映画「ディア・ファミリー」…お涙頂戴だけではない主張がある. | チャコティの副長日誌

チャコティの副長日誌

主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



製作年:2024年  製作国:日本  上映時間:116分



このところ大泉洋の演技が嫌いなのだ.振り幅が広すぎる、大げさ過ぎる…難点は
数多い.本作それなりに評判も良いようだし、菅野美穂とか福本莉子の演技も
観たいので、DVD回しを避けて劇場鑑賞.本年度累積137本目は近所のシネコンで.
——————————————————

世界で17万人の命を救ったIABP(大動脈内バルーンパンピング)バルーン
カテーテルの誕生にまつわる実話を映画化したヒューマンドラマ.

1970年代.小さな町工場を経営する坪井宣政と妻・陽子の娘である佳美は
生まれつき心臓疾患を抱えており、幼い頃に余命10年を宣告されてしまう.
どこの医療機関でも治すことができないという厳しい現実を突きつけられた宣政は、
娘のために自ら人工心臓を作ることを決意.

知識も経験もない状態からの医療器具開発は限りなく不可能に近かったが、
宣政と陽子は娘を救いたい一心で勉強に励み、有識者に頭を下げ、資金繰りを
して何年も開発に奔走する.しかし佳美の命のリミットは刻一刻と近づいていた.

大泉洋が主人公・宣政を熱演するほか、妻・陽子役を菅野美穂、娘・佳美役を
福本莉子が務めた.主人公のモデルとなった筒井宣政氏と20年以上にわたり
親交のあるノンフィクション作家・清武英利による膨大な取材ソースを基に
「糸」の林民夫が脚本を手がけ、「君の膵臓をたべたい」の月川翔が監督を務めた.

以上は《映画.COM》から転載.
—————————————————————


心配していた大泉洋のオーバーアクトは抑えられていた.監督の仕事だね.
凄く気になったのは70年代の主人公坪井宣政:大泉洋の服装センス.
70年代ってあんなに酷くは無かったと思うのだが、名古屋風だからか?
シャツ、ネクタイ、コート、帽子…全てがちんどん屋みたいだった.

そんなくだらない事に目が行くほど、演者たちの演技は普通で穏やかなもの
であった.みな及第点で、足を引っ張る者は居ない.

菅野美穂はすっかり母親の貫禄、安定感そのものの演技.
「何もしない10年と、やってみる10年.あなたは、どっちを選ぶの?」と
せっつかれたり、事が終わるごとに「次は? 次はどうする?」と迫られるのは
たまったもんじゃない.結局主人公を責め立て上手く操縦したのは内助の功、
であろう.
 

 

人工心臓に関する日本の医療界の姿勢の問題点指摘は、ほんとにこの通り
であろう.大学での親友が大学に残り、ロボット工学の一環で人工心臓も研究
している.理工系からのアプローチで、J医科大とジョイントしているのだが、
会う度にこの日本の医師学会側の堕落、消極的、他力本願的、因習に縛られた
体制への不満を聞かされる.ほんとに信じられないような古くさい体質なのだ.

そんな駄目な医療界に挑むような、下野のモノ作りの精神を主人公:大泉洋は、
発揮してくれる.反権威主義、実証主義、経験を重ね、実験を重ね、実績を積み
あげていく姿勢は目を見張るものが有る.
 

 

モノづくり系の中小企業は、しばしば「多様な技術・技能の担い手」と形容される.
その「多様な技術・技能の担い手」が、日本経済の基盤を根底から支えてきた
だけでなく、モノづくりを通じて、こうやって人の命を救うことにも貢献してきた
ことは尊いと感じた.、これぞ、「ニッポンのモノづくり」であろう.

あざとい予告とは少し趣は異なって感じた.よくあるお涙頂戴系映画と思いきや、
丁寧な話運び、綺麗事では無いリアルで美しい言葉選びによってしっかりと心を
動かされる、正当な人間ドラマに仕上がっていた.

ラストはどこぞの政府系表彰式に主人公夫婦が登壇するシーンなのだが、
夫は「娘の命を救えなかったただの男です」と、その妻は「次はどうする?」って、
背中を押して、魔法の言葉をかける.

誰かのためにしろ、何かに全てをかけて挑む大切さを説く作品.

.