『退散せよ! 似非コンサルタント』 ということだろう。

 

 

【名医と名コンサルタント】
 島医師によると、私のような知的活動を生業としているような人間には、テグレトールは絶対に問題のある薬なのだそうです。(p.37)
 船井さんはテグレトールを服用していた1週間ほどの間、全く記憶がなく、家族の皆さんは完全にボケてしまったと思っていたらしい。いい加減な医師にこの危険なテグレトールという薬を安易に処方されないように、薬剤名くらいは記憶しておいた方がいいだろうと思って書き出しておいた。
 島博基医師は兵庫医科大学名誉教授で泌尿器科が専門の方なので、船井さん自身の症状と関係ないと思い診療を断っていたけれど、わざわざ診療に来てくれて、一目見るなり「元凶はテグレトールですね。今すぐ服用をやめてください」と断言したという。名コンサルタントが名医によって救われた瞬間だった。
 経験を積んであるレベルに達した人は、問題の答えを見つけるのにほとんど時間をかけません。ある意味、答えの方から頭に飛び込んで来てくれるからです。
 「私が一目で治療法が分かるなどと言い出したから、大学では変な目で見られています。でも、分野は違っても船井先生なら、この感覚を分かっていただけるでしょう」と。
 ・・・(中略)・・・ もちろん島医師の心境は自分のことのようによくわかりました。正しさゆえに受け入れられないことも、人間社会には少なくありません。(p.38)

 

 

【船井さんの「守・破・離」】
 私の「守」は強いて言えばアメリカ生まれの経営理論だったことになります。
 既述のとおり、これは早い時期に日本ではまったく役立たないと見切ったために、あっさり捨てさることができました。私はハーバード大やドラッカーに、見向きもしませんでした。
 ただ、理論そのものは、知っておいて損はありません。知るだけは知りました。そして、つまらないと、すてるのです。(p.87)
 『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』 という本が昨年騒がれていたけれど、おそらく売らんがためのキャンペーンだったんだろう。図書館の学芸員のような公務員が書評として取り上げるにはちょうどいい本である。日本とアメリカは生活文化も企業文化も異なるから、全部が全部マッチするわけではない。日本国内でだって東京と大阪、また大都市圏と地方都市で同じ方法が通用しないなんてのは基本というか常識である。
 船井さんが会長をやっていた時期の船井総研の成功率は99.9%だった(p.57)と書かれているけれど、海外生まれの手法を用いている外資系コンサルの成功率は、この数値を大きく下回っているのである。
 そもそも近年は、ハーバードが船井総研の経営方法を研究しているのである。
   《参照》   『勝つための方法』 船井幸雄・小山政彦・佐藤芳直 (中経出版)
             【ハーバード流の経営学に欠けているもの】
 私の「破」は楽ができる理論偏重から抜け出すことであり、そのきっかけは「企業活動は人間の営みである(理論だけでははかれない)」と得意先の人材や業績を見て痛感したことだったのです。
 この破の段階で続けた模索が、やがて一つの答えを導き出します。
 ・・・(中略)・・・。同じ手法でアドバイスしながら伸びていく会社とつぶれてしまう会社に分かれてしまうのは、いったいなぜなのだろう?
 考え抜いた挙句、ポロッという感じで答えが転がり出ました。
 単純なことでした。トップの違いなのです。会社の命運は99.9%までトップで決まります。とくに中小企業であれば100%と言ってもいいでしょう。 ・・・(中略)・・・ 。
 これが私の「離」でした。(p.87-88)
 経験を積み重ねてきたコンサルタントが語る提案であっても、クライアントのトップが納得していない場合、この方法で推進しても結果がでない。そこで、納得してもらうために、コンサルタントとクライアントの一体化が必要になってくる。これは専らコンサルタント側の人間性による部分が大きくものをいう。クライアント救済のために何処まで命をかけているかが伝わるほどでなければならない。
 外資系コンサルなら、クールに理論を提示するだけで、クライアントが納得するも何もなく、ただ「ウチのコンサルに依頼したのだから、この方法でやります」と突き放されるだけである。
   《参照》   『「とことん聞く」経営』 小山政彦 (サンマーク出版) 《後編》
             【コンサルタント】

 

 

【ヤオハンの和田氏】
(和田氏が購入していたのは、豪邸の)スカイハイだけにとどまりません。香港島にそびえ立つ50階建て新築ビルのペントハウス、大型クルーザー、金色のロールスロイスなどを立て続けに購入していました。
 和田氏が私淑していたという李嘉誠氏 ―― ホンコンフラワーのショップから身を起こして一代で香港最大の長江財閥を築きあげた立志伝中の人物 ―― が、いまだに古ぼけたセイコーの腕時計をはめているストイシズムとは、精神のベクトルが真逆の方向を向いていたと言わざるをえません。(p.118-119)
 だったら、全然私淑とはいえないだろう。アホすぎる。
 「会社の命運は99.9%までトップで決まる」という船井理論で照らし出すと、ヤオハンは最初から結果は出ていたようなものだろう。
   《参照》   『やりなさい! その責任は俺がとる』 後藤昌幸 (日経BP)
             【ライフスタイルは地味で・・・】