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 タイトルに興味を持ったけれど、エネルギー革命そのものを扱った記述は過少である。炭素から水素へとエネルギーの主体が変わるということは、社会構造が大規模に変わって行くことを意味している。そんな時代であるからこそ、変革の先頭に立って社会を考え、かつ率先して行動してゆこうという鋭意に満ちた書籍である。2010年1月初版。

 

 

【脱炭素化】
 古代の原始人から現代人に至るまで人類はずっと水素文明に近づいてきたと見ることができる。「脱炭素化」 とは、新しいエネルギー源が登場するたびに、その燃料中の水素原子に対する炭素分子の割合が減ることを指して使われる用語である。(p.100)
 それぞれのエネルギー源の、水素:炭素の原子比率は、
 [薪] 1:10、 [石炭] 1:1~2、 [石油] 2:1、 [天然ガス] 4:1
 水素それ自体を燃料とする日が到来するのも遠くないだろう。つまり、脱炭素化の流れは、人類が営々と継続してきた文明の不可逆的な流れである。(p.100)
 半導体等の技術的進歩に応じてエネルギー効率は高まってゆくから、脱炭素化と低エネルギー化は、同時に進行してゆくことだろう。

 

 

【教育の根源】
 教育の目的が、生計、安全、健康、社会、娯楽の確保として記述されている。
 現時点においては、通貨を稼ぐことが生計の確保とはなっているものの、本質的には通貨を稼ぐことと生計を確保することは、イコールではないということを教え、真に生計を確実にするよう導くことが、教育の根源である。(p.139)
 より根源的に言うならば、教育の根源は “生きること” になろうか。
 いずれにせよ、通貨(貨幣経済)という呪縛から離れてみることが重要である。
 日本という国家にもかつて、戦時国債を発行して国民から集めたお金を、インフレに乗じて踏み倒したという実績があるけれど、通貨というのは社会情勢の大転換に乗じてどのようにでもなってしまうものなのである。戦後の日本においてたまたま70年間ほどクラッシュすることなく連続してきているけれど、国際的金融危機のあと戦争を演出して徳政令の引き金を引こうとする奸智が実行されようがされまいが、大人達の杞憂をよそに、既に働かず稼がない人生に胡坐をかいている若者達は少なくない。彼らは経済を回すポンプ役を降りている。オジさんたちは 「働け、年金を納めろ」 と言っているけれど、若者達はオジさんたちの無責任さと、過去を引きずった発想しかできないその愚鈍さを見透かしている。
 若者たちに見透かされているような大人たちが、既に見透かされているような内容を基盤とした教育をしても無駄なのである。若者たちをいつまでも馬鹿にしていてはいけない。
 エネルギー形態が移行してゆく社会構造の先をよく見据えて、根本的な教育改変を考えておくべきだろう。

 

 

【虚弱な身体は・・・】
 「健全な精神は健全な肉体に宿る」 とは有名な言葉だが、そのあとは、こう続く。「虚弱な身体は我がままによって造られる。虚弱な体躯の人が、新鮮で剛毅な心をいつまでも持ちつづけることは難しい。それゆえ、健康で強健な体躯は貴重である」(ドイツ フォン・デル・ゴルツ元帥)という言葉だ。
 教育において、 “強い心” を育成するためには肉体的鍛錬が必要なのだ。心身一如である。(p.200)
 「その通りである!」 と思うけれど、現在の若くはない我が体躯を振り返って、ちょっと・・・いや、かなりビビル。

 

 

【従来のままでは 主力たりえない教育】
 戦艦大和の主砲を作っていた人々は、海戦の主力が戦艦から航空機に移行したことを知っていたが、自分たちの仕事が失われるのを恐れてそれを言いだせなかった。
 それと同様に、今日の教育機関は、今の教育システムが機能しなくなっていることを見ないふりをしている。それによって日本の財政や社会は崩壊するかもしれない。不可逆的変化の機を逸しては、後から取り返すことはできないのだ。
 そうなる前に、ビジネスマンを遠隔教育や遠隔学習で鍛える方が賢明である。これからは情報空間の優勢が現実世界の勝敗を左右する。つまり、情報空間で教育を受ける社員や生徒を助ける企業や学校は確実に生存し続ける。(p.272)
 通常の学校教育は戦艦に相当し、遠隔教育は航空機に相当すると言っている。
 農業化社会から工業化社会にかけては、陸戦・海戦の時代で、情報化社会は空中戦の時代である。

