映画「アンブッシュ」 (DVD)…イスラム社会内の対立を描く. | チャコティの副長日誌

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主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



原題:Al Kameen  製作年:2021年  
製作国:アラブ首長国連邦・フランス合作  上映時間:111分



レンタル屋の新作棚から、好きな監督名で選んできた作品.
UAE:アラブ首長国連邦の一つ、アブダビの資本で撮られたイエメン内戦を
扱った作品.本年度累積103本目の鑑賞.
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内戦下のイエメンを舞台に、敵軍に囲まれた装甲車の救出に向かったUAE軍
兵士たちの死闘を、実話を基に臨場感たっぷりに活写したミリタリーアクション.

2018年、イエメン南部に駐在するUAE軍の兵士アリ、ビラル、ヒンダシは、
帰国が迫るなか通常任務にあたっていた.彼らは装甲車に乗って戦闘地帯の
住民に支援物資を運びながら渓谷部をパトロールしていたが、待ち伏せ
していた敵に奇襲される.

ゲリラ戦を得意とする敵は、渓谷に身を隠しながらロケット弾や地雷で総攻撃
を仕掛け、最新の武装を施したUAE軍の装甲車でさえも徐々に追い詰められ
ていく.負傷して武器も残りわずかとなり、完全に孤立してしまった3人を救い
出すため、装甲車、ドローン、ヘリコプター、戦闘機と総力を結集して敵陣へ
突入するUAE軍だったが…….

監督は「96時間」「ライリー・ノース 復讐の女神」などアクション作品を得意と
するフランス出身のピエール・モレル.

以上は《映画.COM》から転載.
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「96時間」とか「スクランブル」とスピード感あふれるアクションもので
魅力有る映像を提供してくれるピエール・モレノ監督は好きなタイプ.
そのモレノ監督がUAEのアブダビ資本で撮った戦争アクション作品.

2015年から現在も続くイエメン内戦が舞台.表向きはイスラム同士、
スンニ派とフーシ派の闘いではあるが、スンニ派:政府側はサウジアラビア
が支援、フーシ派:反政府勢力はイランが支援していて、代理戦争の
様相も見られる.イスラム間の争いは私には完全に理解を超えている.

第三者的なUAEはサウジとの関係からイエメンに常駐軍を置いて、
一般市民への食料提供などに任務に就いている.定期的に本国UAEへ
帰国出来ることを楽しみにしている兵士たちが主役.
 

 

イエメンで市民へ食料などを提供していたUAE軍の軍用車が渓谷で
ゲリラに囲まれ怪我人が出て、それを救出するというだけのストーリー.
実話に基づいた話なので、展開はまどろっこしい部分が多く、モレノ監督
らしくない印象.されど、生々しい戦闘シーンではその本領が発揮されていた.

中東系の俳優の見分けが難しい…みな同じような褐色の肌だし、濃い顔
だし、同じような髭をはやしているから(苦笑). 彼らが使うのは4輪の装甲車
なのだが、これが目茶丈夫に出来ている.

銃弾なんかはねのけちゃうし、ランチャー型ロケット砲でも装甲は貫通しない.
さすがに地雷を踏んだり、80mm迫撃砲では自走できないくらいの被害は
でるのだが、とにかく頑丈さに驚いてしまう.ちらりと映ったハンドルの真ん中に
スリーポインテッドスターが見えたから、きっとメルセデス製なのだろう.
 

 

そんな頑丈な装甲車であっても、ゲリラが用意周到に準備した奇襲
(アンブッシュ)により、装甲車2台はスタックして動けなくなる.
周囲360度の敵に囲まれ、果たして救助隊は彼らを助けられるのか?

ゲリラたちはとても優秀で、豊富な地上兵に加えて、迫撃砲部隊、地雷の
設置部隊、そして優秀なスナイパーまで配置している.
このスナイパーの一撃でアル・アルスメリ:マルワーン・アブドゥッラ・サーリフ
は唯一の犠牲者となってしまう.
 

 

ゲリラたちの動きの良いのに比してUAE軍の動きは後手後手に回り、事態は
悪化の方向へ邁進していく.救助隊は次々と地雷を踏んでしまい、救護対象
を増やすばかり.けっきょく攻撃ヘリAH64アパッチノ到着を待つだけ….

そのアパッチに一斉掃射してかなりのゲリラ陣を倒してからも、対空ミサイル
SAMで狙われ始めると、アパッチ墜落を恐れて撤退させてしまう.まだ
倒すべき迫撃砲部隊は残してだ.現場にいない指揮官らしいミスと思う.

最後は現場の指揮官から要請を受けて、F16ファルコンの爆撃を実施.
なんだかちぐはぐな指揮系統、運営作戦の不味さばかりが目立つ.
それでも奇跡的に1名の死者だけで、無事撤退を成功させる.

戦闘は非常にスリリングで、その場にいるような恐ろしさを感じさせるのは
さすがだ.上映時間の大半はこの戦闘場面で占められる.

ラストシーンは、戦死したアル・アルスメリの葬儀の模様と、残された家族
たちの映像.思うのはおなじモスリムでも、ゲリラをおそらく百人以上も
殺して特に何の感傷もないのに、味方は一人死んだだけで荘厳なお葬式
をしていて、命の重さのバランスがおかしい.

アラーの神の下にこんな不公平が許されるのだろうか?
宗派の違いどころでは無いだろう.

とにもかくにも、イスラム社会は不可解なこと多し.