映画「VESPER ヴェスパー」 (DVD)…テーマは良いと思うが物足りない. | チャコティの副長日誌

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主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



原題:VESPER  製作年:2022年
製作国:フランス・リトアニア・ベルギー合作  上映時間:114分



レンタル屋の新作棚で見つけたリトアニア発のSF. 珍しいので借りだしてみた.
本年度累積136本目は近未来の地球を描くダーク・ファンタジーSF.
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壊れて分断された地球を舞台に、絶望的な世界から抜け出そうとする
少女の戦いを独創的かつ壮大な世界観で描いたSFダークファンタジー.

生態系が壊れてしまった地球では、一部の富裕層のみが城塞都市
シタデルに暮らし、貧しい人々は危険な外の世界でわずかな資源を
奪い合いながら生きていた.

外の世界で寝たきりの父と暮らす13歳の少女ヴェスパーは、ある日、
森の中で倒れている女性カメリアを見つける.シタデルの権力者の娘だ
という彼女は、墜落した飛行艇に一緒に乗っていた父を捜してほしいという.

うまくいけばシタデルへの道を切り拓けるかもしれないと考えたヴェスパー
は、父の制止を振り切ってカメリアの頼みを引き受けることに.しかし地域
を支配する残忍なヴェスパーの叔父ヨナスもまた、墜落した飛行艇の
行方を追っていた.

主人公ヴェスパー役は「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」のラフィエラ・
チャップマン.新鋭クリスティーナ・ブオジーテ&ブルーノ・サンペルが
監督を務め、ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭で最高賞に
あたる金鴉賞を受賞した.

以上は《映画.COM》から転載.
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1982年生まれのリトアニア人女性クリスティーナ・ブオジーテと、
1974年生まれのフランス人男性ブルーノ・サンペルという、
珍しい組み合わせの映像作家コンビによる4度目のコラボ作品.

富裕層と貧民層の二極化が進む生態系が崩壊した地球を舞台にする.
ストーリーも派手さはなく、一見退屈になりそうなのに、新鮮で個性的な
SF描写は飽きさせない.風の谷のナウシカ」を彷彿とさせる進化した
不思議な植物で覆われた森や、不思議なドローン、寝たきりの父親との
意思疎通の仕方や、研究ツールなど、どれも独特で面白く、その面では
世界観に没入することができる.

物語の舞台は、遺伝子技術が発展した近未来の地球で、城塞都市
(シタデル)と呼ばれるコロニーのようなものがあり、そこに住めない人間
はサバイバル生活を余儀なくされていた.

シタデルから一代限りの収穫ができる品種改良された種子を受け取り
生活をしていて、ジャグと呼ばれる人造人間を奴隷のように扱っている.

この一代限りの収穫というのは、アメリカの企業が実際に特許取得した
遺伝子組み換え種子では、1度だけ収穫ができたあと2世代目以降の
種子が成長するのを阻害するプログラムが組み込まれているそう.
種苗法改正とか、ターミネーターシード、企業の食糧支配問題をさりげなく
指摘する作品でもある.

森に住居を構えるヴェスパー:ファラエラ・チャップマンは、寝たきりの父
ダリウス:リチャード・ブレイクの世話をしながら遺伝子工学を独学で学んで
研究を行なっている.彼らの住む森は父の兄ヨナス:エディ・マーサンが支配
していて、彼は子どもたちの血液を集めては、シタデルからの物資を独占
していた.
 

 

ある日、シタデルの偵察機が低空飛行しているのに気づいたヴェスパーは、
それが落ちたと思われる場所で、シタデルの住人らしき女性カメリア:
ロージー・マキューアンを救い出すことができた.
同乗者には彼女の父エリウス:エドモンド・デーンがいて、彼はシタデルの
研究者だと言う.
 

 

そこでヴェスパーはヨナスの家にある無線機を使ってシタデルに応援を
呼ぼうとするものの、逆に不審な行動を疑われて偵察機の存在が判って
しまい、ヨナスはエリウスを見つけ出し、何を思ったか殺してしまう.
そして、同乗者のカメリア探しに奔走し始める….

このヨナスを演ずるエディ・マーサンが怪しげで上手い演技を見せる.
なぜかシタデルに子供の血液を納入して多大な利益を得ている.
なぜ子供の血液が必要なのかは証されないが、不老不死に関係して
いるのかもしれない.シタデルに関しては外観だけで中味には全く
言及、表現されない.

 

 

 

その分地上映像は多分に幻想的で、見たこともない植物などが登場し、
イメージはたしかに「風の谷のナウシカ」を思わせるものがある.
カメリアは王族の人間のようなビジュアルをしているが、彼女はエリウスに
よって改良されたジャグであり、彼女の遺伝子には「種子の封印を解く鍵」
が刻まれていた.ヴェスパーはそれを解明してしまう.

そして封印を解いた種子を持って、ヴェスパーとカメリアは逃亡の旅に出る.
父エリウスも自己犠牲を払ってヴェスパーを逃がすのだが、途中カメリアも
自らシタデルの兵士に自らを差し出してしまう.この辺りの精神性表現は
納得ずくなのだが、意外性が無く物語を平坦にしてしまっている.

そんな既視感満載の世界観と人物描写に陥り、説明すべきものがほとんど
説明されないまま終わりを告げる.最後はヴェスパーがピルグリムと
呼ばれる放浪者の塔の上に昇って、そこから封印を解かれた種子をばら撒く
シーンで終わる.

食物統制、遺伝子操作、人工知能の活用とか内含する問題テーマは良い
のだけど、切れが無い雰囲気だけの問題提起になってしまっているのが
残念な作品.

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