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 『学校の勉強だけではメシは食えない!』 の記述と重複するところが多いけれど、この本の方が、薄くて文字数が少ない分、印象に残りやすいかもしれない。
 10代で遊郭に入り浸り、現在世界で唯一の特殊技術をいくつも持っているオジサンの語りだから、ぶっちゃけていて面白い。


【岡野さんの会社】
 岡野さんの会社は、社員6人の町工場。
 決まりごとが一つある。社員誰かが休んだら、出てきている連中みんなで、特上の鮨、めっぽう旨い鰻重なんかが、「まいど!」 って届く。飲みたきゃビールを飲んだってかまわない。
 昔は夕食も食いに行ってた。そこいらの定食屋じゃねえぞ。一流ホテルに行って、好きなもんをたらふく食うんだ。(p.73)
 俺はいちいちうるさいことを言わないしね。社歌だって 
「スーダラ節」 だ。(p.190)
 ユニークな労務管理である。
 人を雇うようになる前の労務時間は、キャバレーみたいだった。
 若かったから、夜も10時、11時まで仕事をした。かみさんがよく言ってたな。
「うちの仕事はキャバレーみたいね。昼間はうろちょろしてて、夜になったら調子が出るんだから・・・・」
 おっしゃる通り。 (p.192)

 

 

【プライド】
 大企業の中には、こっちは下請けだっていう感覚があるから、道理に合わないことを言ってくる会社もあるんだ。仕事をさせてやってるんだから、四の五の言うんじゃないって、どこかで思ってるんだよ。そのペースに乗ったら、下請けで終わっちまうんだ。大手の企業がわざわざ町工場に仕事を出すのは、自分のところじゃできないからなんだ。 ・・・(中略)・・・ 。
 なかには対等に見せかけて、終わってみたら、担当者がちゃっかり自分の手柄にしてるってこともあるしね。うちも、苦労して開発した技術を、担当者の手柄みたいにされたことがあったよ。こっちは、「はい、ごくろうさん」 でおしまい。俺はそんなのは二度と相手にしない。技術の提供なんか、土下座されたってしないね。
 大企業が持ってない技術を持っているってことは、胸を張っていいことなんだ。つきあいがなくなるときは、向こうに切られるんじゃない。こっちから切るんだよ。(p.104)
 ここまで言えるのは、岡野さんにしかできないオンリー・ワンの技術があるから。

 

 

【大企業病】
 担当者レベルでは決められないからということで、大企業の上司に説明に行った。
 「岡野さんに、こういうものをつくる技術があることは分かりました。しかし、岡野さんはうちでの実績がないですね。仕事をお願いするわけにはいきません」
  ・・・(中略)・・・ 。
 ナメてもらっちゃ困るってんだよ。実績があろうがなかろうが、技術が優れていればそれを認めて採用するのが器量ってもんじゃねぇのか。(p.113)
 まったくその通りだと思うけれど、現場を担当しない大企業のおえらいさんや公務員というのは、 「前例がない」 とか 「実績がない」 とかってすぐに口を突いて出てくる。
 大企業病というより、一般的に日本病と言えるかもしれない。
   《参照》   『中国人の金儲け日本人の金儲けここが大違い!』 宋文洲 (アスコム) 《後編》
             【大企業のベンチャー潰し】

 上記の書き出しの続き、
 俺も頭に来たから、一言いってやったね。
「実績かい? そしたらあんたは、女房をもらうときも実績で決めたってわけだな。いったいどんな実績があったんだい?」
 あっちも血相が変わって、大げんかになった。その後、上司から手紙で、仕事をしたいようなことを言ってきたけど、冗談もたいがいにしろってんだよ。
「無理だよ。おたくの会社はうちと取り引き実績がねえじゃねぇか」
 これでおしまいにした。(p.113-114)
 岡野さんの勝ちーーー! パチパチパチパチ・・・・。

 

 