   《参照》  『「大和」とは何か』 日下公人・三野正洋 (ワック出版)

             【「大和」は世界最高の戦艦ではない】

 

 

【女性の社会進出がもたらすもの】
 「女性の社会進出」 「男女共同参画」 といった言葉は、女性の味方のような響きだが、多くの場合は、結局、女性も経済社会に取り込まれ疲弊する。加えて労働供給が多くなるので、労働単価は低下する。全体から見れば、お母さんが働きに出たらお父さんの給料が下がった、ということになるのだ。(p.218)
    《参照》   『ほんのちょっとした違いなんですが』 池田和子 (タイムス) 《前編》
             【女性の独立?】

 

 

【社会公益に奉仕する第三部門】
 『エントロピーの法則』 で有名なリフキンさん。下記の様な社会論も書いていた。
 1995年、文明評論家ジェレミー・リフキンは 「The END of WORLD」(邦題「大失業時代」)という本を書いている。
 その中で、リフキンは、テレクトロニクス・テクノロジーとそれによる情報テクノロジーの発達によって、 ・・・(中略)・・・ 未曾有の “テクノロジー失業” を生み出す、という未来を描いて見せた。
  ・・・(中略)・・・ 。
 リフキンは、労働時間のリエンジニアリングと、勤労者と失業者が一緒になって社会公益に奉仕する第三部門を充実させることを提案している。(p.232)
 社会が向かっている現実はリフキンの記述通りであるから、「社会公益に奉仕する第三部門」 というあり方は具体的に考えておくべきだろう。
 民間の上がりで養われていながら、民間の労働量の3分の1という公務員たちがこのようなことを率先して考えておくべきだろうと思うけれど、閑すぎると頭は回転しなくなるから、彼らは未来社会など考えたこともないだろうし、基本的に自分の生活のことしか頭にないらしいから、そんなことはどうでもいいのである。回転力の落ちた公務員などと言うものは、本すらろくによまないだろうけど・・・。
    《参照》   『「知の衰退」からいかに脱出するか?』 大前研一 (光文社) 《中編》
              【1読んだら5考えよ】

 著者が属する集団である 『連山』 に集う人々は、既にこういった様々なことを考えつつ、活動を始めているらしい。
(因みに、「連山」 とは、古代中国神話に登場する伏羲により遺された易であり、三易の一つと言われているそうである。三易とは、「連山」、「帰蔵」、「周易」)
        《周易・関連》     『周公旦』 酒見賢一 文芸春秋

 

 

【創造するのか?戻るのか?】
 おわりに、以下のように記述されている。
 『水素革命近未来! ―― 教育における革命』 は、英書 『水素文明』 に反映されます。そしてそれは炭素文明から水素文明への攻勢転換点となります。本書を購入し、行動することは歴史に参加することであり、水素文明を創造する入場券なのです。

 今回の世界大乱は単なる不況でもなければ、行き過ぎた金融ゲームの破綻というだけにとどまるものではありません。さまざまな陰謀論も一面的な見方です。本質はもっと天体的で理数的なものなのです。端的に言えば、今回の世界大乱は気候変動と石油枯渇と基軸通貨麻痺による必然的な結果なのです。そして、これは元に戻すことのできない不可逆な変化です。いくら待ってもアメリカの景気が戻り、輸出が活気づくことはありません、自民党から民主党になったところで、中国の株価が上がったところで変わらない変化なのです。
 これまでの文明構造が崩壊し、新しい文明構造を構築する以外に文明の存続はありません。現在の世界が置かれている状況は、景気が回復するかどうかなどというものではなく、水素文明に移行するか、もしくは巨大な人口崩壊とともに原始に戻るかという岐路なのです。(p.301)
 日々ありきたりなことに満足して生きているだけの人々は、最後の文章を読んで、「何を、大げさな」 と思うのだろうけれど、チャンちゃんは著者と同じように感じている。ただ、著者のようには行動していない。せいぜいこの読書記録をネット上に残すという間接行動のみ。
 本物は行動し、偽物は坐り込む。この差は如何ともし難い。
 

 

<了>