マタイ効果…富める者はますます富んでいき、貧しい者はますます貧しくなる富の不公平な二極化の現象。米国の社会学者ロバート・マートンが提唱。新約聖書のマタイ福音書から引用したので、この名がついた。

今回、少し難しい説明から入っていったが、富の偏在というのは何も21世紀だけの問題ではなく、聖書があった2000年前から行われていたことで、富が二極化するというのは、人間の本質のように思える。

いきなり学術的な言葉の引用なのだが、この現象について身に覚えのある読者もいるだろう。

筆者のブログはスポーツのブログなのだが、最近はスポーツ界でもこの「マタイ効果」というのを凄く実感する。

今読んでいる「ヤキュガミ」(原作クロマツ テツロウ・作画 次  恒一・講談社・ヤングマガジン)で主人公の白戸大輔は体格も小柄で母子家庭の貧乏。中学野球最後の大会で体格もいい地元の裕福な家庭の有望選手との対決でホームランを打つも逆転負け。

しかし、その活躍が認められ有力高校からスカウトが来る。ただ最初は白戸も右手の怪我もあって中学で野球を辞めることにしていた。

ところが、白戸が野球を辞める理由は他にあった。母子家庭で貧乏だから高校まで野球を続けるにはカネがかかり過ぎるというのが、本当の理由だった。

こうした問題は野球に限らず、色々ある。これ以降は②に続く。
ボクシング界の世界でいわば必要悪として存在する斬られ役「噛ませ犬」。

その噛ませ犬の99%はボクシング界という華やかな世界からひっそりと消えていくのだが、かつてのイギリスに驚異的なキャリアを誇った史上最強の噛ませ犬が存在した。

そのボクサーの名はピーター・バックリー。1990年代中頃のヨーロッパ中量級で活躍した選手だ。

①でも述べたがボクシングという競技は敗戦というモノが精神のみならず肉体も蝕む競技である。

そのため、競技を運営するコミッションは1勝10敗や2勝8敗1分と言った先の望めないボクサーには強制的な引退勧告をするのが普通だ。

しかし、このバックリーという選手は生涯戦績が32勝(8KO)256敗(!)12分という唯一無二なキャリアを残したボクサーである。

ある意味下手な世界王者よりもインパクトのあるボクサーだった。

この選手は基本的に逃げ足が速いし、防御の技術だけはトップレベル。パンチをまともにもらった試しがない。

そのため、同時期のヨーロッパ中量級のホープで、バンタム級からライト級で上を目指すボクサーは大体はバックリーの「お世話」になった。

それ故にバックリーの裏のリングネームが「Professor(教授)」である。

そんなバックリーと手合わせして有名だったのが、奇想天外なボクシングで名を馳せたWBO・フェザー級王者のナジーム・ハメドだ。

悪魔王子と呼ばれたトリッキーなボクシングでデビュー当初から注目されていたハメドも1994年の1月29日に「教授」のレッスンを受けた。

結果はハメドの6RKO勝ち。ハメドはバックリーの数ある敗戦の中でも、わずかに10しかないKO負けをなすりつけた稀有なボクサーとして、キャリアのレコードに名を残している。

最終的に引退する時にバックリーは噛ませ犬なのに、引退セレモニーもあったという。

こうした噛ませ犬という惨めな存在も、ここまで数をこなせば(冗談抜きで)1つの勲章である。

斬られ役というのも悲しい役回りである。しかし、そんな存在も将来を嘱望される若者に自信を与えるのに必要な立場でもある。

どんな脇役にも存在意義はある。

唐突だが筆者はプロボクシングを観戦する。

そして、プロボクシングという競技は勝ち負けの予想がつきやすいスポーツとも言われている。

ボクシングのテレビ中継に出場するようなエリートボクサーというのは、ほとんど負けがない。

よく世界タイトルマッチに出場するボクサーというので、許されるのは3敗までだ、とも言われている。

当然のことながら、そこまでの高みにまで登り詰めることができなかったボクサーの方が多いわけで、そうした選手は余裕に3敗以上している。

また名門ジムになると2敗したら、日本人選手でも解雇というのはザラにある。拳2つで成り上がりを目指すボクサーも現実はサバイバルな世界だ。

こうした中で、どういうジムでも勝ち頭には勝たせるマッチメイクをさせたいのは会長の親心である。

特に前述の世界タイトルマッチに出場するボクサーのキャリア初期というのは、噛ませ犬がほとんどだ。

ボクシングという競技は負けた時のダメージが、精神面のみならず肉体面をも蝕むスポーツである。

そのため、負けが混んで1勝10敗みたいな戦績のボクサーはコミッションから引退勧告が出ることも普通だ。

そんな心身共に消耗が激しく、負けが許容されないボクシング界でかつて、そのボクシング発祥の地イギリスに「伝説の噛ませ犬」が存在していた。〈②に続く〉