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 この書籍を読めば、基軸通貨ドルが終焉した後 “日はまた昇る“ 理由が良く分かることだろう。2009年7月初版。

 

 

【アラブ諸国の米英に対する見方】
 2008年の世界金融危機の発生に伴い、アラブ諸国の投資家の多くが、米国や英国に投資することのリスクを再認識した。今や、彼らは安全な投資先として高い技術力を誇る日本に注目しており、対日投資は加速している。(p.8)
 湾岸諸国では現在、対日投資の起爆剤となる湾岸通貨統合が進んでいる。これまで湾岸諸国では、自国の通貨相場を米ドルと連動させる 「ドルペッグ制」 を採用してきた。そのため湾岸諸国の資産は米ドル建て資産比率が圧倒的に多かった。ところが、湾岸通貨統合に伴い、これらの国々の資産の多くが、今後、円建て資産で運用される流れとなっているのだ。
 ドルペッグ制を敷いていると金利もアメリカと同じにせねばならず、湾岸諸国にとってはインフレ対応等で、独自に合理的な政策を行えないことも、ドル離れに向かう大きな因子であったはず。
 また2009年から、アラブ産油諸国と日本とのあいだで租税条約が締結されつつあることも、アラブ産油諸国の対日投資に弾みをつけている。(p.26)
 2009年1月に、ファンドを通じて対日投資する海外投資家の株式譲渡益を原則非課税とすることを骨子とした税制改革案を発表した。
 日本の現行税制では、海外投資家がファンドを通じて日本企業に投資すると、株式売買時に生じた譲渡益に対して、実効税率がやく40%の法人税が課税されてしまう。この効率の法人税が、海外投資家が対日投資の意志決定を行う上での足かせとなっていた。(p.74)
 下記の書籍に書かれていた、金融特区という非課税案は、2009年に案として採用されていた。問題は、いつそれを実施するかである。
   《参照》   『スイス銀行体験記』 野地秩嘉 (ダイヤモンド社)
               【日本に金融特区を】

 アメリカのアンモラルな経済実態を世界中の諸国は既に十分認識している。認識していないのは、アメリカのディスインフォメーション報道に包囲されている日本人くらいのものだろう。基軸通貨ドルのカウントダウンが始まっている今日、アメリカから日本へ資金を向け変える流れは既に大きなうねりとなって始まりつつあるのである。
   《参照》   『ブッシュのあとの世界』 日高義樹 (PHP)
             【オイルマネーと日本の貯蓄力】
 今や米ドルは、カードゲームのババ抜きの 「ババ」 のような存在であり、最後まで待っていた国が負けなのだ。そのため、最後にババをつかまされたくなければ、どんなにドルが安かろうとも、損切りして叩き売らなければならない。こうして生まれたマネーを日本円建て資産にリスクヘッジする流れが、もうじきアラブ諸国で巻き起こるだろう。(p.91)
 アラブ諸国では、具体的な準備は既にされている。
 クウェート投資庁(KIA)は、対日投資残高を、最大で当時の対日投資額の3倍、480億ドル(4兆8000億円)に引き上げることを計画中である。この数兆円にも及ぶ対日投資は、クウェートと日本間の租税条約が発効した段階で実施される見込みである。
 なお、このようなドル離れ現象は、カタールとクウェートのみの現象ではなく、今後、アラブ産油諸国全般で急激に加速する可能性が非常に高い。(p.99)
 世界を支配している「国際金融資本家」たちが、おいそれとこのような租税条約締結を見過ごすはずはないと思うけれど、発行されたら見ものだろう。

 

 

【政府系ファンドの日本投資予測】
 世界の政府系ファンドの資産規模は、2015年までに12兆ドル(約1200兆円)に近い数字になると予測している金融機関や政府系機関が多い。このうち50~60%を占めるといわれているGCC諸国の政府系ファンド資産の20%が、対日投資として振り当てられると、少なく見積もっても2015年までに100兆円以上の資金が日本に投資されることになる。
 政府系ファンドの日本投資予測が100兆円ということは、それに10倍する民間の投資資金があるということだろう。そうでないと、この書籍の副題にある “日本に押し寄せる1000兆円の津波” にはならない。

 

 

【大前さんの産油国に対する認識違い】
 大前研一氏は同書の中で、中国や東南アジア諸国には、自国産自動車を作る気があるが、ロシアやサウジアラビアには、その気がないと断言している。
 この大前氏の記述は、完全に間違っている。
 サウジアラビアは、石油資源からの収入に依存しすぎた経済体質から脱却して産業を多角化することを国是としている。(p.48)
 上記で 「同書」 とあるのは、『ロシア・ショック』 という著作のこと。
 価格の乱高下に見舞われる産油国としての悲哀を数十年間に何度も経験しているアラブ諸国が、産業の多角化を目指していないと考えるほうが、客観的に見て確かに無理がある。
 サウジアラビアは日本の政府や企業に対して、東南アジアの開発途上国のように、「工業団地と安価な労働力を提供するので、日本企業の資本や日本政府の開発援助金の類を使って企業進出して欲しい」 とリクエストしているわけではない。
  ・・・(中略)・・・ 。サウジアラビアは工業団地と人材を用意するだけでなく、「資金」 まで用意して、自国の自動車産業や家電産業を誘致しようと努力しているのだ。(p.51)

 

 

【環境問題への取り組み】
 アラブ諸国が環境問題に取り組んでいるというと、彼らが米国のグリーン・ニューディール政策を後追いしているかのように誤解されるかもしれない。ところが、アラブ諸国は、オバマ政権が発足する遥か以前から、環境問題に真剣に取り組んでいるのだ。(p.272)
 産油諸国は、苛烈な自然環境下にあるが故に、食糧安全保障(国内生産)に対する思い入れも強く、エネルギー資源として石油一辺倒の危険性も充分に認識しているから、日本の様々な環境技術に対して熱い視線を向けている。この点でも日本とアラブの連携は強く望まれている。