負ければ「クビ」。第5節。VS無敗で首位の古巣レアル・ソシエダ。アウェー。 | 元U-20ホンジュラス代表GKコーチ・山野陽嗣の「世界一危険な国での挑戦」

負ければ「クビ」。第5節。VS無敗で首位の古巣レアル・ソシエダ。アウェー。



「史上最強」VS「初心者」。第4節。VSオリンピア。ホームの続きです。



「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -VSレアル・ソシエダ。アウェー。2013年9月1日①


 まさか、ここにとして帰ってくる事になろうとは…。つい2ヶ月前までは、想像だにしていませんでした。

 第5節の相手古巣レアル・ソシエダとのアウェー戦を戦うために、故郷のように慣れ親しんだ「Tocoa(トコア)」の町、そしてスタジアムに帰ってきました。

 昨季、1部リーグ昇格1年目ながらリーグ最少失点準優勝という、ホンジュラスリーグ50年間の歴史に残る快挙を共に成し遂げたレアル・ソシエダの仲間たち…。当然ながら、僕にとって特別な存在。思い入れは、誰よりも強い…。

 しかし、これが厳しい「プロ」の世界…。昨日の友も今日の敵。家族のように慣れ親しんだ仲間たちと、今は「敵」として戦わなければならないのです。

 試合までの1週間…。僕は「敵」である古巣レアル・ソシエダの長所・短所…共に仲間として戦ってきた者だけが分かる情報を、ありったけパリーヤス・オネの監督、コーチ、そして選手たちに伝えました。心は痛みましたが、全ては「勝つため」。そう、この試合は絶対に負ける事は許されないのです。

 現在、泥沼の「3連敗」中の我々パリーヤス・オネ。順位もとうとう、「最下位」に転落しました。僕は前節のオリンピア戦の敗北の後、「クビ」を覚悟しました。それくらいGKコーチである自分に対する批判は凄まじく、チーム内での立場は崖っぷちに追い込まれていました。

 …しかし、幸運にもまだクビになる事なく、この古巣レアル・ソシエダとの一戦を迎える事ができました。…が、ホンジュラスで「4連敗」は、ありえない。このレアル・ソシエダ戦に負けると、僕はもちろん、監督、他のコーチングスタッフ、全てがほぼ間違いなく、クビになります。正に、「ラスト・チャンス」…。

 しかも、3連敗に激怒したチームの会長が「4連敗したら給料の4割を罰金としてチームに支払う事」という、ムチャクチャな制裁を問答無用で決定。これにより金銭的にも崖っぷちに追い込まれた現場のコーチングスタッフと選手たち…。「明日、食う」ためにも、このレアル・ソシエダ戦は絶対に負けられない戦いとなりました。本当に、もう、後がない…。


 こんな正真正銘の「崖っぷち」に追い込まれた我々パリーヤス・オネが、この日、「乗り越えなければならない壁」はあまりにも高い。相手のレアル・ソシエダは現在「リーグ最多得点&最少失点」で「唯一の無敗」で「首位」を独走中。今、ホンジュラスで最も強いチーム。そんな相手と、相手が無類の強さを発揮する事で有名な「アウェー」(昨季は1敗しかしていない)で戦わなければならないのです。対照的に我々は、3連敗してチームの雰囲気も悪く、最悪な状態…。自分はレアル・ソシエダに居た事があるから、彼らに勝つのがいかに難しいか、誰よりも分かる。「奇跡」でも起きない限り、今の我々がレアル・ソシエダにアウェーで勝つのは不可能…。引き分けさえも、至難の業…。



 これが自身にとっての、パリーヤス・オネでの「最後の試合」(=クビ)となってしまうのか…?


 それとも、「奇跡」は起こるのか…?



 古巣との人生が懸かった「運命の一戦」。


 果たして結果は…?




※黄色がパリーヤス・オネです。






 パリーヤス・オネ、「1-0」で首位レアル・ソシエダに、今季初
完封勝利!!


 「最下位」を脱出し、「7位」に浮上しました!!


