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 日経BPに著者が連載した 「検証 : ITキーワード」 に対して、投稿された読者からの意見をも掲載して編集された書籍である。面白くもない情報関連の分野なのに、珍しい編集内容だったことと、様々な視点からの意見が興味深かったことで、ついつい引き込まれてすんなり最後まで読んでしまった。
 間接にであれ情報関連の仕事に携わっている人には、十分理解の及ぶ内容である。

 

 

【情報ノウハウ と 業務ノウハウ】
 銀行が第2次オンライン・システムを開発していたころ、コンピュータ・メーカーが某銀行へ、優秀な技術者数人を送り込むということがあった。前の月まで、原子力発電所におけるシステム開発の仕事をしていたトップクラスの技術者を銀行向けに用意したとのこと。
 だが、ご想像のとおり、その技術者たちは優秀さを発揮することはできなかった。
 システムの規模が大きくなればなるほど、業務ノウハウが重要度を増すからである。業務内容が全く違う分野で、すぐに活躍することは難しい。 (p.81)
 今日では、単なる情報技術者としての[SE(システム・エンジニア)] と、業務内容に詳しい[業務SE] は、用語としても区別される傾向にある。
 一般の人々は、情報処理=プログラミング、という単純な想像をするらしいけれど、大型汎用システムにおいて、実際にプログラミングに費やす時間など、情報処理作業全体時間の20%以下ではないだろうか。
 プログラム言語のプロトコールを理解することなど “数学大嫌い症候群の方々以外なら誰にでも出来ること” で、大した作業内容ではない。要件定義、設計、機能説明など、殆どは日本語力を使って仕事をしているのが実態である。作業現場によっては、「文系学部出身の技術者が60%以上を占めている」 と聞かされたこともある。

 

 

【傲慢なれど、アメリカの戦略通り】
 ある米国のパッケージ・ベンダー幹部は、「グローバリゼーションとは、米国で開発したソフトを他国に使ってもらうことだ」 と言ってのけた。情報システムも一つの文化であると考えれば、米国流の “合理的” なソフトを利用することは、米国文化を世界に広めようとする米国の “グローバル” 企業の思う壺と思うかもしれない。 (p.108)
 アメリカの21世紀戦略の中で、「情報関連分野で、世界の主導権を取る」 というのは絶対に達成すべき最重要課題だった。アメリカは政治力まで用いて、日本が独自に開発していたOSのトロンを断念させたのであるし、日本の近未来情報戦略を構想していた当時のNTTトップをも、メディアを使ってまんまと失墜させたのである。
  《参照》  『売られ続ける日本、買い漁るアメリカ』 本山美彦 (ビジネス社)
            【アメリカの対日最終目的】

 

 

【ある読者の投稿】
 いつも 「検証 : ITキーワード」 を読んで感心するのは、読者からの投稿の量です。内容もさることながら、問題提起という点でとても優れているのでしょう。反論ができない精緻な正論よりも、荒削りでも議論の中心になる文章が真骨頂ですね。また、書き込みをされる方も皆さん素晴らしい。どれも、深く考えられているように感じます。(ちゃんチャン)  (p.174)
 この読者の投稿内容は、私自身の感想と全く同じである。1冊の書籍ではあるけれど、投稿された読者の記述に思いを巡らせ背景を推察してみるならば、情報関連以外の様々な分野に重ねて考えることが出来るし、少なくとも2冊分の内容はあるように思いつつ読んでいた。
 因みに偶然とはいえコードネームが似ている。この投稿者は 「ちゃんチャン」。 私は 「チャンちゃん」 である。

 

 

【あるエキスパート読者の投稿】
 アメリカからコンピュータが導入され始めた頃から、情報産業に携わっていたらしい技術者からの投稿。直接に同じ経験はしていなくても、じんわりと首肯しつつ読める投稿記事が掲載されている。要約すると・・・
 当初は、「解」 を工夫する過程で本質を勉強せざるを得なかったこと。しかし近頃は 「解」 が簡単に入手でき、ブラックボックス化もあって、勉強しなくなり、文章に使用される言葉も貧弱化し、当然 「思索」 も貧弱化した。そしてこのような変化は、世の一般でも 「画一化」 となって進行したこと、
 などが書かれている。
 そして、最後の部分。
 が、実態は一人が住む社会が広がり、より一層自分なりの 「軸」 が無いと、判断もブレ具合も分からず、向かうべき方向も見失うように思います。
 物事も本質を理解して、そこから想像するコトをより迫られるように思います。そうしたことのために、反論を恐れずに物事の多面的な見方を開陳して議論を重ねることは大事なことと思います。 「言者不知」 を通過しないと 「知者不言」 に至らないからです。(武蔵62歳、元情報システム管理責任者) (p.220)
 「 さ っ す が ~ ~ ~ 」 と思いました。
 
 
<了>