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 心理学系の著作と思って購入しておいた古書。著者は大手広告代理店の方だった。2004年7月初版。

 

 

【商品開発のキーポイント】
 そのビールの味覚に関して、最終的には脳が「おいしい」と判断するわけです。決して舌ではないのです。 ・・・(中略)・・・ 。
 したがって、商品開発のキーポイントは「味」ではないのです。
 いかにその商品を、一人でも多くの脳に「おいしい」と思わせるかの設計なのです。そのためには、商品にまつわるエピソードが必要なのかもしれない。(p.35)
 キーポイントは、「おいしい」と思わせる設計、「欲しい」と思わせる設計。
 最近、壇レイがやっているビールのコマーシャルが頻繁に流れているけれど、それは製造者が語りたいこだわりのエピソードではなく、消費者側が飲む状況を想定してのエピソードの作り込みである。
 しかも、消費する男性ではなく、ビールを買ってくる女性に対してのメッセージ性を優先して作られているんだろう。チャンチャンコ仕様の上着あり、背景にはメルヘンティックな家ありで、全体がデコボコだからこそ印象に残りやすい。

 

 

【脳やココロを見る】
 ひとの脳やココロを見ないで商品ばかりを見ていると、機能をよくすることがすべてに感じてしまう、価格を抑えることがすべてに感じてしまう・・・。商品はそんな単純なことだけでは売れない、それは今までこの本の中で書いてきたことです。(p.72)
 価格や機能による比較は左脳タイプの判断で、どちらかと言うと男性脳の判断基準。それに対して、脳やココロと言っているのは左脳以外つまり右脳タイプの判断で、どちらかと言うと女性脳の判断基準。
 日本では昔から女性が財布を握ってきたけれど、少品種大量生産の時代はとうの昔に終わり、多品種少量生産が常態となっている今日では、俄然女性脳的な判断基準が幅を利かすようになっている。
 ところで、脳やココロを見るといっても、男女差だけで見てこと足りる時代ではない。国境を越えて見なければならない。

 

 

【アジア人の脳のクセ】
 で、この場合、アジア人の脳のクセ、ココロの揺れというのはどういう状況かというと、アジアでは今、日本がカッコイイのです。アニメーション、Jポップ、J製品・・・。
 日本にいると気づかないのですが、事実、そうなのです。(p.72)
 アジア人の脳は、理屈抜きで日本のアニメと聞いただけである程度の期待を抱いてしまうのです。(p.74)
 タイトルが「クセ」だから「アジア人の脳のクセ」なんて書かれているけれど、要は比較文化である。
 この記述には、カッコイイ(おろらく先進という意味で)という用語が使われている。しかし、世界が日本を認識するキーワードはカワイイだろう。
   《参照》   『「かわいい」論』 四方田犬彦 (ちくま新書) 《前編》
             【「かわいい」の世界展開】

 政治レベルでのアジアの文化解放が行われるようになってもう久しいけれど、日本で活動している韓国のスターたちは、幼児性を脱した美少女美少年ばかり。AKB48みたいな幼児性の尻尾が感じられない。韓国は男が支配する儒教社会の価値観にいまだに染まっているからである。そこへいくと台湾は以前からフェミニズム的な文化があって、大陸の儒教文化に基底まで侵犯されていない様子があるから日本のカワイイ文化を、より素直に受け入れる素地はあるはずである。
   《参照》   『台湾海峡から見たニッポン』 酒井亨 (小学館文庫) 《後編》
             【台湾 そして 日本 と 韓国・中国】

 

 

【ものすごく共感しました】
 日経新聞にこんな記事が載っていました。
「社会学者でロンドン大学名誉教授のロナルド・ドーア氏(78歳)は 『人のためになる仕事をして働きがいを感じる。そんな考えこそが日本が守るべき価値』 という」(2003年7月18日)
 ものすごく共感しました。(p.159)
 チャンちゃんは「発想という点」に興味があるから、この手のビジネス本を読んでいるけれど、どれもこれもお金にリンクする意識でしか書かれていないらしいのを感じつつ、いつも憮然としていた。この本の著者も、終盤でこの記述に出会うまでは、「結局のところ、広告代理店の "そろばん頭" なんだろう」 と思っていたのである。違っていた。

 

 

【ビジネスの本質】
 脳のクセを読み、そのうえで、そのヒトのこころやマインドを掴む。これは相手のことを真剣に考えることです。そして思いやりを持つことです。そういう姿勢で仕事をすることです。
 相手のことを考えて思いやる、だからこそココロに触れることができるわけです。自分より他人、自分のためより、ヒトのため。自分だけの儲けではなく、世の中全体の儲け。これがビジネスの本質です。普段の生活ではできていることですもんね。
どこの国にもあると思うんです。
 自分以外に喜ぶ人がいるとやる気が増す、という感覚は。欧米でも「ペイ・フォワード」という概念がありますもんね。いいことは他人に受け渡す。でも、それが日本人には特に強く感じられる。素晴らしいじゃないですか! 大いに日本はポテンシャルがありますよね!!
 仕事のための仕事はやめて、早くビジネスの本質に気づき、ヒトのために仕事をする喜びを日本中が感じられるようになったら・・・。
 型にはまったビジネスを脱ぎ捨てれば、日本の大復活も近いですね!  (p.162-163)
 「ビジネスの本質=人間の本質」 だろう。
   《参照》   『人間の本質』 本山博・稲盛和夫 (PHP)
 現代の経済活動を動かしている資本主義は、人類の進化という大きな流れの中ではほんのひと瞬間として生まれた後天的な仕組みです。もともと人類が持っていた仕組みではなく、ヒトの脳の中で後天的に考えられたシステムです。そもそものヒトとしての生き方はもっとシンプルです。今日が幸せで気持ちよければいいのです。 ・・・(中略)・・・ ヒトは資本主義の経済システムを運営するために生まれてきた訳ではないのです。人類として大きなミッションを抱えて生まれてきたのです。(p.170)
 これから先、世界は世界経済のあり方を変更してゆく過渡期に入って行く。そんな中で日本が中心的な役割を担うことだろう。その先にある完成形はマネー・フリー社会である。ペイ・フォワードが身についている人々だけが世界を牽引して行くことになる。

 

<了>