※ちなみにこのゴールは、今節のホンジュラスリーグの「ベストゴール」に選ばれました!!スーパーゴールです!!そしてチームとして、5試合目にして「初の先制点」でした!!



【第5節を終えてのホンジュラスリーグ順位表】

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -5節順位表!



 正に、奇跡が起きました!!今季「無敗」だった首位レアル・ソシエダに、最下位だったパリーヤス・オネがアウェーで初めて土をつける!!しかも、我々にとって無失点は、今季初!!これまで失点が多くてGKとGKコーチである自分は怒涛のような批判にさらされてきましたが、現在ホンジュラスリーグ「最強」のレアル・ソシエダ相手にアウェーで完封勝利し、やっと力を証明する事ができました!!負ければ確実に「クビ」になっていた「崖っぷち」の一戦で勝利を掴み取り、どうにか首の皮一枚で生き残る!!俺はホンジュラス代表GKコーチになってW杯に出場して日本を倒してベスト16以上に進出するという夢を実現するために、日本での生活を捨てて、全てを失うリスクを犯してまでホンジュラスに来たんじゃ!!こんなところで「クビ」になってたまるか!!

 この試合…。監督はこれまで「そりが合わず」起用してこなかった(サブメンバーにすら入れなかった)、僕がずっと「No.1・GK」と主張し続けてきたサンティ二を、ついに重い腰を上げて今季初めてスタメン起用しました。そして結果的にこの起用が「今季初の完封勝利」を導きました。確かにサンティ二はミスもありましたが、その度にDFの奇跡のクリアーなどで「失点しない」…。この瞬間、僕は確信しました。「やはり、サンティ二には、失点しない『』がある」 結局、極論を言うと、何が「良いGK」なのかと問われれば、それは失点しないGK。サンティ二は実力的にもパリーヤス・オネの3人のGKの中で「No.1」なのはもちろん、3人のGKの中で唯一「失点しない運」を持っているGKなのです。実はそれはプレシーズンの段階からデータ的にも明らかとなっていて、練習試合では唯一の「全試合無失点」、紅白戦では全GKの中で「最少失点」、しかも、この日の試合同様「ミスがあっても失点しない」…という流れを見せていました。だからこそ、僕はそれらのデータも交えて「サンティ二が実力的にNo.1で、しかも唯一『失点しない運』と『勝ち運』を持っている。勝利するためには絶対に起用すべき」と主張し続けてきたのですが、監督がサンティ二を性格的に毛嫌いしていたため(サンティ二は決して悪いヤツではありません。ただ単に監督とそりが合わないだけなのです)、この試合までベンチ入りすら認められなかったのです。

 サンティ二はこの試合でGKコーチである僕の期待に応える質の高いプレーを連発し、後半残り20分で負傷交代するまで「無失点」の立役者となりました。ずっとサンティ二を推してきた自分としては、これでサンティ二のプレーが悪くて結果が出なかったら、それこそ僕に対する信頼は失墜して「クビ」になっていたので、サンティ二には本当に救われました。感謝…。そしてサンティ二が負傷交代してからは、途中出場したGKマリオが素晴らしいプレーで完封勝利に大貢献。GKの途中出場は非常に難しいのですが、マリオは強心臓ぶりを発揮して、本当に良くやってくれました。「クビ」が懸かった重要過ぎる一戦でGK2人がプレーし、無敗の首位相手に今季初めて土をつけて、今季初の完封勝利…。GKコーチとして、こんなに嬉しい勝利はありません。正に、感無量…。しかも相手は、家族のように慣れ親しんだ「古巣」のレアル・ソシエダ…。この心境を、言葉で表現する事はできません…。


レアル・ソシエダ時代は何度となく撮ってきた恒例の「無失点だった時のみに試合後にGKたちと撮る写真」です!(ちなみにレアル・ソシエダ時代は全22試合中、実に半分の11試合が無失点でした)パリーヤス・オネのGKコーチとして、5試合目にしてやっと今季初めて撮る事ができました!これからもどんどん撮れるよう、GKたちと力を合わせて、魂込めて戦っていきます!(向かって右がサンティ二、左がマリオ。1人、間に変なのが写ってますが、そこら辺は陽気なラテン人という事で…べーっだ!

