映画「熱のあとに」…陳腐な脚本、未熟な演出. | チャコティの副長日誌

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主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



製作年:2023年 製作国:日本 上映時間:127分



橋本愛の新作が観たくて、柏のキネマ旬報シアターでの封切り作品を.
本年度累積60本目は愛憎を描くドラマ.
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橋本愛が主演を務め、愛する男を殺そうとした過去を持つ女の一途で
狂気的な激情を静謐な映像で描いたドラマ.

自分の愛を貫くため、ホストの隼人を刺し殺そうとして逮捕された沙苗.
事件から6年後、彼女は自分の過去を受け入れてくれる健太とお見合い
結婚し、平穏な日常を過ごしていた.
しかしある日、謎めいた隣人女性・足立が沙苗の前に現れたことから、
運命の歯車が狂い始める.

2019年に起きた新宿ホスト殺人未遂事件から着想を得て描かれる
主人公・沙苗を、橋本が演じ、沙苗の夫・健太役を「すばらしき世界」の
仲野太賀、物語の鍵を握る謎の隣人・足立役を「わたし達はおとな」の
木竜麻生が担当.坂井真紀、木野花、鳴海唯、水上恒司が共演する.

東京藝術大学大学院での修了制作「小さな声で囁いて」で注目された
若手監督・山本英の商業映画デビュー作.2023年・第28回釜山国際
映画祭ニューカレンツ部門、第24回東京フィルメックス・コンペティション
部門出品.

以上は《映画.COM》から転載.
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数年前新宿で起きたホスト殺人未遂事件が発端とはつゆ知らなくて
観始めてしまった.冒頭ヒロイン早苗:橋本愛が金髪のちゃらい男を
血だらけにしてタバコをくゆらせるシーンがあったのだが、新宿の事件は
犯人の女が半狂乱で男への怨みつらみを叫ぶTVニュースの映像が
強烈で、橋本愛のシーンとの連想がまるで繫がらなかった.

この最初の違和感がずーっと最後まで続く.脚本がまったく不全だと思う.
話し、内容がポンポン飛ぶし、得体の知れないキャラクタが突出したり、
謎の行動をとったりして、なにしろ理解が追い付かない.

伏線が無いと言うか、突拍子もないシーンが続出するし、説明も無い.
出てくるどの人物にも共感できず、みんなそれぞれ愛とは…みたいな持論
をぶるのも、共感できなかった要因.小理屈が多いのだ.

大きく捕らえるなら、ホストに貢いで、風俗嬢にまでなって、愛しすぎた男に
対して殺人未遂を起こした女性が、出所6年後にお見合いで知り合い、
結婚するものの、途中でホストの元夫が目の前に現れ、幸せだった夫婦が
少しずつ破滅に向かう…という物語.

余計なエピソードや主題に関係ない出演者とのいざこざが多くて、まったく
物語に集中出来ないし、二人の主役早苗:橋本愛と健太:仲野太賀に
共感も同意も全く出来ない.脚本も悪いが、監督の演出も編集も悪すぎる…(汗).

健太と沙苗は何故結婚したのか?健太は何故いきなり会社の同僚とキスした?
何故健太は同僚の女の子と死のうと思ったのか?
意味不明な感じで展開するストーリーにまったくついて行けず、いらいらする.

それでも、主役二人の演技には観るべきものがあった.
一見狂気のようにも見える橋本愛の演技は快演、いや怪演かもしれない.
刺さなきゃ愛では無い…いう呪いを自分にかけてしまった役柄.殺せなかった事
も何か傷になっているのかも知れない.赤の他人と結婚という檻で、自らをを
拘束してみたが、やはり虚構の世界と気付いてしまう.
 

 

そんな中から腐ってしまった地雷女とわかって結婚した健太:仲野太賀は、
えらいというか、単視眼というか、後先考えていない男を演ずる.
早苗:橋本愛の愛が得られぬがゆえに、事務所内の同僚女に手を出して
みたりもするが、不完全燃焼して最後にはその女に包丁で刺されてしまう.

役者たちの演技だけではやはり映画は成立しない.
後半の見せ場でもある、元ホスト隼人と早苗がプラネタリウムで出逢うシーン.
暗闇の中で、早苗は一方的に隼人に自らの愛の確証?を喋り続ける.

周囲の観客、特に子供がクレームする中、延々と早苗は喋り続ける.
暗闇だから演技や表情は見えない.ただただセリフが続く….
役者が良くても監督の演出がヘボではどうしようもない.ただただ色んな
意味あいで“怖い”シーンであった.

橋本愛は全力でやり切っていると思うが役の深みにハマって重く見ずらい
感じがしてしまった.ひとえに責任は監督の未熟な演出に尽きる.
思いつきが多く、未整理すぎるのだ.

そんなこの監督のこだわりのシーンが本作のラスト.
沙苗はついに再会した隼人について、“時が経ち、お互いが変化していた”と
悟り、と同時に健太との触れ合いを通じて自らに変化があった事にも気付く.

健太もついには沙苗から刺される事を欲するほど、本当の意味で沙苗の
正気に寄り添い始めていた.そして違う女に刺されて退院すると、早苗が
車で迎えに来ていた.

どうにも解決しようのないほど距離のあった2人のそれぞれの結末は、
長い旅路の果てに寄り添い合い、60秒見つめ合う事でついに交わるような
シーンで終わる.

「二人に残されている手段は見つめ合うことしかないんじゃないか」と考えた
インタビューでとい言っていた監督. 交差点のど真ん中でクラクションを
鳴らされながら、サイドブレーキをかけて、60秒間見つめ合う二人のラスト
カットは、世間との接点を閉じるような、映画冒頭のような“愛の形”に解を
帰着させた演出らしい.

未熟な監督の思い込みのシーンにしか見えなかったのは私だけでは無いと思う.