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 著者は、神道に造詣の深い日本文化を語る碩学。
 この本は、5部構成でできていて、最後の第5部がこの本のタイトルになっている。『大和の海原』を読んで、学生時代に読んだことがあったことを思い出した。その頃は、古代文化や神道文化ではなく土木(地質)の興味で読んでいた本だった。なにせ、この本、1989年の出版である。

 

 

【昔は女性を神聖視。女性を不浄と見るのは仏教の思想】
 それ(おせち料理)をあらかじめ作りだめして、正月中炊事をしない地方が今でもあるのは、正月は女性の休養の機会だったからである。それを誤解して、正月料理は神聖だから不浄な女手を借りないのだと思っている所があるが、日本は本来女を神に仕える者とし、神聖視していたのであって、不浄視するのは仏教のもたらした思想だった。 (p.113)

 

 

【花への日本人の対応】
 1.季節の象徴
 2.花精の崇拝:超人間的な霊性の存在を信じ、神聖と見、呪力あるものと考えた。
 3.神霊の降下:神木から神籬(ひもろぎ)へ、そして門松へ。
 4.邪気の払拭
 5.愛(め)でたいもの:神聖であり神秘であり、かつ霊力を持つものと思ったからやがて愛すべきもの
   として生活の中に深く入ってきた。   (p.128)

 

 

【すしの語源】
 すしの語源は 「すえ飯」 = 腐ったご飯 からきている。腐ったご飯を食べるわけではなく、飯が発酵して糖化(=酸化)してゆく作用を利用して、魚肉・貝、古くは鳥獣肉などを保存する方法として考えられたものである。
 質的に変化をとげたのは、江戸時代、17世紀以降である。食酢の普及にともなって、必ずしも発酵によらずに酸味をつけたものと組み合わせた早ずしが、さまざまな形で一般化した。(p.144-145)
 

【異俗は非農民】
 おそらく日本神話の中で、稲作生産に関する神を優位に置き、それと支配者とを血縁または強い連携で説明しているのは、この米作優位の発想がもとにあったからだと思われる。古代史に出てくる異俗の土蜘蛛、隼人、蝦夷、佐伯、国樔などは、おそらく同じ日本人種中の非農民に対する名称と解釈される。 (p.164)

 

 

【日本人の笑いと信仰】
 日本人の笑いほど、不可解で、複雑なものはない、ということを私らは学生時代外人教師に指摘された。その一因は日本人の精神構造が常に重層的なものから脱却しきれていない点にもあると思う。 (p.182)
 この文章に続いて、神話のアメノウズメノミコトの話から、牧岡神社の具体例などが言及されており、日本人の笑いは、性と不可分の関係にあるらしいことが記述されている。言霊の視点で考えるならば、性→生→正→聖、となる一連の肯定的パワーを笑いの呪力が支えていると解釈できる。

 

 

【朱塗りの発祥】
 神社における朱塗りは、大陸寺院→中国宮殿→日本宮殿→神社建築の系統の流れとして発生したということになりそうだが、実は日本では中国宮殿の影響以前に、建物を赤く塗る風がすでに別にあった、ということを忘れてはならない。
 それは埴輪の家にすでに認められるもので、・・・・・・  (p.212)

 

 

【大和の海原】
  『万葉集』 巻一の第二の歌。舒明天皇の御製
 大和には 群山あれど とりよろふ 天の香具山 登り立ち 国見をすれば 国原は 
 けむりたちたつ 海原は かまめたちたつ うまし国ぞ あきつしま大和の国は  (p.218)
 ここに歌われている海原は、埴安の池であるというのが、本居宣長の学説として、今日まで信じられてきたそうである。
 しかし著者は、奈良盆地の標高50m地帯を結んでそこに現れる地域は、古代の湖だったのではないかと考えている。文献に残っている建造物や地名は、全て標高50m以上の地域にある。つまり、平城京の時代、奈良盆地は内陸湖であり、水運の長所を生かして繁栄していたのであるが、海水位の変化により水運が絶たれ、平安京(京都)に遷都せねばならなかったのであると。
 この説は、今日では一般的に認められているのであろう。
 奈良盆地の地盤図を見たことがある。たいして大きな河川があるのでもないのに、広範囲にわたって軟弱地盤なのである。鉄骨造5階建て程度のビルを建てようとしても、直接基礎は全く不可能で、杭基礎工事に莫大な費用を要するような地盤なのである。つまり、地質学的には、奈良盆地はかつて湖底であったとする考えは否定しようもない事実である。
 江戸幕府の御用学者・本居宣長の出自はあくまでも歌人である。
 神道的発想を心得た著者の本から日本文化の意外な真実を学べることは多々ある。
 
<了>
 

  樋口清之・著の読書記録

     『梅干と日本刀』

     『帯と化粧』

     『柔構造のにっぽん』

     『装いの文化』

     『大和の海原』