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -マリオ&サンティ二!VSレアル・ソシエダ!



 そしてこの日は、もう1つ嬉しい事がありました。

 それは、古巣の大歓迎です。

 昨季までのチームメイトであるレアル・ソシエダの選手たち全員から「Yoji、戻ってこいよ」と試合の前後で言われました。正直、僕には、もう彼らは「敵」なのですが、交流しているとまだ「仲間」のようで、不思議と「敵」のようには全く感じる事ができませんでした。まるで、家族のような存在…。しまいには例の会長まで出てきて、僕を見つけるやいなやいきなり抱きついてきて(!)、「Yoji、帰ってこい!」と熱烈なオファーを受けました。…てか、俺を解雇にしたのお前じゃろ!!(汗)

 僕の帰還を歓迎してくれたのは、(レアル・ソシエダの)選手やスタッフたちだけではありませんでした。スタジアム入りするとMCが場内放送で「元レアル・ソシエダの日本人GKコーチ、Yoji Yamano!」と2度に渡ってコールしてくれ、それに対してサポーターも温かい拍手と声援で迎えてくれました。僕はこの瞬間、感動して思わず涙が出そうになりました…。しかも試合後…レアル・ソシエダのサポーターは「今季初の敗北」と「9試合ぶりのホーム敗北」を喫して悔しいはずなのに、僕に対して「Yoji、良くやったぞ!」「Yoji、おめでとう!」と声をかけてくれました。本当にありがとう、みんな…。レアル・ソシエダに関わる全ての人たちに対して、とめどない感謝の気持ちが溢れ出てきました…。

 例の「解雇事件」の後に僕を救ってくれたドン・レネにも会う事ができ、改めて感謝の気持ちを伝える事もできました。



 いろんな意味で今日という日は、僕にとって「一生忘れられない素晴らしい1日」となりました。



※昨季、共に「リーグ最少失点」を達成したレアル・ソシエダのGKサンドロ・カルカモと。

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -サンドロ・カルカモと!2013年9月1日



 現在ホンジュラスで「最も強いチーム」の1つである古巣レアル・ソシエダに今季初の完封勝利し、連敗を「3」で止め最下位を脱出したパリーヤス・オネですが、戦いはまだまだ続いていきます。

 次なる試合はホームでホンジュラス「4大ビッグクラブ」の1つであるモタグアと対戦。


 果たして、ホーム初勝利なるか…?


 またしても「思いもよらない展開」が起ころうとは、この時の僕はまだ知る由もありませんでした…。



※レアル・ソシエダのMFメルガレスと。彼は昨季の準決勝で、ゴール後に僕のために日本の「お辞儀」パフォーマンスをしてくれたのですが、この日の試合前にも「今日もゴール決めたらYojiのためにお辞儀パフォーマンスするからな!」と言ってくれました。それはそれで嬉しかったですが、僕は「ありがとう。…って、いやいや、てか、ゴール決めないでくれよ!」とツッコミました(笑)。

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -メルガレスと!2013年9月1日



※レアル・ソシエダのFWディエゴ・レイエス(向かって右)とMFペーニャと。ディエゴは昨季の活躍で初めてホンジュラス代表にも選ばれ、今年のゴールド杯で代表デビューも果たしました。彼も「お辞儀パフォーマンス」してくれた1人です(その「お辞儀パフォーマンス」の写真は「こちら!矢印のリンク先にあります!)

「日本→中国→アメリカ→イングランド→ホンジュラス→ジャマイカ→パナマ→オーストリア→南アフリカ→日本→シンガポール→日本…」 -ペーニャ、ディエゴと!2013年9月1日!



つづく



◆連絡先メールアドレス: cafehondurasyoji@hotmail.co.jp