【お礼を4回】
 下記にある、玉の井というのは、岡野さんの地元にあった遊郭のこと。岡野さんは10代の頃からこの様なところに入り浸って人生を学んできたのだという。
 俺は玉の井のお姐さんからこう教えられた。
「いいかい、人さまに何かしてもらったら、4回お礼をいうんだよ」
 たとえば、誰かに御馳走してもらったら、食事が終わったときに、「ごちそうさまでした」 は当然だよ。だけど、それだけじゃいけない。(p.122)
 残りの3回は、次の日、次の週、次の月。
 「ありがとうございました」、「ごちそうさまでした」 を4回も言ってみなよ。こんなご時世だから、相手は感動だよ。(p.124)
 なるほど。このような感謝方法は日本ならではである。
 アメリカでこれを実践したら、思いっ切り怪訝に思われてしまうだろう。
   《参照》   『ほんのちょっとした違いなんですが』 池田和子 (タイムス) 《前編》
             【ありがとう】

 

 

【落語は “知恵袋” 】
 落語を聴き込んで、そこに込められている発想や知恵をみにつけてみなよ。商売観や仕事観が、間違いなく変わるね。古典落語を聞かないヤツに、いい発想なんかできっこない。これは俺の持論だ。乱暴な話でも何でもない。俺自身が落語からいっぱいヒントをもらってるからね。落語は俺の “知恵袋” なんだよ。(p.152)
 仕事観の学習例として、「目黒の秋刀魚」 という落語が p.30 に書かれている。
 岡野さんの 「世渡り力」 の先生は、玉の井と落語らしい。

 タイトルは 『人生は勉強より 「世渡り力」 だ!』 となっているけれど、岡野さんは “大好きな仕事” だから睡眠時間3時間の日々が続いても全然疲れなかったと書かれているし、さらに、中学校中退の岡野さんは、若い頃に、とんでもなく高額なドイツ語の金型に関する本を買って独学してもいる。
 つまり、頭と体に汗して勉強することで 「技術」 を高めつつ、玉の井と落語で学んだことを 「営業」 に活かし、両輪揃うことで大成功しているのである。このことを読み落としているようでは、お話にならない。

 

 

【名参謀になれる女房】
 男にとって女房は参謀役なんだ。どうかすると目一杯突っ走りがちな男を、上手に立て、乗せながら、軌道修正したり、勝負どころでは背中を押したりする。それが女房ってもんだし、男はそういう女房を持たなきゃダメだね。男を上手に立てられない女房なんて持つんじゃないぞ。(p.157)
 近頃多いと言われているマザコン男に、この意味が分かるのだろうか?
 チクリとやっても、男のやる気をそがないってのが、参謀の腕の見せどころなんだよ。
 女房と一緒になってなけりゃ、いまの俺は絶対にない。非の打ちどころのない参謀役だね。(p.158)

 

 

【「必ずできる」 と信じる】
 「そんなの不可能だよ」
 俺が手がけた仕事は、そう言われることが多いんだ。(p.171)

 必ずできるって信じることが、モノづくりではいちばん大切なんだよ。それさえ揺るがなきゃ、途中の失敗なんか何でもねぇんだ。(p.173)
 今や日本中に行き渡っている “痛くない注射針” を作るのに、試作品まで1年半。量産体制を整えるまで、実に3年かかったと書かれている。
 「必ずできる」 と “信じる力” なくして出来ることではない。
   《参照》   『「並の人生」では満足できない人の本』 ロベルタ・シェラー  三笠書房<br>
              【サーボ機能】

 

 

【動機】
 初めてのモノをつくるってことは、苦労を背負い込むことだな。だけど、「世界初」 「日本初」 って言葉が勇気をくれる。やっぱり、「初」 は気持ちがいいや! (p.183)
 “痛くない注射針” の他にも、携帯電話などに用いられている薄くて細長い継ぎ目のない “電池の箱” も岡野さんの技術によって成し得た 「世界初&日本初」 の製品である。
 岡野さんは、金額を了承して注文を受けたものの、制作してみて納得ゆくものが出来ない場合には、予算を倍額使い果たしてでもやり遂げている。それで、のちのち金額に関して再交渉することもない。
 優れた実績を残す人の人生上の根本動機は、決して “利益” ではない。

 

 

 <了>