映画「カラフルな魔女」…角野栄子の物語が生まれる暮らし | チャコティの副長日誌

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主役になれない人生を送るおじさんの心の日記.
猫と映画、絵画、写真、音楽、そしてF1をこよなく愛する暇人.
しばし副長の心の彷徨にお付き合いを….



製作年:2024年 製作国:日本 上映時間:96分



実は絵本好き.敬愛する作家:角野栄子のドキュメンタリーがNHK Eテレで何回か
放送されたのを観ていた.今回再編集して追加画像も加えた映画版が上映された.
柏キネマ旬報シアターで観たのは本年度累積37本目.
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「魔女の宅急便」で知られる児童文学作家・角野栄子の日常に4年間にわたって
密着したドキュメンタリー.2020年から22年にかけてEテレにて全10回で放送
された同名番組をもとに、追加撮影と再編集を施して映画版として完成させた.

鎌倉の自宅で“いちご色”の壁や本棚に囲まれながら暮らし、カラフルなファッション
とメガネがトレードマークの角野栄子.代表作「魔女の宅急便」は世界的ロング
セラーとなり、2018年には国際アンデルセン賞・作家賞を受賞した3人目の
日本人となった.

その一方で、5歳で母を亡くして戦争を経験、結婚後は24歳でブラジルに
わたり、34歳で作家デビューするなど波乱万丈な人生を歩みながらも、
持ち前の冒険心と好奇心で数々の苦難を乗り越えてきた.

「想像力こそ、人間が持つ一番の魔法」と語る彼女が、88歳になった今もなお
夢いっぱいな物語を生み出し続ける秘訣を映し出す.

テレビ版で構成・演出を手がけた宮川麻里奈が映画初監督を務め、ロンドンを
拠点に世界的に活躍する作曲家・藤倉大が音楽、俳優の宮崎あおいが語りを担当.

以上は《映画.COM》から転載.
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もう88歳になるそう.いや、まだ88歳というべきか.作中でもさっさっと歩く姿が
映される.カメラマンに気を使って、「(歩くの)早くてごめんなさい」というセリフも.
仕事も朝10時から17時まで、机のMacに向かって、両手でキーボードに打ち込む姿
が撮られている.とにかく、頭も体もいたって元気な88歳だ.



映画は、海が近い鎌倉での生活、いちご色のご自宅、創作風景、おいしそうな
時短メニューなど、角野栄子の日常をちょっとのぞき見するような構成.
ピンクや赤を基調とした“角野カラー”は明るいだけでなく瑞々しい.
年齢行ってからは明るい服装をとよく言われるが、彼女を観ているとほんとに
そう思う.若々しいのだ.

TV版で井の頭動物公園の入場券売り場で65歳以下に見られるシーンがあった.
65歳以上だと割引があるんですが…と受付嬢が角野に言い、88歳だと白状
したら驚かれていた.

この上映のキネマ旬報シアターの観客も、角野に似たポップな服装の女性ばかり
だった.観客の98%は女性…50名位の観客の中、男性は私だけだった(笑).
さながら角野は高齢女性のファッションリーダーみたいな存在だ.服装だけでなく
その眼鏡のポップさも斬新だ.

戦中に生まれ、早くに母を亡くし、大学卒業後は紀伊國屋書店出版部に勤めて、
その後結婚してブラジル移民をしたそう.ブラジルから帰国して何年かしてから
一人娘リオを出産.娘が生まれる前の2、3年、東宝でアルバイトをしたそう.
外国に紹介する映画の資料の要約を英語に翻訳する仕事だったそう.

出産後、30代半ばで作家デビュー.この映画でも紹介されたデビュー作の
「ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて」(1970)は、ブラジルでの生活を基に
したそう.作中でこのルイジンニョ少年(もう老人だが…)との再会シーンも
描かれる.



絵本作家というと、挿絵画家との関係が難しいと思う.イメージ通りの挿絵と
上手く出逢えれば最高の仕事になるのだろうが、なかなか難しそう.
「魔女の宅急便」などは成功例であろう.

宮﨑駿の「魔女の宅急便」で一躍有名になった角野栄子ではあるが、宮﨑駿
は原作を“いじる”から注意していたと語るシーンもあった.宮崎駿版の「魔女の
宅急便」は13歳のキキの旅立ちだけを描くが、角野栄子の原作では第6巻
まであって、キキが結婚して息子トトを生み、トトが13歳で旅立つ所まで
書かれている.

その中で出てくる“うすらうめのジュース”に関するエピソードも映画中で
紹介される.なんと静岡のファンのジャム屋さんが“うすらうめのジャム”を作って
角野に送付してくれたそう.架空の“うすらうめのジュース”が一人歩き
して実現したという夢のような素敵な話しだ.

文と挿絵に話しを戻すと、最近は新しい画家やイラストレーターとのコラボに
注力してきた角野だが、最近は自ら筆を取ることも多いよう.
角野もまず物語を書くときに、いたずら描きのような絵を描いてから始めるそう.
目の前に絵があって、それを文章に直す……そういう風に進めることがあるそう.

 



今、昨年11月に上梓された角野栄子の「おいしいふ〜せん」を読んでいるのだが、
これはエッセイ集なのだけど、挿絵はすべて角野栄子の自筆なのだ.
へたうまの味があるイラスト.読後感想はいずれ後日投稿予定.

本映画のもう一つの売りは…ナレーションが宮崎あおい、なこと.これ大事.
TV版もすべて宮崎あおいだった.「魔女の宅急便」の一部朗読も含め、
彼女ならではスキルと感情のこもったナレーションは得難い味わいだ.

最後に最近完成した、東京江戸川区の「魔法の文学館 角野栄子児童文学館」
が紹介されていた.娘さんのリオさんとの協同デザインの仕事.近いうちに行って
みようと考えている.